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200406最新救急事情(213-2) 病院外心停止3題

プレホスピタルケア 32巻6号(2019/12/20) p83

最新救急事情

病院外心停止3題

溺水時の人工呼吸は無効?

心肺蘇生に関して最近は新しい動きが全然ない。それでも毎日論文は出てくる。今回は面白そうなものを3つ拾ってみた。

溺水時の人工呼吸は無効

溺水では、患者を水から引き上げたら水面ですぐ人工呼吸を3回(レスキューブリージング)するようになっている。水に溺れて死亡するのは息ができないからなのでレスキューブリージングは当然だし、陸に引き上げた後でも人工呼吸をしなければ助からないと私は思っていたのだが、実際は違うらしい。


琉球大学からの報告である1)。国内の2013年から2016年までのウツタインデータから溺水患者を抜き出し検討した。評価点は1ヶ月後に神経学的に良好な患者の割合である。当該期間中の溺水患者数は5121名。男性は49%で平均年齢は72歳であった。人工呼吸のある心肺蘇生を受けた患者は19%、胸骨圧迫のみ人工呼吸なしの心肺蘇生を受けた患者は81%である。患者の背景を合わせた検討では、人工呼吸あり心肺蘇生で1ヶ月後に神経学的に良好であった患者の割合は7.5%、胸骨圧迫のみ心肺蘇生では6.6%で有意差は認めなかった。

溺水患者のほとんどは水から引き揚げた時には手遅れである。また平均年齢が72歳なので風呂で沈んでいる患者が多いはず。年齢から考えても水温から考えても(冷たい水ほど助かる確率が高くなる)このデータは本当なのだろう。だが、ちょっと納得がいかない。これが若年者だけを比較したら人工呼吸が優位になるかも知れない。また筆者らが述べているように、水の温度や沈んでいる時間などが考慮されていないので、これらのデータがあれば変わるかもしれない。

85歳以上の心肺蘇生はいかがなものか

救急隊員が現場に呼ばれたら、蘇生拒否以外の患者なら90歳であろうが100歳であろうが蘇生しなくてはならない。この超高齢者への蘇生行為は資源の無駄なのではないかという論文が関西医科大学から出た。

大阪における前向き研究である2)。2012年7月から2016年12月までの病院外心停止患者を4群に分けた。(1)18-64歳、(2)65-74歳、(3)75-84歳、(4)85歳以上である。評価点は1ヶ月後に神経学的に良好な生存者の割合とした。4群の人数は(3)が最大で1420名、(4)が最小で824名であった。1ヶ月後に神経学的な生存者の割合は(1)16%, (2)8.7%, (3)4.2%, (4)0.85%であった。多因子解析では転帰に最も影響するのは年齢であった。筆者らは85歳以上の転機が悪いこと、限られた資源のを考えると85歳以上の心肺蘇生は議論が必要であるとしている。

医師なら85歳以上ならまず心肺蘇生はしないだろう。私も医者になりたての時以外では、「家族が来るまで」と言われて少数例で胸骨圧迫をした経験があるだけである。病理医に転じてからは全く経験がない。年齢が予後の最強の因子であることはこの連載でも過去に論じた3)。

高コレステロール患者は心停止から生き延びる

コレステロールと聞けば善玉と悪玉があって、でも高い値になれば早く死ぬようなイメージが普通だろう。実際にコレステロールが高いほど虚血性心疾患の割合は増えるので、日本動脈硬化学会ではコレステロールを下げることを勧めている。だが、このイメージに反してコレステロール値が高いほど生き延びるらしい。

韓国からの報告である4)。筆者らは院外停止患者1616名のうち、成人で心肺蘇生中にコレステロール値を計測した584名を対象とした。総コレステロール値により患者を3群に分けた。総コレルテロール値120mg/dL未満197名、120-199mg/dL322名、200mg以上65名である。生存退院率は120mg以下群で9%であったが、120-199mg群では22%、200mg以上群では26%であり120mg群が有意に生存退院率が低かった。神経学的に良好で退院した割合はそれぞれ4.1%、15%、23%でありこれも有意差を認めている。

ここまで研究するなら善玉と悪玉の値で比較すればいいのにと考えたがそれは載っていなかった。


コレステロールと蘇生に関する過去の研究では総コレステロール値が低くても死亡率は下がらないという論文5)や心停止時にはコレステロールが大量に放出されて心臓の回復に寄与するという動物実験の結果が報告6)されている。コレステロールが心停止時に有利に働くのは、コレステロールが炎症サイトカイン(インターロイキン6やTNFαなど)と結合しそれを中和するからとされている7)。また脳梗塞でもコレステロールが有利に働くことがわかっている。ただこれらの論文で対象としているのは善玉コレステロールのようだ。それに高いコレステロールが役に立つのは人生の最期だけかもしれないので、普段の食生活にはちゃんと気を使おう。

文献

1)Fukuda T: Resuscitation 2019 Aug 22 Epub

2)Nakamura F:Geriatr Gerontol Int. 2019 Oct 17 Epub

3)月刊消防2016年6月号「最新救急事情」

4)Clin Exp Emerg Med v6(3); 2019 sep

5)Nutr Neurosci. 2012 Nov; 15(6):239-43.

6)Neurology. 2005 Oct 25; 65(8):1198-202.

7)Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 ; 90(21):9935-8.

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