230208救助の基本+α(72)救助隊と消防隊との連携:支援要領の動画化 一宮市消防本部

 
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基本手技

月刊消防2022年7月号 p24-27

『救助隊と消防隊との連携:支援要領の動画化 一宮市消防本部』

目次

 


 

1 寄稿にあたって、はじめに

  今回、『月刊消防』『救助の基本+α』の項で「救助隊と消防隊との連携」という題名で寄稿させていただきました愛知県一宮市消防本部です。まず、簡単に一宮市と一宮市消防本部についての紹介をします。

 ⑴ 一宮市について

一宮市は愛知県の北西部にあり、広大な濃尾平野のほぼ中央に位置し(001)、市北部から西部へと約18 キロメートルにわたって接する木曽川がはぐくんだ豊かな自然や、温和な気候、風土に恵まれた地域です。代表的な産業として、繊維産業を基盤として栄えてきました。近年では地場産生地「尾州」のブランド力強化を進めると同時に、企業誘致の推進により産業の複合化を図っています。また市内には高速道路の9つのインターチェンジと一宮ジャンクションがあり、東西の大動脈である東名・名神高速道路と、太平洋側と日本海側をつなぐ東海北陸自動車道の結節点として、重要な位置にあります。

当市は令和3年4月1日に尾張地域では初の「中核市」に移行するとともに、令和3年9月1日には市制施行100周年となる記念すべき年を迎えました。

令和3年4月1日現在、人口383,582人、世帯数164,198、管内面積は約114K㎡となり、安心・元気・協働の基本理念のもと、「木曽の清流に映え、心ふれあう躍動都市 一宮」を将来像としたまちづくりを目指し躍進を続けています。

             

 

(写真1)一宮市の位置

 ⑵ 一宮市消防本部の概要

   一宮市消防本部(002)は1消防本部・3消防署・1分署・8消防出張所に職員401名(令和3年4月1日現在)で組織されています。消防署の交代勤務体制は2交代制で指揮隊2隊、救助隊2隊、消防隊14隊、救急隊11隊の体制で災害対応をしています。指揮隊は一宮消防署本署と尾西消防署に配置、救助隊は一宮消防署本署と木曽川消防署に配置されており、災害種別に応じて対応をしています。消防隊は全署所に分散配置され、最先着小隊の出動から現場到着まで5分以内を目標として、火災出動(003)をはじめ救命支援出動、救助出動等あらゆる災害に即時対応しています。

 

(写真2)

一宮市マスコットキャラクター 「いちみん」

 

 

(写真3)

一宮市消防本部イメージキャラクター「いさはや君」

 ⑶ 救助隊の概要

令和3年4月1日一宮市が中核市に移行したことに伴い、一宮消防署本署に高度救助隊(004)を発隊し、木曽川消防署に特別救助隊を配置することにより、2隊の救助隊で災害対応をしています。『救助隊の編成、装備及び配置を定める省令』によると当市の基準では3隊配置の必要があるところですが、地域特性を鑑み1隊減隊しているところです。

一宮消防署本署に配置されている高度救助隊は、緊急消防援助隊に登録された隊で、一般的な救助に係る教育訓練を計画し、災害に備えています。木曽川消防署に配置されている特別救助隊(005)は、管内に一級河川の木曽川を有しており木曽川で発生した水難事故に即時対応し、水難事故に係る教育訓練の計画し、災害に備えています。

 

(写真4)

高度救助隊ワッペン

 

 

 

(写真5)

特別救助隊ワッペン

 

 以上で、一宮市と一宮市消防本部についての紹介を終わります。

2 救助隊と消防隊との連携における現状と課題

当市消防本部では、救助事案の第一次出動隊は指揮隊1隊、救助隊1隊、消防隊1隊、救急隊1隊で編成され災害対応をしています。指揮隊は現場管理、救急隊は要救助者の観察が任務となっており、主たる救助活動には携わらず、救助隊1隊と消防隊1隊で実質的な救助活動を行っています。言うまでもなく、消防隊との連携なくして、「安全で迅速な救助」をすることが困難であるのは明白です。

しかしながら、消防隊員の中には「そもそも救助法がわからない」「イメージがわかない」という若年層の職員が多くなってきており、「救助活動時に協力を得る事が困難だった」という問題が起きていました。この記事を読んでいる方々からすると「そんな事ありえるの?」という意見が多いかもしれません。しかし、概要で記載したとおり、当市消防本部は面積に対しての署所数が多く、消防隊が分散配置されていることで、あらゆる災害に即時対応できるメリットは大きいのですが、救助隊が配置されているのは12署所の中でも2署のみであり、その他の10署所は救助隊の資機材や訓練を見る機会も少なく、救助隊と関わる時間が圧倒的に少ないというデメリットもあります。

