220513最新救急事情(224-1)心肺停止患者の予後を改善させるためには

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/10/20日号

最新救急事情(224-1)

胸骨圧迫は50-60mmの深さを守ること

胸骨圧迫が深くなるほど生存退院率が増える。2007年から2015年7月までのアメリカとカナダでの心停止5434例を調査した結果が出ている1)。患者の平均年齢は64歳で、救急外来到着時に自己心拍が再開していたのは26%、生存退院率は8%、平均の胸骨圧迫の深さは46mmである。胸骨圧迫の深さが平均で38mm未満の症例群に対して、その深さが38-51mmの群では生存退院率は1.15倍に、50mm以上の群では1.17倍となっていた。またガイドライン2015で求められている50-60mmの深さに限定すると生存退院率は1.33倍にもなる。

目新しい話ではないが、救命講習などで胸骨圧迫の手技を教える時に使えそうだ。

目次

気管挿管は一発で決めよう

挿管に手間取ると神経学的後遺症の重い患者が増えるという論文2)。アメリカのシアトルから出ている。2015年から2019年で気管挿管を受けた病院外心停止患者1205例について、気管挿管を試みた回数と神経学的後遺症の軽微な症例の割合を比較した。その結果、1回の試技で挿管完了した(全体の63%)場合は試技時間は4.9分で後遺症の軽い患者の割合は11%であった。同様に2回試技(全体の23%)では8分と4%、3回試技(10%)では11分と3%、4回試技(4%)では16分と2%であった。
胸骨圧迫をしない時間が長くなると患者の予後は悪化というのは他の論文で知っていた。試技を4回行えば16分間は胸骨圧迫がおろそかになるので、予後悪化は避けられないだろう。

気道確保器具を用いたほうが自己心拍再開率は上がるようだが

マスク換気で病院搬送するより気道確保器具を用いたほうが心拍再開率は良いという論文3)。富山大学から出ている。2015年から2017年までに発生した非外傷性の病院外心停止283例のうち条件に合わない35例を除外した248例を検討対象とした。気道確保器具を用いた症例は163例。内訳はラリンゲアルチューブ58例、気管挿管50例、i-gel 2例である。バックバルブマスクで気道確保したのは86例。この2つの群で胸骨圧迫比率(chest compression fraction, CCF)と自己心拍再開率を比較した。その結果、CCFは気道確保器具群で89%, マスク群で84%。自己心拍再開率は器具群で90%、マスク群で87%であった。いずれも器具群がマスク軍に対し有意に優れていた。気道確保器具を用いることで換気が容易になり、救急隊員の負担軽減となることからCCFも自己心拍再開率もよくなったのだろう。
この論文では生存退院率や神経学的後遺症の程度については書かれていない。現在は1ヶ月後の生存率と神経学的後遺症の有無で手技を評価するのがスタンダードである。データを持っていないとは考えづらいため、わざと触れなかったのだろう。

口頭指導は生存率上昇に結びつかない

ガイドラインが新しくなるたびに通信指令員による口頭指導の重要性が強調される。この口頭指導について金沢大学から報告が出た4)。対象は日本国内の目撃のある卒倒患者でバイスタンダー心肺蘇生を受けていた5万9688例。このうち口頭指導を受けていたのが4万2709例、受けていないのが1万6979例である。AEDをつけた時に放電可能だった割合は口頭指導群で20.4%、非指導群で18.5%であり、患者背景をマッチさせた後でも有意差を認めた。しかし1ヶ月後の生存率と神経学的後遺症をほとんど認めない患者の割合については有意差はなかった。
放電可能な症例が口頭指導群で多いのは、指導により胸骨圧迫をしっかり行えるようになるからだろう。しかしそれは生存率向上には結びつかない。ではどうすればいいのか。モヤモヤする論文である。

早期に気管内視鏡検査をする

ドイツからの論文。救急隊向けではないが面白かったので紹介する。入院後早期に気管内視鏡検査をすれば抜管できる可能性が高まるという話である5)。2013年から2018年までの6年間で院外心停止で集中治療室に搬入された患者に対して、初めての気管内視鏡が行われた時間が入室後48時間未満か48時間以降かの2群に分けて患者の転帰を調査したものである。期間中に集中治療室に入室したのは190例。164例が24時間以上生存し、111例に気管支内視鏡が行われた。48時間後の気管支内視鏡検査は第5病日と第7病日に行われている。
入室後48時間未満に気管内視鏡検査が行われたのが91例、48時間以降に行われたのが20例であった。調査は入室5日目と7日目での気管挿管している人の割合である。5日目の時点で、48時間以内に検査を行った群で気管挿管を受けている割合は55%なのに対して48時間以降では87%であった。7日目の時点では48時間以内で43%であり48時間以降では80%であった。 早く気管内視鏡検査位を行えば抜管できる理由は、筆者らによると肺炎を防止できるからだという。内視鏡は中を覗くだけではなく、痰や異物の吸引もできる。この吸引により肺炎発症を防止しているのではないかとしている。

文献

1)Nichol G: Resuscitation 2021 Jul 28 Online adead
2)Murphy D:Resuscitaion 2021 Jul 13, Online adead
3)Opne Access Emerg Med 2021 Jul 12;13:305-310
4)Y Goto: Eur J Emerg Med 2021 Aug 2, Online adead
5)J Clin Med 2021 Jul;10(14):3055

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