Count per Day
  • 1652018/4/15からの閲覧数:

220505救急活動事例研究 54 予期せぬ転帰となったアルコール依存症肝腎症候群の一例 蕨市消防本部 木村 剛

近代消防 2021/10/10 (2021/11月号) p52-56

救急活動事例研究 54

予期せぬ転帰となったアルコール依存症、肝腎症候群の一例

木村剛

蕨市消防本部

著者

【名前】

木村 剛(きむら たかし)

【所属】

蕨市消防本部総務課警防係

【出身地】

東京都板橋区

【消防士拝命年】

平成17年

【救命士合格年】

平成24年

【趣味】

ボート釣り、キャンプ、スーパーカブ旅

近代消防2021/8,9,10月号 救急現場ノートの作り方 著者紹介 【名前】 木村 剛(きむら たかし) 【所属】 蕨市消防本...

はじめに

肝腎症候群とは、非代償機の肝機能障害がベースにある傷病者が、ある契機により腎機能障害を合併するものである。肝不全末期や劇症肝炎で多く見られる。腎臓の血管収縮と全身の血管拡張により腎血流量が低下し、急性の腎機能障害が起こる。劇症型では致死率も高い。

アルコール依存症の傷病者の中には、重篤な肝機能低下、腎機能低下が潜んでいることがある。先入観に捉われず、身体所見・バイタルサインから病態を見抜くことが重要となる。今回私が経験した症例をもとに、肝腎症候群という病態について考察を加えた。

症例

覚知日時はxx年x月x日、16時41分覚知。47歳女性、悪寒・腹痛との内容で出動した。背景としてアルコール依存症と鬱病があり、ここ最近は頻回な救急要請があった。既往歴は膵炎、胆石症、乳癌。

傷病者はアパート1階居室内の居間に仰臥位で意識障害を呈しており(001)、小学校低学年の娘が傷病者に寄り添っていた。部屋の中は、ウイスキーボトルが散乱し、荒れ果てていた(002)。

初期評価では橈骨動脈は微弱であり、SpO2測定不能。四肢末梢は冷たかった。この段階ではショックとは認識できなかった。その他の所見として、眼球黄染や口腔内乾燥が見られた(003)。

現場でのバイタルサインを表1に示す。意識障害の鑑別のため血糖測定を実施すると66mg/dLであった。意識はJCS20、心電図ではT波増高が見られた。

収容依頼に関しては、糖尿病の既往歴のない低血糖ということ及び埼玉県で整備した救急医療情報支援システムのタブレット端末で医療機関の応需状況を確認すると大変混み合っており、収容依頼が難航した。

心電図を004に示す。今まで見たことのない心電図で、改めて観察すると、ワイドQRSであり、異常に大きなT波であった。後の検証で医師より、心電図を見て重症のスイッチを入れるべきであるとの助言を得た。

001

傷病者は居室内の居間に仰臥位で意識障害を呈していた

002

部屋の中は、ウイスキーボトルが散乱し、荒れ果てていた

003

身体所見

004

車内収容後の標準肢誘導心電図

表1

現場でのバイタルサイン

車内収容直後のバイタルサインを表2に示す。脈拍数上昇と血圧低値を認め、口腔内乾燥から循環血液量減少性ショックを疑い心肺停止前静脈路確保の指示要請を実施した。

穿刺血管の選定中に不穏が出現した。隊員に右上肢把持を命じ、右肘正中皮静脈を20G針で確保の後、急速輸液を開始した。この時点で重症対応へ切り替えるも収容依頼が難航しており、決定には至らなかった。心電図が気になることから、12誘導心電図を装着した(005)。

この時点で、不穏の出現は低血糖の進行によるものと考え、医師に血糖再測定の助言を求め、血糖測定を実施。結果は49mg/dLと低血糖の進行を認めた。ブドウ糖溶液を投与すると、意識レベルは改善を見せ、JCS20RからJCS2となり不穏は消失した。SpO2は酸素高濃度マスク10L/分投与を実施していたが測定不能であった。

意識レベル改善後のバイタルサインを表3に示す。ここで東京都内の二次医療機関に搬送が決定し、搬送を開始した。

東京都内の二次医療機関での傷病名は、低血糖・ショック。程度は重症であった。血液検査では肝機能異常、腎機能異常が指摘された。本隊が引き揚げた後に、傷病者の容態変化があり、意識レベルJCS200となり、間もなくplussressVTが出現し、除細動を実施した。心拍再開後、東京都内の高度救命救急センターへ転送となったが、同日22時51分(覚知から6時間10分後)、多臓器不全のため死亡した。

表2

車内収容直後のバイタルサイン

005

12誘導心電図

表3

意識レベル改善後のバイタルサイン

考察

アルコール依存症の傷病者には、重篤な肝機能低下・腎機能低下が潜んでいる。肝機能不全と腎機能不全が急激に発症する肝腎症候群に陥る可能性があり、本例を通じ存在を伝えたいと考えた。精神疾患・アルコール依存症の頻回救急要請者という情報はひとまず置いておき、先入観に捉われず、身体所見とバイタルサインから病態を見抜くことが重要である。私たち救急隊員は、観て察するという観察を実施しなければならない。以下に本症例のポイントを記す。

(1)二次性低血糖について

既往現病歴に糖尿病はなく、インスリンや糖尿病薬の服用とは関係ない人の低血糖は、重大な疾患が隠れていることがあり、注意が必要である。二次性糖尿病の主な原因は慢性アルコール中毒、敗血症、肝機能障害・肝不全などがある。これらは全て医療機関の受け入れが困難となる要因である。二次性低血糖の特徴は、慢性的な低血糖状態に曝されており、無症状であることが多く、救急搬送される頃には意識レベルが悪いことがあり、JCSⅢ桁であることも珍しくない。

(2)アルコール依存症について

もともとの全身状態が悪く、慢性的な肝機能不全があり、感染症などを契機に敗血症性ショック・DICとなり、重症化することがある。二次性低血糖では重症のスイッチを一つ上げるという思考が必要となる。

(3)重症を見抜くポイント

素直に身体所見からショックと判断すること、心電図を正確に評価すること、精神疾患・アルコール依存症の頻回救急要請者という先入観を捨てることである。

結論

(1)肝腎症候群で急激な転帰をたどったアルコール依存症の一例を報告した。

(2)先入観に捉われず、身体所見とバイタルサインから病態を見抜くことが重要である

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする