201002最新救急事情(216-1) やっぱりマスクが良いようだが

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/6/20日号 p82

最新救急事情(216-1)

やっぱりマスクが良いようだが

 

過去にこの連載で何度も取り上げた「気道確保論争」。大勢としてはバッグバルブマスクが最も良くて、ラリンゲアルマスクや気管挿管は合併症が多いなどマイナス点が多いとされているが、それらに差はないとする論文もある。今回は最近の論文を紹介する。

目次

ラリンゲアル vs マスク vs 挿管

まずは中国からの論文1)。ラリンゲアルマスク(LM)の効果をバックバルブマスク(BVM)と気管挿管を対照として比較したものである。研究方法は過去の論文をまとめて有効性をみるメタアナリシスを用いている。対象となった論文の発表年は2010年から2017年まで。論文は13編。LMとBVMでは患者数は1万3000人、LMと気管挿管では6万人を対象としている。

最初に自己心拍再開率を提示している。パーセントはLM23%、BVM24%で有意差はない。LMと気管挿管では気管挿管48%で有意に自己心拍再開率が高かった。BVMと気管挿管では24%と48%で、有意差はありそうに見えるが計算すると有意差は出なかったとしている。つまり気管挿管>BVM=LMである。次に生存入院率を検討しているがこれも気管挿管>BVM=LMであった。生存退院率は上記2つとは違った結果になっている。BVMがLMより有意に生存退院率が高く、LMと気管挿管の退院率は有意差はなかった。つまりBVM>気管挿管=LMであった。

筆者らは気管挿管による気道管理を強く勧めているが、その根拠は長期の管理に有利であることとしている。しかしこの結果を見ればBVMが最も優れているはずである。

同じテーマで2020年に台湾から論文が出ている2)。こちらではLMをはじめとする上気道資機材が有利としている。同じメタアナリシスで論文数は11、全部の患者数は1万6000人。結果を見ていくと、自己心拍再開率では高い順に上気道資機材>気管挿管>BVMの順であった。長期生存率には違いがなかった。

メタアナリシスの場合は選ぶ論文によって結果が異なってくる。また症例数が多いもの、研究デザインがしっかりしているものに結果が引っ張られる。なので、まあこんなものだと捉えておこう。

マスク vs 気道管理資機材

次は2020年に出たアメリカから出た論文を紹介する3)。BVMをそれ以外の資機材(気管挿管やLMなどの上気道資機材)と比べたものである。ここでは病院到着までBVMのみで気道管理をした群、すぐ気道管理資機材を使った群、当初はBVMで管理して途中から資機材を使った群(BVM→資機材群)の3群に分けている。対象患者は3004例。数はBVM群が282例と全体の1割未満である。資機材群は2129例と大部分を占め、BVM→資機材群は156例しかない。検討項目は自己心拍再開率、72時間後の生存率、生存退院率、神経学的後遺症が軽い患者の割合、誤嚥率である。

患者背景として、BVM群は資機材群に比べて心電図がショック可能であった割合と救急隊員が卒倒を目撃した割合が高かった。BVM群とBVM→資機材群はでは割合は変わらなかった。BVM群は自己心拍再開率では資機材群と差はなかったが、72時間生存率、生存退院率、神経学的後遺症が軽度な患者の割合ではBVM群が高かった。一方、資機材群とBVM→資機材群を比べると、心拍再開率と72時間後の生存率では差がなかったが、生存退院率、神経学的後遺症が軽い患者の割合の割合はBVM→資機材群のほうが高かった。誤嚥率は3群とも差はなかった。

筆者らはこの結果をもって「BVM単独の人工呼吸は病院外心停止の転機を向上させる」としている。果たしてそうだろうか。目の前で卒倒してその心電図が心室細動の患者なら、発見時に心臓が止まっていた患者に比べて助かる確率は高いのではないか。

挿管の成績が悪いのは胸骨圧迫中断のためか

以上挙げた3つの論文ともBVMが優れているという結果である。気管挿管の成績が悪いのは、挿管時に胸骨圧迫を中断するためという指摘がある。これに関してBVMと気管挿管で胸骨圧迫の時間割合(全体の時間に対する胸骨圧迫をしていた時間の割合)を検討した報告がベルギーから出ている4)。2040例の病院外心停止患者のうち、患者背景を揃えた112例ずつで検討した。それによると、背景を揃える前の胸骨圧迫時間は気管挿管で89%, BVMで88%であった。ところが気管挿管と一緒の行為によって胸骨圧迫時間は短くなっていた。有意なものではバッグに繋いで呼吸させること(両肺に空気が入っている確認と思われる)、リズムチェックをすること、自動心臓マッサージ機を装着することである。気管挿管では最初の2分で胸骨圧迫の割合が低くなる。これらの結果が生存退院率に影響しているかは謎だが、少なくとも悪い影響は与えていると考えられる。

それほどの差はない

今回の内容は、数万人を相手にした調査結果でようやく有意差が出る程度の微妙な差である。マスクがいいのは以前から言われていたことではあるが、かと言ってチューブ類に比べて圧倒的に良いわけではない。それぞれの症例に合わせて気道確保の方法を選べばそれでいいのでは、と思う。

文献

1)Ann Transl Med 2019;7:257

2)Wang CH: Ann Emerg Med 2020 Jan Online ahead

3)Lupton JR: Acad Emerg Med 2020 Mar Online ahead

4)Resuscitation 2019;137:35-40

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