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220602救急活動事例研究 55 意識障害の傷病者の所持品から低血糖を疑い、ブドウ糖投与を行った一例 栃木市消防本部栃木市消防署 落合 聡

     近代消防 2021/11/10 (2021/12月号)

救急活動事例研究 55

意識障害の傷病者の所持品から低血糖を疑い、ブドウ糖投与を行った一例

栃木市消防本部栃木市消防署

落合 聡

著者

・名前 落合聡 (おちあいさとる)

ochiai.JPG

・所属 栃木市消防本部栃木市消防署

・出身地 栃木県栃木市

・拝命年 平成20年採用

・救命士合格 平成28年

・趣味 バスケットボール、ロードバイク

1.栃木市及び消防本部の概要について

本市は栃木県の南部に位置し、管内面積331.5K㎡、人口は約16万人で、江戸時代から市内を流れる巴波川(うずまがわ)を利用した江戸との舟運と、例幣使街道の宿場町として栄えた商都である。市街地には戦禍を免れた江戸・明治時代の蔵造りの家屋が街並みとして保存されていることから「蔵の街」として知られ、観光地としても人気が高く映画やドラマのロケ地にもなっている。

市南部にある渡良瀬遊水地は、東京ドーム約700倍の広大な面積を有し、本州最大級のラムサール条約登録湿地に指定され、四季折々のさまざまな景色を魅せてくれる。

消防本部については、1消防本部1消防署5分署の構成で、職員定数204名、救急救命士は56名(薬剤認定50名、気管挿管認定38名、処置拡大認定43名、ビデオ喉頭鏡認定2名、指導救命士4名:令和2年4月1日現在)である。救急車両8台(予備車1台を含む)を運用し、令和元年中の出動件数は7,052件である。

2.目的

意識障害(JCS Ⅱ-30)のみられる傷病者で、現場に家族や知人もおらず本人情報が取れない状況で、本人の所持品から低血糖を疑い現場でブドウ糖を投与し、意識回復後かかり付け医療機関へ搬送した事例を経験したので報告する。

3.症例

60歳男性。

既往歴:高血圧、糖尿病

現場はアミューズメント施設。一人で施設を訪れ、19時30分頃ゲームコーナーでメダルゲームをしていたところ、椅子から崩れ落ちカーペットの床に倒れたため、目撃した店員から救急要請(001)。

接触時、傷病者はゲームコーナーの床に仰臥位でおり不穏状態であった(002)。観察する隊員の大腿部や臀部をつねる行動がみられ、抑制が必要だった。接触時のバイタルサインを表1に示す。

表1

接触時のバイタルサイン
意識 Ⅱ-30(JCS)
呼吸 18回/分
脈拍 78回/分
瞳孔 左右3㎜、対光反射あり
外表面 明らかなの損傷なし

麻痺 なし

001
ゲーム中に床に倒れた

002
傷病者はゲームコーナーの床に仰臥位でおり不穏状態

店員から状況を聴取したところ、常連客であるが名前等詳細は分からなかった。現場には家族や知人はおらず、本人情報は得られなかった。

本人が着けていたウエストポーチを探っていたところ、免許証等の本人確認が出来る情報はなかったものの、飴玉が大量に入っていた(003)ことから低血糖を疑った(過去の事案で、低血糖の傷病者が飴玉を持ち歩いていたのを経験していたため)。

意識障害の鑑別のため血糖値の測定を実施した結果、血糖値31㎎/dlだった。

不穏状態は継続していたため隊員が四肢を抑制したが、傷病者はもの凄い力のため、対応が困難であった。搬送時間7分にある直近2次のA病院へ受入要請したが、処置困難の為受入不能の回答だった。次に近い3次のB病院へ搬送した場合、所要約25分かかることから、搬送中隊員に危害が及ぶことを懸念し現場でブドウ糖投与を行うことが最善と判断し(004)、B病院へ受入要請すると共にMC医へ心肺停止前静脈路確保及びブドウ糖投与を指示要請したところ受入可能及び指示が得られた。現場救急車内で隊員が傷病者を抑制しながら静脈路確保及びブドウ糖投与を実施し、ブドウ糖2投目投与中に意識が回復した。意識回復後のバイタルサインを表2に示す。

