221206最新救急事情(228)マスクでは新型コロナ感染予防はできない

 
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最新救急事情

月刊消防 2022/05/01号 p54-5

最新救急事情(228)
マスクでは新型コロナ感染予防はできない

 
 
 

新型コロナが日本に入ってきてから、外出時にはマスクが必須となった。だが、何のためにマスクをするのか考えたことはあるだろうか。

目次


唯一の前向き研究


デンマークで2020年4月から5月にかけて行われた研究1)では、3030人がマスク群、2994人が非マスク群として登録された。マスク群は外出時に必ずマスクを着用する。マスクは耳ゴムタイプの3層構造の使い捨てマスクを使った。1ヶ月の研究終了時に血中のコロナ抗体検査と鼻スワブのPCRコロナ検査を行った。
1ヶ月後にコロナ感染を確認したのはマスク群で42人(1.8%)、非マスク群53人(2.1%)であり有意差は認めなかった。対象群の患者背景を揃えた計算でも有意差はなかった。またこの研究では新型コロナ以外の呼吸器感染症の検査も行っているが、それらについてもマスクのあるなしで感染した割合に有意差はなかった
アメリカで13歳以上の37万人を対象とした調査2)でも、マスク単独では感染予防効果は持っておらず、マスクに加えてソーシャルディスタンスを取ることが感染予防に有効としている。
マスクと感染症で最もよく行われているがインフルエンザで、マスクにはインフルエンザ感染を予防する効果はないことがわかっている。感染する主なルートはインフルエンザもコロナも同じなので、結果も同じになる。


マスク着用は感染を広げないため

ではなぜ世界中でマスク着用を推進しているかというと、新型コロナの感染者が他の人にウイルスを広げないためである。中国北京で家族内感染を調べた後ろ向き研究がある3)。対象は335例、124家族である。2020年2月28日から4月27日までの2ヶ月間、最初の感染者にマスクをするかしないかで、家族内感染が起きたかどうか調べた。全体として家族内感染を起こしたのは335例中77例、23%である。家庭内での最初の患者が発症する前からマスクをしていた場合には、していない場合に比べて家族が発症する割合は79%も低下する。最初の患者が発症した後にマスクをさせた場合ではさせない場合と有意差はなかった。
PNASの総説では、マスク着用を「source control (感染源をコントロールすること)」と題して論じている4)。


インフルエンザでの研究

新型コロナは新しい疾患のため、コロナ患者がマスクの有無でどれだけウイルスを飛散させるかの実験はない。そのためインフルエンザなどの呼吸器感染症で行われた過去のデータを参考にするか、モデルを作って検討するかのいずれかになる。インフルエンザでの研究では1962年に布マスクが飛沫の99%を遮ることが発表されている5)。
PCR(遺伝子増幅)でインフルエンザ遺伝子を確認した実験では、マスクをして咳をした場合で20cmの距離ですでにインフルエンザウイルスは確認できないとしている6)。また別の実験では、マスクによって飛沫として放出されるインフルエンザウイルスの量が30%に減少するとしている6)。


マスクの質

飛沫は大きいとすぐ床に落ちてしまう。問題となるのは1μm以下の粒子で、いつまでも空気中を漂うため空気感染を起こす原因になる。この1μmの飛沫をどれだけブロックするかについては、一般に使われている布マスクでは58%から94%のブロック効果であり、現在主流となっている不織布のサージカルマスクでは96%のブロック効果が期待できる7)。
コロナ患者の搬送にN95マスクをつけることは多い。N95マスクの95とは「とても小さい(0.3μm)の粒子を95%ブロックするという意味でつけられている。だがこのマスクも、研究室においてのインフルエンザの感染実験では通常のサージカルマスクと同等の感染の危険性がある8,9)。


終わりが見えてきたパンデミック

今年1月から2月はオミクロン株が大流行した。執筆時点で次はステルスオミクロン株が主流となりそうである。これらは感染力は高いが重症化リスクは低い。オミクロン株であってもインフルエンザより致死率は高いと説明されているものの、インフルエンザに限りなく近づいてきたのは確かだ。今年の夏はマスクを付けずに講演会をこなしたいと願っている。


文献


1)Ann Internal Med 2020 Nov 18:M20-681
2)Lancet DIgit Health 2021 Mar;3(3):e148-57
3)BMJ Glob Health 2020;5(5): e002794
4)Proc Natl Acad Sci USA 2021 Jan 26; 118(4): e2014564118
5)J Bacteriol. 1962 Mar; 83:663-7.
6)PLoS Pathog. 2013 Mar; 9(3):e1003205.
7)Disaster Med Public Health Prep. 2013 Aug; 7(4):413-8.
8)J Evid Based Med. 2020 May; 13(2):93-101.
9)JAMA. 2019 Sep 3; 322(9):824-833.

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