過去にも、この問題を打開すべく「救助活動支援マニュアル」を作成しており、データ化されて誰もが閲覧可能になっています。救助隊員になった今このマニュアルを読んでみると、的を絞り簡素化されたマニュアルになっているように思います。しかし、そもそも救助法がわからない消防隊員にとってはなかなか理解することはできない資料なのかもしれません。

私自身、入職してから10年目に救助隊への配属となりましたが、恥ずかしながらそれまでは、「はしご水平救助法(一)」と言われても、パッとイメージすることもできず、様々なロープが入り組んでいるように見え、そのロープ1本1本の意味を理解する事ができず、ただただ複雑に見えていたのを覚えています。

3 救助隊と消防隊とのさらなる連携強化に向けて

救助隊員として救助出動を繰り返す中で、支援隊として出動してくる消防隊と連携活動していると、現場で何をして良いのかわからず、傍観する後輩達の姿を、過去の自分と重ねて見るようになりました。

当時の自分が何を知りたかったか考えてみると、かなり初歩的な疑問だったように思います。本来なら一緒に訓練を行う機会を設けて、実際にやってみるのが一番ですが、コロナ禍になり所属外の交流も少なくせざるを得なくなりました。一方でこのコロナ禍では、動画配信による講義や教養が一般化されてきた時代の流れもあります。これを機に、我々も「支援要領の動画化」にチャレンジしてみました。「百聞は一見にしかず」として、後輩達の不安を少しでも払拭することができ、訓練の方法も時代の流れとともに変化させ、消防隊とのさらなる連携強化を図るのが狙いです。

 

4 作製した動画の内容

  主な救助法である「はしご水平救助法(一)」(006)、「はしご水平救助法(二)」(007)「一箇所吊担架水平救助法」(008)の支援要領を作製し、庁内ネットワークの共有ドライブ上で常時閲覧可能としました。

 

(写真6)はしご水平救助法(一) 

 

 

(写真7)はしご水平救助法(二)

(写真8)一箇所吊担架水平救助法

 動画の内容は、それぞれの救助法の一通りを見てもらい(009)、その後消防隊にどのような支援をして欲しいかをまとめて、概ね3項目ほどを部分的に説明した動画としました。活字はできるだけ少なく(010)、動画で概ね理解ができるように心掛けて作製しました(011)。

 作製した動画は細かい手技・手法はあえて説明をしませんでした。先にも述べたとおり、見慣れない職員からすると、ロープ1本1本の意味はパッと理解することは困難です。そこの理解を深めるよりも、全体の流れを理解してもらう事を主たる目的としました。

 

(写真9)救助法の一通りを見てもらう

 

(写真10)活字はできるだけ少なくした  

 

(写真11)動画で概ね理解ができるように心掛けて作成した

当市消防本部の救助隊は2隊運用の2交代制であるため、細かい部分をすり合わせると、計4隊分の救助方法があるわけですが、4隊ともに大きく見れば救助方法に差はなく、出動した際、どの救助隊と連携することになっても、概ね準用できる内容としました(012, 013, 014)。

 

(写真12)消防隊の支援内容。バスケットストレッチャーの持ち上げ

 

(写真13)消防隊の支援内容。バスケットストレッチャーを降ろす

 

(写真14)消防隊の支援内容。はしごの固定

5 今後の予定

  今後は「除染シャワーの組み立て要領」や、「エアーテントの設営要領等」を作製していこうと計画中です。

しかしあくまでも、難しい説明はせず簡単な内容に留める予定としています。その根底としては、「主たる技術は救助隊員の手によって行う事が重要である。」と考えているからです。

また、消防隊との連携強化は動画化だけが方法ではありません。救助隊員の「説示の仕方」や、丁寧な説明を心掛ける「話術」、「表情の作り方」、このような技術も向上させていくポイントはたくさんあるように思います。あの手この手で方法を考えて、よりよい活動が行えるように模索していくつもりです。

6 おわりに

  この記事を読んでいる方々は救助の分野に明るく、救助技術に関する細かい話をしても、様々な意見を述べる事ができる方が多いと思います。では、その皆さんは、予防系の業務に対してはどうでしょうか。総務系の業務についてはどうでしょうか。多岐にわたる消防業務の中で、実際には経験する人が少ないにも関わらず、「知っていて当たり前」であるかのように扱われているのが「救助」という分野なのではないかと思います。この動画を作製したことによって、少しでも現場活動で皆が共通認識を持って、意思疎通を行う事で安全・確実・迅速な活動につなげるとともに、若手職員が救助の分野に興味を持ち、次の救助隊員の育成に寄与できればと思います。

  「訓練に終わりなし!」その方法は、体を使って行うだけではなく、動画化が一般化されてきた時代に、順応させ変化させていくとともに、様々な取り組みを行いながらより良い方法を模索し続けていきたいと思います。

  安全・確実で迅速な活動ができますよう,この度の寄稿が参考となれば幸いです。

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