200707最新救急事情(215-1) 心肺蘇生ガイドライン2010の成績

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 33巻2号(2020/4/20)

最新救急事情(215)

 

心肺蘇生ガイドライン2010の成績

ガイドラインではボタンを押す前に何するんだっけ

ガイドラインではボタンを押す前に何するんだっけ

 

 

心肺蘇生ガイドラインガイドラインがあと半年で発表になる。読者としてはガイドライン2010から2015になったことでどれだけの変化があったかを知りたいところだが、そういった論文はまだ出ていない。そのため今回はガイドライン2010の効果についてお伝えする。

目次

2005は大幅改善。2010は小幅改善

過去の3つのガイドラインについて、心拍再開率などの比較が出ている1)。筆者らは過去の論文を調べ、ガイドライン2000, 2005, 2010の効果について、新しいガイドラインが施行されることにより心拍再開率や生存率がどの用意変化したか検討した。ガイドライン2000から2005への移行に関する論文は23編、対象患者は4万人。2005への移行によって自己心拍再開率は有意に上昇(p=0.014)し、 生存入院率(p=0.005)、生存退院率(p<0.001)、生存隊員患者のうちで神経学的に良好な割合(p=0.040)についても有意に改善している。ガイドライン2005から2010への移行では論文11編、104万人を対象としている。自己心拍再開率は変化なし(p=0.11)であったが生存退院率は有意に上昇(p<0.001)した。神経学的な評価は2編の論文で検討しているだけだが、両方とも改善を認めている。

ガイドライン2000では2005へ移る時は大幅な変更のため対応に苦労した人も多かっただろう。その苦労が結果に表れたようだ。2005から2010はこれに比べれば大した変化はなかったので小幅改善にとどまっている。2010から2015はもっと変化が少ない。となれば改善はもっと少なくなりそうである。

やはり不要だったアトロピン

アトロピンはガイドライン2005時代は除細動適応のない心停止に対して投与されることになっていたが、ガイドライン2010で投与が廃止された。筆者らはアトロピン投与の有無で生存率が変化したか調査した2)。対象は2006年から2010年までの心停止患者で、除細動適応外20499例と除細動適応3968例。これをガイドライン2005群と2010群に分けた。調査項目は生存退院率、自己心拍再開率、神経学的に良好であった退院率である。ガイドライン2005と2010で患者背景に差はなかった。ガイドライン2005と2010ではアトロピンの使用以外にも変わったところが多いので、アトロピンの使用以外には結果が影響されないように統計処理をした。結果として、除細動適応外患者でのアトロピンの使用は2005では87%であったのに対して2010では35%に、除細動適応患者でも35%から16%へ低下した。調査項目すべてにおいてガイドライン2005と2010で有意な変化は見られなかった。

病院内ではガイドラインの効果は不明

イスラエルの病院からは、ガイドラインが変わっても生存率に変化はなかったという論文が出ている3)。期間を1995年から2005年の前半11年間と2006年から2015年の後半10年間に区切り、二つの期間で心肺蘇生を行なった患者の生存率を比較した。患者に対して心肺蘇生をする割合は、前半が1000人の入院のうち心停止が0.7名であったのに対し後半は1.7人と有意に増加していた。それに対して生存率に有意差はなかった。ただ最初の心電図波形が放電可能であった場合には前半の生存率が入院1000人に対し2.4人であったのに対し後半は4.6人になった。放電可能であった場合には生存率が上昇したにも関わらず全体の生存率に差がみられなかったのは、腎不全の増加などが関係していると筆者は述べている。

それに対し、ガイドライン2010は院内でも有効であったという論文もある。台湾からの報告である4)。患者の対象は単一の病院で、病院内心停止患者1525名をガイドライン2005処置群と2010処置群に分け、生存率と神経学的後遺症の程度などを検討した。その結果、ガイドライン2010処置群の方が虚脱からアドレナリン投与までの時間が有意に短かかった。蘇生後に高体温になる患者の割合も2010群で少なかったが、体温処置をした割合は2010群で高かった。患者背景をマッチさせた後のデータでは、2005群に比べて2010群で神経学的後遺症の軽度の患者の割合も生存退院率も有意に高かった。筆者らはガイドライン2010によって質の高い心肺蘇生が行われたこと、蘇生後脳症の発生に対して適切な処置をしたこと、チームワークが取れていたことをこの結果の理由として挙げている。

病院内での心停止はもともと入院している人が相手なので、病院外の心停止に比べて患者背景が悪い。だからガイドラインの効果は出にくいはずだ。だからイスラエルの論文が正しいのではないかと思う。

ガイドライン2020は内容に大きな変化なし

ガイドライン2005から2010へ変わった時は、理論から手技からずいぶん変わっていて勉強するのが楽しかった。ところが2010から2015では内容に大した変更はなく、エビデンスの序列化の方が目立っていて大した感動はなかった。このエビデンス、AHAの記事を見るとガイドライン2015での勧告のうち半分弱の45%はクラスIIb(やってもいいけど有効性は不明)というレベルであり、ガイドラインのいい加減さが前面に押し出された格好になった。もっともガイドライン2010でもエビデンスレベルはちゃんと記載されていたので、目新しくもなんともなかった。

この5年間で心肺蘇生ついて大した論文が出ていない以上、ガイドライン2020も現行とほとんど同じものが提示されるに違いない。せいぜいアドレナリンのエビデンスレベルが下がるか(いっぺんに禁止になることはないと思われる)、蘇生後の低体温療法では体温をいくらに設定するかくらいだろう。救急隊員の皆さんはのんびりと構えていても大丈夫だ。

文献

1)Nas J:Am J Caardiol 2019 Nov 20 Epub

2)Resuscitation 2019;137:69-77

3)Isr Med Assoc J 2017;19:756-60

4)Int J Cardial 2017;249:214-9

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