表2

意識回復後のバイタルサイン

意識 Ⅰ-1(JCS)

呼吸 18回/分

脈拍 78回/分

血圧 178/81 ㎜Hg

SpO2 99%

主訴 なし

003
ウエストポーチに大量の飴玉が入っていた

004
搬送中隊員に危害が及ぶことを懸念し現場でブドウ糖投与を行うことが最善と判断した

本人から主訴・状況等聴取した結果、糖尿病で直近のA病院にかかり付けであることが分かり、再度A病院へ受入要請し搬送した。病院到着次のバイタルサインを表3に示す。初診時診断名は低血糖発作(中等症)であった。

本事例の時系列を表4に示す

表3

病院到着時バイタルサイン

意識 0(JCS)

呼吸 18回/分

脈拍 78回/分

血圧 176/89 ㎜Hg

SpO2 99%

主訴 なし

表4

時系列

考察

意識障害により本人から主訴・既往症の聴取が出来ず、家族や知人のいない現場において、観察結果及び本人の所持品から意識障害の原因が低血糖であると判断し現場でブドウ糖を投与、意識回復しかかり付け病院へ搬送した症例を経験した。

接触時から不穏状態で力がとても強く、抑制する隊員の体をつねるなど現場は緊迫しており、早期の医療機関への搬送が考えられたが、搬送中隊員に危害が及ぶことを懸念、傷病者の意識回復が現状を打破する最善の方策と考え、現場でブドウ糖投与を行うことを判断した。

傷病者の体の抑制を継続し、細心の注意を払いながら静脈路確保及びブドウ糖投与を実施、傷病者の意識回復により本人かかり付けの直近2次病院へ搬送した。

情報の収集に難渋し、不穏状態の傷病者の抑制に苦慮した事案だったが、所持品の飴玉から低血糖を疑い、現場でのブドウ糖投与を優先させたことにより、症状の悪化、被害の軽減を図り、最良の結果を得る事が出来たと判断している。

しかしながら不穏状態の傷病者に対する静脈路確保は、針刺し事故などのリスクを伴うことから、本隊の活動は必ずしも正しいとは言えず、臨場の救急救命士、救急隊長の判断や隊の状況によって活動内容は変わるだろう。

今回の報告が今後の活動の参考になれば幸いである。

結論

1)本人のウエストポーチに飴玉が大量に入っていたことから低血糖を疑い現場でブドウ糖を投与し意識回復に至った事例を経験した。

2)不穏状態での静脈路確保について考察した。

ここがポイント

ウエストポーチに飴玉がたくさん入っていたことから低血糖昏睡を疑い、救急車内で意識回復を得た症例報告である。過去の経験が行かされた症例と言える。

産業医科大学から、インスリン使用中の2型糖尿病患者で低血糖発作を起こす患者背景が報告されている1)。それによると低血糖発作を起こす患者は起こさない患者に比べて平均年齢が高く(72歳:58歳)糖尿病の病悩期間が長く(25年:13年)、インスリンの基本投与単位数は有意差はなかったものの、血糖上昇時に一次的に投与するインスリン単位が多かった(26単位:16単位)。また当然ながら病院到着時の血糖値も低かった(31mg/dL:44mg/dL)。一方で太り具合(BMI)とHBA1cには有意差は見られなかった。簡単に結論すると、高齢者ほど低血糖発作を起こしやすく、それは血糖値のコントロールの良し悪しとは関係ないことになる。今回のような全く知らない人が倒れていた場合には参考にはならないが、家族で糖尿病の人がいる場合には参考にして欲しい。

1)Internal Med 2018;57:2923-7

肝腎症候群とは、非代償機の肝機能障害がベースにある傷病者が、ある契機により腎機能障害を合併するものである。肝不全末期や劇症肝炎で多く見られる。腎臓の血管収縮と全身の血管拡張により腎血流量が低下し、急性の腎機能障害が起こる。劇症型では致死率も高い。

アルコール依存症の傷病者の中には、重篤な肝機能低下、腎機能低下が潜んでいることがある。先入観に捉われず、身体所見・バイタルサインから病態を見抜くことが重要となる。今回私が経験した症例をもとに、肝腎症候群という病態について考察を加えた。

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