伊勢田浩平、勝原盛、関川直昭、中島光隆、杉本強、斉藤真生、玉川進: 中学校での救命事例:消防にできることを考える。プレホスピタルケア 2011;25(1):4-7

 
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伊勢田浩平、勝原盛、関川直昭、中島光隆、杉本強、斉藤真生、玉川進: 中学校での救命事例:消防にできることを考える。プレホスピタルケア 2011;25(1):4-7

 

プレホスピタル・ケア
「各地の取り組み」投稿

中学校での救命事例:消防にできることを考える

伊勢田浩平1)、勝原盛1)、関川直昭1)、中島光隆1)、杉本強1)、斉藤真生1)、玉川進2)
1)留萌消防組合消防署小平(おびら)支署
2)旭川医療センター病理診断科

著者連絡先

 

伊勢田浩平
いせだこうへい

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留萌消防組合消防署小平支署
〒078-3301 北海道留萌郡小平町字小平町
tel 0164-56-2221
fax 0164-56-9022

初めに

救急隊は常に患者と接している。その中には心肺停止例も含まれる。心肺停止患者は何も珍しいことではなく、心肺蘇生(CPR)は日常業務の一つに過ぎない。しかし、一般の人たちにとって目の前で人が倒れ心肺停止になることは一生に一度あるかないかであり、緊迫した状況の中で心肺蘇生を行う重圧は私たちとは比較にならない。

今回私たちは、体育の授業中に心肺停止となった中学生に対して教諭らが心肺蘇生と除細動を行い、社会復帰に至った事例を経験した。この事例を通じ、一般市民に対し消防ができるサポートについて考察する。

事例

中学生男子。

1
養護教諭Bが男子の様子を見ると、うつぶせになり顔は蒼白で意識がない状態であった

体育の授業で体力作りで持久走を行っていたところ男子が体調不良を訴えた。担任Aは男子を体育館隅に休ませ、養護教諭Bを呼んでた。養護教諭Bが男子の様子を見ると、うつぶせになり顔は蒼白で意識がない状態であった。すぐさま左橈骨動脈で脈拍を確認したが触知できず(図1)、呼吸も感じられなかった。養護教諭Bは「このまま死んでしまうかもしれない」と思いながらも、すぐに心肺蘇生を開始した。

担任Aは混乱して「目の前で起こっていることが理解できなかった」が養護教諭Bの心肺蘇生を行っているのを見て我に返り、自分のできることは119番通報であると思い、職員室へ駆けつけた。

2
職員室前の廊下にAEDがある

職員室には教頭Cとたまたま授業がなかった教諭Dの二人がいた。担任Aは二人に男子の様子を告げたあと119番通報した。教諭Dは「とにかく体育館に行かなくては」と教頭Cと体育館に走り出したが、その途中で教頭Cは職員室前の廊下にAEDがあることを思い出し(図2)取りに戻った。

教諭DはAEDを持ち(図3)男子の胸にパッドを貼ろうとしたが、「死んでしまうかも、との恐怖や不安、緊張からパッドがうまく貼れなかった」。

4
意を決して教頭Cが通電ボタンを押した

ショックが必要となり、誰が通電ボタンを押すか4人の教諭全員顔を見合わせたが、意を決して教頭Cが通電ボタンを押した(図4)。発症2分後であった。この時も教頭Cは「本当にボタンを押してよいものか、とても不安であった」。

5
教諭らは消防隊員の到着に「とても心強く」感じた

発症から4分後に消防隊が到着した。教諭らは消防隊員の到着に「とても心強く」感じた(図5)。これ以降は消防隊員が心肺蘇生を行った。発症8分後に心拍再開が再開した。教諭らは「なんとか助かった」と胸をなで下ろした。

発症17分後に救急隊が到着。心電図波形は洞調律のため、補助呼吸を継続した。発症48分後に留萌市立病院へ搬入。発症3時間30分後、道北ドクターヘリにより旭川赤十字病院へ転院搬送された。発症から21日後、留萌市立病院へ転院。26日後に退院。1か月後には中学校へ登校した。現在は発症前と変わらない様子である。

後日使用したAEDの波形をプリントアウトしたところ、発症2分後のパッド装着後は心室細動であり、放電後は心静止となっていた。

6
緊急時の対応マニュアル

この事例後に中学校では全職員を集めて検討会を行った。ここでは新たに緊急時の対応マニュアルの作製が決定された(図6)。

7
警報ブザーを職員室に設置した

ここには救急車の要請、CPRの手順、AEDの使用方法が記載され、職員室の電話機付近に置かれている。また、教育委員会に働きかけ、警報ブザーを職員室に設置した(図7)。

8
携帯発信機は担任が持つ

発信機の設置場所は教室、トイレ、音楽室のほか、携帯発信機(図8)を担任が持ち、ブザーの押された場所にAEDを持って行くことが取決めされた。

考察

9
授業の一環として、普通救命講習会を開催している

当支署は平成12年に救急車の運用をやめ、救急発生時には先遣隊としてポンプ隊が出動するPump-Ambulance (PA)連携をとっている。救急車を配備する消防から当支署までは約20km離れており、バイスタンダーCPRの必要性が不可欠となる。このようなことから、中高生に救命の必要性を認識してもらおうと、学校へ働きかけた結果、平成13年より、授業の一環として、普通救命講習会を開催することができた(図9)。

10
学校での受講生数の推移

以来、学校数を拡大させ、現在までに、約1,200名の中高生が受講している(図10)。

救命講習には生徒だけでなく教諭・職員も受講してもらっている。

今回の事例では教諭らは生徒の死という恐怖におののきながらも、なんとか救命しなければという責任感から無我夢中で対処している。養護教諭は、CPRでの人工呼吸を、口対口で行っている。生徒のことをよく知り、感染症などがないとわかっていたので、ためらうことなく人工呼吸を行ったとのことである。救命に携わった教諭から心境を伺った。「救命講習を受講していたから行動できた」「救命講習を思い出しながらパッドを貼った」などの言葉は、救命講習の重要性を再認識させるものであった。今後当支署としてさらに救命講習の普及活動を行うとともに、受講後にアンケート調査を行い受講者の要望に沿った講習を追求する予定である。

12
当支署では「救急車の利用マニュアル」を管内の全小中学校へ配布している

また、当支署では消防庁救急企画室より配布された「救急車の利用マニュアル」を管内の全小中学校へ配布している(図12)。これを参考に中学校では対応マニュアルを作成した。これ以降も学校の要望を取り入れ、救命処置を収めた教養DVDなどの作成・提供など、サポートを続けていきたいと考えている。

今回の事例は教諭らにとって大変な事件であったが幸いにも生徒に全く後遺症はなかった。この事例を通じ、教諭らの救命に対する意識が大きく変わってきた。この機会を逃さず、さらに学校への働きかけを強めたいと考えている。

結語

(1)心肺停止した中学生男子が教諭らの心肺蘇生によって後遺症なく回復した事例を報告した。

(2)この機会を捉え学校への働きかけを強めたいと考えている


 





 

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