241231最新救急事情(251)教職員が使える医薬品

 
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最新救急事情

月刊消防 2024/04/01号 p64-5

最新事情
教職員が使える医薬品

目次

はじめに

 
2014年から、アナフィラキシーショックの時には、教職員が患児にアドレナリン製剤であるエピペンRを使うことができるようになっている。また2022年7月からは抗痙攣剤ブコラムRの経口投与が、今年1月からは低血糖治療薬バクスミーRの鼻腔内投与ができるようになった。エピペンが救急隊員でも使えることを考えると、ブコラムRとバクスミーRも近いうちに救急隊員が患者や家族の代わりに投与するようになる可能性がある。
 

抗痙攣剤ブコラム(001)

 
学校で使える抗痙攣剤は今まではジアゼパム製剤であるダイアップR座薬しか認められていなかった。座薬なので痙攣が起きた時に下着を下ろさなくてはならない。体の大きな子供では大変な作業だし、隠部を露出させることから周りに気を使う必要もあった。また肛門から十分な深さまで挿入する必要があり、また肛門の刺激によって脱糞する可能性もあった。
 
今回許可されたブコラムRは経口の抗痙攣剤である。注射器に薬剤が入っており、頬袋に注射器の先端を入れて口の奥に投与する。発売は2020年12月。中身はミダゾラム。この薬はマイナートランキライザーの一種であり、ダイアップRの成分であるジアゼパム(商品名セルシンR・ホリゾンR)の仲間である。私も麻酔科をやっていた時にはたくさん使っていたので馴染深い。
 
利点は多い。まずは経口投与ができること。痙攣を起こすたびに下着を下ろす必要がないのはなんと素晴らしことだろう。次に、薬剤の安全域が広いこと。私も多くの患者にミダゾラムを投与してきたが、この薬単独で呼吸停止を起こした経験はない。最後に、拮抗薬が存在する。一般名フルマゼニル、商品名アネキセートR。もともと安全な薬であったが、拮抗薬が存在することでさらに使いやすい薬となっている。
 
適応は痙攣重積発作となっている。痙攣重積発作とは5分以上痙攣が続く、もしくは痙攣の中断はあっても痙攣を5分以上繰り返すものである。実際に患児に投与したことのある養護教諭に話を聞いたところかなり早く効くとのこと。また5分については主治医からは「痙攣が起こったら投与しても良い。5分待つ必要はない」と指導されている。私が主治医であっても5分待つことなく投与を許可するだろう。安全な薬だし、5分もただ黙って見ているのは酷だろう。
 
001
ブコラム。2.5mL針なし注射器に薬を入れて蓋をしてある
 
 
 

低血糖治療薬バクスミーR(002)

 
糖尿病患者で経験する低血糖症状の治療薬である。低血糖症状では意識があればブドウ糖の飴を舐めさせたりできるのだが、意識がなくなれば静脈を確保してブドウ糖を投与するか、血糖値を上げる作用のあるグルカゴンを注射するしかなかった。今回出たバクスミーは粉末のグルカゴンであり、噴霧器の先のノズルを鼻腔に差し込んで押し子を押すことで鼻腔内にグルカゴンが広がって血糖値が上がる。
 
グルカゴンはもともとは膵臓で作られるホルモンである。肝臓に作用してグリコーゲンを分解してブドウ糖を作り出して放出させる。また脂肪分解を促進させることも血糖値を上げる方向に働く。規定量のグルカゴンの静脈注射もしくは筋肉注射によって、10分以内に血糖値は上昇する。またグルカゴンの持つ消化管の蠕動運動抑制作用を利用して、内視鏡の前処置としても投与される。
利点は、何と言っても危険なくグルカゴンを投与できることである。注射不要。意識がなくても鼻の穴にノズルを差し込んでボタンを押せば薬が出てくる。さらに、この薬は患者の(立っている、寝ているなど)や鼻汁の有無に関係なく一定の効果を示すことが分かっている。慌てている家族や教職員にはこの上ない贈り物である。
 
その前の、血糖値の測定ついては、内針付きの測定装置を上腕背部に留置することで24時間いつでも血糖値を測れる器具が急速に普及してきている。患者や家族は専用の計測器かアプリを近づけるだけで過去8時間の血糖値の変化を見ることができるので、目の前の症状が低血糖によるものか簡単に把握できる。
 002
バクスミー。ノズルを鼻に入れ、底にあるボタンを押すと薬が鼻腔内に噴霧される。
 

エピペンは複数持ちが当たり前に

 
そして、救急隊員にも馴染みの深いエピペン。1回の投与で無効の場合や、効いたのだが効果が薄くなってきた場合、また行く場所が決まっている場合のために、現在は複数本を持っていることが当たり前になってきた。学校でも、本人がカバンに入れて持ち歩く他に、保健室や職員室などで保管することがあるようだ。
 

これからも使える薬剤は増えていく

 
意識がなくなった時に家族や関係者が投与できる薬はこれからもどんどん増えていくだろう。そのほとんどは救急隊員も使えるようになるはずである。人を救うため、面倒臭いと思わず勉強していこう。

 

 

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