190721最新救急事情(210-2)アドレナリン:昔話はやめよう

 
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最新救急事情
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プレホスピタルケア 2019年6月20日号

最新事情

 

 

アドレナリン:昔話はやめよう

 

 

目次

はじめに

アドレナリンの効果については月刊消防2018年10月号で「アドレナリンは生存率を上げるがそれは神経学的重症患者を増やすだけ」との題名で論じている。この記事から半年経ってまたアドレナリンの論文が出てきたので紹介したい。

現在のアドレナリンの評価

今までの論文を集めて結論を出すメタアナリシスの最新版1)を紹介する。アドレナリンは通常の使用量ではプラセボ(偽薬。ここでは生理食塩水)に比べ自己心拍再開率・生存病院到着率・生存退院率を上昇させる。しかし神経学的に良好な患者の退院率は上昇させない。つまりこれはアドレナリンによって助かったとしても寝たきりなど強い障害を持っての救命を意味する。次に大量のアドレナリンを投与した場合は通常量と比べて自己心拍再開率・生存病院到着率が上昇するが、この検討はエビデンスレベルとしては著しく低いものである。一時期注目された抗利尿ホルモンバソプレッシンとの比較では、バソプレッシンは通常量のアドレナリンと比較して自己心拍再開率は差はないものの生存入院率は上昇させる。これはアドレナリン投与では現場で心拍は再開するもの病院到着前に再び心停止してしまうことを意味している。アドレナリンとバソプレッシンを同時に投与してもアドレナリン通常量と結果は変わらない。

同じ時期にメタアナリシスの結果がもう1編出ている2)。こちらは前向き無作為研究を行なっている論文15編を対象としている。アドレナリン使用群はプラセボ投与群もしくは無投与群と比較し生存入院率と自己心拍再開率は上昇させない。しかし生存退院率と神経学的後遺症の軽い患者の割合を上昇させる

アドレナリンの量と間隔を変える

アドレナリン投与について、現在の日本のプロトコールの多くは「1mg投与。以降5分間隔で1mgずつ投与。3回目以降は医師の指示を受ける」となっている。この量と間隔を変えたらどうなるのかという論文が出た。

筆者ら3)の地域ではアドレナリンの投与は、除細動可能な心電図の場合は1mgを4分間隔、除細動不可能な心電図の場合は1mgを2分間隔で投与していた。この研究では量を半分に、間隔は2倍とした。1回の投与量は0.5mgで間隔は除細動可能なら8分、除細動不可能なら4分である。第一の評価点は生存退院率で第二の評価点は生存退院した患者のうち神経学的後遺症の軽度な割合である。

対象患者は全体で2255例。そのうち除細動可能だった患者は25%fであった。アドレナリンの投与量をブロトコール変更前後で比較すると、除細動可能患者は3.4mgから2.6mgへ、除細動不可能患者では3.5mgから2.8mgへ減少した。生存退院率をプロトコール変更前後で比較すると、除細動可能患者では35.0%から34.2%へ、除細動不可能患者では4.2%から5.1%へと変化したものの統計学的に有意差は認めなかった。神経学的後遺症の軽微な患者の割合も有意差はなかった。

アドレナリンを投与する量と間隔についてはこれと異なる結果も報告されている4)。この論文ではアドレナリン投与を素早く少量投与すれば生存退院率が有意に上昇するとしている。検討はアドレナリンの初回投与時間を5分と7分で比較していて、除細動不可能患者では7分より5分の方が、アドレナリンの投与総量が3mgより2mgのほうが有意に成績が良かった。またアドレナリンが2mg未満で済んだ患者では3mg以上投与を要した患者に比較して神経学的後遺症の軽微な患者の割合が良かったとしている。

日本で行われている1回1mg5分間隔というプロトコールは臨床研究を受けた結果ではなくて、いわば習慣により決められたものである。2つの論文は現行のプロトコルよりアドレナリンの使用量を減らすことを試みている。着眼点は面白いと思うが、その結果は「減らすくらいなら使わなくていいのではないか」と思わせるものであった。

アドレナリンが10mgを越えると助からない

アドレナリンの量が増えれば生存退院率が減る。10mg以上アドレナリンを使った症例は生存退院できない。イギリスからの論文である5)。筆者らは3151例のアドレナリン投与症例を解析し、アドレナリンの使用量と生存単立は負の相関があることを示した。アドレナリン使用量が10mg以上になると生存退院した患者はいなかった。

昔話はやめよう

半年くらいでアドレナリンの評価が変わるはずがないと思っていたし、読んだ論文もその通りであった。月刊消防2018年10月号で紹介した論文6)では編集委員がアドレナリン投与について考え直すよう求めている。今回最初に紹介した論文1)で筆者は「20年以上前からたくさんの研究がなされてきた。治療法が変わり続けている現在において古い知見は現在の治療に反映させないほうがいい」と述べている。昔話はやめて現実を見よ、ということだ。

文献

1)Cochrane Database Syst Rev 2019 17:1

2)Resuscitation 2019;136:54-60

3)Resuscitaion 2018;124:43-8

4)Sigal AP: Resuscitation 2019;Epub

5)Fothergill RT: Resuscitation 2019;Epub

6)N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa1806842.

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