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221120救急活動事例研究 60「場」を理解する 堺市消防局 河原利之

近代消防 2021/04/10 (2022/5月号) 

救急活動事例研究 60

氏名  河原 利之(かわはら としゆき)

所属  堺市消防局救急部救急課

課長補佐

出身  大阪府堺市

経歴  平成 元年 消防士拝命

平成 7年 救急隊員

平成16年 救急救命士

平成18年 気管挿管認定

平成21年 薬剤認定

平成27年 ビデオ挿管認定・拡大2行為認定

平成29年 指導救命士認定

趣味  読書

1.「場」について考える

問1:広い体育館での意識障害と内開きのトイレでの意識障害、どちらが活動スペースの確保は容易でしょうか?

問2:タンスに足をぶつけた人とタンスに挟まれた人、どちらがスムーズな救急活動ができるのでしょうか?

問3:近隣に多くの病院がある都市型の地域と遠方に基幹病院があるような郊外型の地域、活動方針は変わるのでしょうか?

救急現場における「場」には、「活動スペース」「活動時間」「搬送距離」など多くの要素が存在します。「場」の違いにより、現場から離脱するタイミングを考える必要があります。

2.「場」を認識する

現場で収集した情報を評価し離脱するための活動方針を決定する必要があることから、「訓練シナリオ」を使用した座学を実施しました。対象者は90名となります(001)。当局でも大学や専門学校で救命士の資格を取得しているものがおり、全ての救命士に隊長の経験があるわけではありません。

では、救命士が必要とする活動の全体図を002に示します。救命士は「プロトコル」「場の把握」「病態の把握」「医療機関の状況」これらの情報から判断し「処置」や「搬送」の離脱の判断を行います。

まずは、傷病者の病態のみを把握し、どのような活動をするのか考えてみます。

「60歳男性、外傷による出血が継続している」ここで、バイタルサインの変化など自由に考えます(003)。多種多様な意見が言えるように、最初に付与する想定は漠然とした内容とします。次にバイタルサインを付与します。「脈拍100回/分、血圧100/60㎜Hg」傷病者の状態を考え活動方針を自由に決定します。

次に受傷機転について「バイクの横転事故」と付与します(004)。「場」の評価について意識してもらい活動方針を再度考えます(005)。この時点で参加者全員が「ショック」であることを認識し、90人中85人(94%)の者が早期搬送を認識しています。

さらに③の「場の状況」のみを変化させます。「車内閉じ込め、救出に20分」と付与します(006)。もう一度活動方針について考え、自由に意見を言ってもらいます。これにより各々が傷病者の「場」の変化を把握し、活動の判断がどのように変化したのか自覚させます(007)。

001

訓練シナリオに参加した救急隊員の内訳

002

救急救命士活動の全体

003

この時点では「場」の把握は不要

004

「バイクの横転事故」を加える

005

「場」の評価が必要になる

006

「場」だけを変化させる

007

「場」が変わると判断も変わる

3.資格と経験

救命士と救急隊員がどのように認識したのかグラフに示します(008)。検定はフィッシャーの正確確率検定でp<0.05を有意差ありとしました。ロードアンドゴーはほぼ全員が早い段階で認識しています。次にショックに対する輸液ですが、救命士が認識している割合が多くなっています。ドクターカーの要請についても救命士の割合が多くなっていますが、時間については、割合はあまり変わりませんでした。この「ショック輸液」「ドクターカー」「時間」については、「訓練シナリオ」の「場」を変化させた後の認識となります。グラフ中の「時間の認識」とは、受傷機転の変化による「場」の変化に伴い「時間」も変化することを理解したものを「認識」としています。

同様に隊長経験について、「ある」場合と「ない」場合で比べてみました(009)。008の救命士と救急隊員と比較した時とあまり変わらない割合のようにみえます。しかし、少し詳しく見ていくと、「ショック輸液」については、隊長経験の有無により認識に有意差があります(010)。残念なことですが、救命士資格の有無は輸液する・しないの判断に影響しません。隊長経験の有無が判断に影響するのです。「時間」に関する認識も経験による有意差を認めており(011)、救命士資格は影響しません。「時間」による離脱判断の違いは、今までの救急活動の経験に関係していることが分かります。

ここまで示したように、現場を適切に判断するためには「場」を評価し、多数の「情報」を適切に解釈しなければなりません。

008

救命士と救急隊員との認識の違い

009

隊長経験の有無による認識の違い

010

「ショック輸液」は隊長経験の有無で有意差が見られる

011

「時間」も隊長経験の有無で有意差が見られる

4.経験を伝える

そこで、私たち指導救命士が質の高い経験を「コルブの学習サイクル」を応用し後輩に伝えていかなければならないと考えました。

「コルブの学習サイクル」とは、012のとおり、「具体的経験」を多様な観点から振り返る「省察的観察」を行い、他の状況で応用できるように理論を作り上げる「抽象的概念化」、そして、その理論を試す「能動的実践」を行うというサイクルを回すことで、経験が知識に変換されるよう促すサイクルです。それでは、今回実施した「訓練シナリオ」を当てはめて考えてみたいと思います。

まず「60歳男性、外傷による出血が継続」との付与で、「出血」を経験することになります(013)。次に「脈拍100回/分、血圧100/60㎜Hg」を観察(014)することで、「ショック」を認識し概念化する(015)ことになります。そして、「早期搬送」を実践する(015)仕組みとなります。これで、救急隊員は出血によるバイタルサインの崩れは「ショック状態」となり早期搬送が必要ということを知識として身につけることができます。

では、もう一度、「出血」を経験し「頻脈」と「血圧低下」を観察し「ショック」であることを概念化します。しかし、「車内閉じ込め、救出に20分必要」という「場」の違いがあれば、「搬送ができない」「搬送しない」という行動をとらざるを得ません(017)。すると、出血が継続することを経験(018)し、搬送を開始することができるまでに時間が必要であることを認識します(019)。ショックが進行(020)し容態が悪くなることを想像し、ショックに対する輸液を実施する(021)こととなります。熟達者である救急隊長はこのような経験も踏まえ、「出血」を経験した段階で、「バイタルサイン」のほかに「時間」という「場」についても観察しています(022)。「ショック」であることだけを推測するのではなく、これからの状態が悪化することも想像しています。

この経験は後輩の救命士に伝えなければなりません。「コルブの学習サイクル」を利用し、熟達者の経験を初心者に擬似体験させることで知識と思考を構築し概念化することが可能と考えます。

012

コルブの学習サイクル

013

具体的経験=「出血」

014

省察的観察=「頻脈・血圧低下」

015

抽象的概念化=「ショック」

016

能動的実践=「早期搬送」

017

ここで能動的実践=「搬送不可」とすると

018

具体的経験=「出血継続」となり

019

省察的観察=「時間」が入ってくる

020

抽象的概念化=「ショック増悪」

021

能動的実践=「ショック輸液」を行うことになる

022

救急隊長の考察過程

5.まとめ

救急現場は多様であり、「場」について最も理解しなければならないのが救命士です。私たち救命士が現場を把握し離脱する判断を培い、後輩に伝え教えていくことは必須です。救命士発足30年となる今、救急現場のプロとして力を付けていかなければならないと考えます。

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