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200426最新救急事情(214-2) ハイムリック法:危険性とコツ

プレホスピタルケア 33巻1号(2020/2/20)

最新救急事情

ハイムリック法:危険性とコツ

記事では動画のQRコードが書かれていて、記事を見ながら動画で勉強できるようになっています。 動画はこちらです 東山書房 ...
著者による原図のコピー。ハイムリックは頭を下げて行う

著者による原図のコピー。ハイムリックは頭を下げて行う

年末年始は餅による窒息が多発する。このページを眺める救急隊員の皆様の少なくない数が窒息解除に当たられたことと思う。窒息の解除方法といえばハイムリック法である。近年は腹部突き上げ法とも呼ばれている。


ハイムリック法(腹部突き上げ法)

イギリスの医師であるヘンリー・J・ハイムリックが1974年に医学雑誌に投稿1)したことから、筆者の名前が付いている。題名は「Pop Goes the cafe colonary」カフェコロナリーとはカフェで起きる突然の心臓発作のことで、食事中に肉を喉に詰まられることを指す。Pop goesは飛び出ることで異物除去を指す。論文を読むとハイムリックは犬の麻酔中に腹を押してハイムリック法の効果を確かめているだけで、ヒトへ実施はしていない。だからこの論文は通常の医学論文ではなくエッセイの扱いになっている。論文の最後には「ハイムリック法を使った方は私か私の職場に報告してほしい」とある。その後たくさんの成功例が本人のもとに寄せられたため、ハイムリックはこの方法が窒息除去の唯一の方法であると主張していた。だが「気道異物除去の唯一の方法」というハイムリックのその主張は早期に退けられ、現在では他の方法と組み合わせられることが勧められている。

夥しい数の合併症報告例

ハイムリック法はたくさん物が詰まっている腹を押して横隔膜を押し出す方法なので、副作用の報告も当然多くなる。新しいところを見ると、


(1)67歳男性。

ハイムリック法で気道異物除去位成功した直後から左半身麻痺を来した。スタンフォードA型の大動脈解離が原因であった2)。

(2)18歳男性。

5日前に米を食べて窒息し母親がハイムリック法で窒息解除に成功した。5日後に胸部痛を発症。翌日には頸部に膿瘍を形成したため切開ドレナージを行い、この時点で頸部食道の破裂が発見された3)。

(3)85歳女性。

食事中に窒息しハイムリック法で解除に成功した。翌日に呼吸困難を発症。レントゲン写真では胸腔内に胃が入り込んでいることが確認された。ハイムリック法によって食道裂孔が広がり胃が胸腔内にヘルニアを起こしたものである。その翌日に腹腔鏡手術が行われた4)。

(1)の大動脈解離と(3)の横隔膜ヘルニアはいくつも報告が見つかった。だが、いくら危険だと言ってもやらなければ皆死んでいたことを考えると、致し方ないだろう。


除去時は頭を下げるか寝かせる

異物除去時は寝かせるか上半身を下に下げた方が成功する確率が高くなる。異物除去に重力の助けを借りるためである。考えれば当たり前のことだが、今までは乳幼児の異物除去で推奨されるだけだった。上半身を下げるべきという論文では、例を挙げて説明している5)(図1)。


(1)小児の4例

で頭を下にした3例は腹部突き上げ法で除去に成功したが、1例は頭を下げなかったため除去に失敗した

(2)6歳男児。

足首を掴んで逆さに吊るして、喉頭鏡と指による掻き出しで異物除去に成功

(3)12ヶ月女児。

背部叩法で失敗。上体を下げ、自分の口で女児の口を吸う事で異物除去に成功

(4)著者は

過去に食事中に窒息したことがあり、頭を下げた体勢で異物除去に成功している

信州大学ではマネキンを用いてハイムリック法での呼出圧を測定している6)。それによると成人・小児のいずれのモデルでも立位より仰臥位・伏臥位の方が異物除去率が有意に高かった。小児では伏臥位でのハイムリック法が最も優れた成績であった。


椅子の背もたれを使うといい

窒息した時に自分でハイムリック法をする絵を見たことがあるだろう。私も医者になった時に製薬会社から応急手当ての本をもらい見たことがある。そこには椅子を使って自分で腹を押す絵も描いてあった。椅子はともかく自分で腹を押して除去なんかできないだろうとずっと思っていたところ、イギリスで同じことを考えている人が論文にしてくれた7)。そこでは食道と胃に内圧計を入れ、4つの方法で圧力の変化を確かめている。4つの方法とは(1)ハイムリック(2)治療者が患者の腹に手を回して水平にギュッと締める方法(3)自分でやるハイムリック(4)椅子の背もたれを腹に当てる方法、である。被検者は4人。結果として、食道内圧・胃内圧とも(1)(2)(3)で有意差はなく、椅子の背もたれに自分の腹を押し付ける(4)の方法が有意に高い圧力を出すことができた。
つまり、他人がハイムリック法をやっても自分がハイムリック法をやっても同じ効果があること、それよりも自分で椅子の背もたれに腹を押し付けた方がずっと効果が高いということになる。自分が窒息した時のために覚えていて損はない情報だ。


文献

1)Emerg Med 1974, June, 154-5
2)J Emerg Med 2019;56:210-2
3)Ear Nose Throat J 2018;97:E1-E3
4)Proc (Bayl Univ Med Cent) 2018;31:48-50
5)AIMS Public health 2019;6:154-9
6)Acute Med Surg 2017;4:418-25
7)Thorax 2017;72:576-8


図1
異物除去時の体位。下手な絵だが筆者の原図を真似したらこうなった。

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