240625最新救急事情(246)バイスタンダーCPRを広めるために

 
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最新救急事情

月刊消防 2023/011/01号 p68-9

目次

バイスタンダーCPRを広めるために

 
心肺蘇生法の啓蒙と普及により、バイスタンダー心肺蘇生(CPR)を受ける患者割合は増えてきている。今回は、各国でのバイスタンダー心肺蘇生(CPR)の現状を示すとともに、さらなる普及を目指すためにはどうしたら良いか、論文を通じて考えてみる。
 

バイスタンダーCPRをやってくれるのはこういう人

 
最初に、どんな人がCPRをしてくれるのか見ていこう。紹介する論文1)は、過去に発表された論文をひとまとめにして検討するメタアナリシスの手法を使っている。対象となった元論文は2016年から2021年の間に出版された英語論文で、13編から結果を抜き出している。それによると、CPRの実施およびAEDの使用意欲に関連する因子は、個人因子、訓練、態度と認識、自信、法的義務の6種類となった。具体的は
 
(1)個人因子:年齢が若いほどCPRやAEDに抵抗が少ない。男性、教育レベルが高い、就業している、既婚者も同様に抵抗が少ない。高齢者より若い人の方が何でもやってくれるだろう。男性が女性よりバイスタンダーになりやすいのは、力があることと、おそらくCPRやAEDに対しる恐怖心が少ないためと思われる。教育レベルが高いのは、CPRとAEDの効果を知っているためである。既婚者というのは、家族を守るという考えがバイスタンダーCPRにつながるからだろうか。
 
(2)訓練:過去5年以内にCPRとAEDの訓練を受けているか、過去にCPR教育を4回以上受けていればCPRやAEDをやってくれる。過去5年以内と4回の訓練は同等とは思えないが、訓練がCPRとAEDへの閾値を下げてくれることは間違いない。
(3)態度と認識:CPRとAEDを肯定的に捉えていること。これをやれば、これを使えば助かる可能性があるんだという認識を持っていること。
(4)自信:CPRとAEDを使う自信があること。自信がなければCPRは行わないし、AEDも使えない
(5)法律:これは「やってくれる人」とは趣旨が異なるが、CPRとAED使用に対する法的保護は絶対に必要である。この論文で「やってくれない人」の要因として挙げているのも「訴訟への恐怖」であり、加えて「傷病者に負傷を負わせること」であった。
 
バイスタンダーCPRを増やすには受講者を増やすこと
前掲のCPRとAEDの検討でも書かれている通り、教育が重要なことは明らかである。デンマークから救命講習受講者の増加がバイスタンダーCPRを増やす直接的なデータが出ている2)。デンマークでの年間の救命講習受講者数は成人全人口の4%である。この受講者の地域分布とバイスタンダーCPRの実施率を経時的に追跡したものである。研究対象期間は2016年から2019年までの4年間。その間の救命講習者修了者は70万人、院外心停止患者は1.5万人であった。検討単位は市町村レベルである。その結果、救命講習修了者が5%増えればバイスタンダーCPRの実施率が有意に増加すること、その増加率は夕方16時から翌朝8時までの在宅時間でさらに増加することがわかった。
 
児童生徒にCPRを教える
若い人ほどCPRをやってくれるなら、若い人にCPRを教えれば良い。この場合に、どのような方法が最も良いか検討した論文がある3)。これもメタアナリシス論文である。対象は1975年から2022年までに発表された96編の論文であり、児童生徒数は4万人、年齢は5.9-17.6歳(平均年齢11.5±0.9歳)である。
実技と非実技、指導者が指導するのと児童生徒がお互いに指導する方法、自分一人で勉強する方法など、学習方法は様々試されているが、習得の程度を見るとどれも差はない。また3ヶ月後にちゃんとCPRできるか追試した結果では、指導者が付いた場合と、仲間内で勉強する場合とで差は見られなかった。圧迫の深さはどの指導方法であっても一貫して浅かった。
CPRの普及と人手不足の解消のために、指導員がつききりで訓練を行うのではなく動画やスマホで訓練を行うことも行われている。どの方法でも効果が変わらないなら、人手や手間のかからない方向にシフトしていくべきだろう。
 
文献
1)Glob Heart. 2023 Aug 25;18(1):46. eCollection 2023.
2)Open Access Emerg Med. 2023 Jun 15;15:241-252. eCollection 2023.
3)Resusc Plus. 2023 Aug 10;15:100439. eCollection 2023.

 

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