220303最新救急事情(223-1) インド型変異ウイルス(デルタ株)と治療薬

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/08/20日号 p88

最新救急事情(223-1)

インド型変異ウイルスと治療薬

特効薬はまだか...

特効薬はまだか…

 

インド型変異ウイルス(デルタ株)と治療薬

新型コロナウイルスは変異株が次々と出てきて、感染終息にはワクチンしかないような状況となっている。今回は変異株と治療薬についてお伝えする。

目次

変異株とは

元々の遺伝子情報とは異なった遺伝子情報を獲得することを変異といい、変異した情報を持つ個体を変異株という。

生物の遺伝子情報はDNA(デオキシリボ核酸)もしくはRNA(リボ核酸)に収納されている。細菌から人に至るまでほとんどの生物はDNAを遺伝子情報として持っている。DNAは頑丈でしかも修正機能がしっかりしている。もし複製時にDNAの塩基配列が一つでも間違えばその配列を取り除き正しい配列に直すか、修復ができない場合には間違ったDNAをもつ細胞を周りの細胞が殺してしまうことによって間違った情報が広がらないようにしている。間違った情報のまま細胞が生き残った代表的な疾患は癌である。

それに対してRNAはチェック機能が緩く間違った塩基配列になっても複製されるため、DNAウイルスより高頻度に変異ウイルスが誕生する。ただ、生存に不利な変異だとそのウイルスは生存競争に負けて消えていき、生存に有利な変異ウイルスが生き残りウイルス市場のシェアを奪っていくことになる。

インド株(デルタ株)の脅威

感染力が高くなる方向に変異するのではなく、感染力を高めた株が生き残るからである。新型コロナウイルスの感染力は、自身が持つスパイクタンパクがヒト細胞の取り付き場所であるACE2受容体とどれだけ親和性が高いかで決まる。

執筆時点で最も恐れられているのはインド型である。インド型については国立感染症研究所から詳細な解説が出ている1)。実験室での検討では、インド型はACE2受容体への結合力が高く感染力が強い。このため抗血清であるモノクロナル抗体の効力を低下させる。さらに回復者血漿での中和抗体価が1/2に低下し(=つまり再び新型コロナウイルスにかかる可能性が高まる)、ファイザー社製のワクチン接種者血漿での中和抗体価が1/3に低下する(ファイザー社製ワクチンが効かない可能性がある)とされている。モデルナ社製ワクチンに付いても中和抗体価が1/7に低下するという報告がある。これらは実験室の検討であり、実際の患者での検討ではない。しかしインドでの爆発的な感染拡大を見ると、整体においても同じことが起こっている可能性が高い。

イギリスでは英国株が発見されたあと、半年で新型コロナ患者のほとんどが英国株に置き換わった。そのイギリスで現在感染の主体がインド株に置き換わりつつあるとの報告があることから、日本でも数ヶ月遅れてインド株が猛威を振るうことになるだろう。この原稿が世に出る頃には東京オリンピックが(開催されるか否かは別として)終了しており、インド株が日本全国で猛威を振るっていないことを願いたい。

 

 

イベルネクチンの効果

次に治療薬について見ていこう。まずは北里大学の大村智教授が静岡県伊東市の地中で発見した放線菌から分離されたイベルネクチン(商品名ストロメクトール)。腸管糞線虫や疥癬の駆除薬として用いられている、犬を飼っている方にとっては犬のフィラリア予防薬(商品名ハートセーバーなど)として毎年お世話になっている薬で、この薬の誕生によって犬の寿命が倍になったというネット記事も見られる。

日本初のノーベル賞薬だから新型コロナに効いて欲しいと私は願っているので、文献を調べてみたがどうも芳しくない。一番新しいエジブトからの報告を見る2)。無作為割付オープンラベル(誰が薬を「飲む」「飲まない」かは無作為に振り分けるが誰に薬を飲ませたかは分かる)試験である。対象は新型コロナウイルスに感染している164例。薬の投与群82例はイベルネクチン12mgを1日1回、3日間投与された。対称群82例は薬は投与されなかった。結果として、投与群は対照群に比べ入院日数が短かった(投与群9日:対照群11日)が有意差はなかった。両群とも3例ずつが人工呼吸器が必要となった。死亡は投与群3例、対照群4例であり、これも有意差は認めなかった。

アビガンはまだ希望がある

 

去年あれだけ騒がれていたアビガンはその名前を最近はとんと聞かなくなった。名古屋市立大学からアビガンについてのメタアナリシス論文3)が出ていて、それによると軽症から中等症の新型コロナ患者には有効らしい。対象としたのは11でそのうち5編が対称群を設けた論文である。アビガンによって治療開始から7日目のウイルスクリアランスが上昇したが、14日目のクリアランスは差がなかった。症状は7日目も14日目もアビガン投与群のようが軽快していたが、その程度は14日目の方が高かった。この結果だけ見るとすぐにも薬事承認できそうなのにまだ承認に至っていない。厳密にデータを取ればこれほどの有意差は無いのだろう。

抗体治療の見通し

新型コロナウイルスに感染すると、その後抗体が作られる。世界中で接種が進められているワクチンは外からウイルスの一部や擬似物質を投入して生体に抗体を作らせるものであり、できた抗体そのものを人体に投入するのが抗体治療である。Natureによれば4)、特異抗体の投与によって軽症から中等症の患者に効果があり、試験参加者の入院や死亡の確率を85~87%減少させたとしている。死亡を8割から9割も減らせるなんて驚きである。しかし、抗体治療薬はとても高価である。また発症の初期段階で使わなければ効果は望めない。発症の初期を過ぎると、症状の原因がウイルスによるものではなく自分自身の免疫反応によるためである。

ワクチンは毎年打つようになる可能性も

上記インド型で見られたように、新型コロナの中にはワクチンの効果を減弱させる方向に変異するものもある。mRNAを使ったワクチンはmRNAの内部をいじることでそれらの変異株への対応が可能であるが、そうなると新株と新ワクチンのいたちごっこが始まることになる。ワクチンを毎年打つようになる可能性もあるということだ。

文献

1)国立感染症研究所 2021年5月21日「SARS-CoV-2の変異株B.1.617系統について(第2報)」
2)Abd-Elsalam S: J Med Virol. 2021 Jun 2. Online ahead of print.
3)BMC Infect Dis 2021 May 27;21(1)489
4)Ledford H: Nature News 2021/03/12, https://www.nature.com/articles/d41586-021-00650-7

 

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