プレホスピタル・ケア 2024/4/20号p9-10
プレホスピタルケア
新連載
資機材をもう一度学ぼう
第1回
ターニケット
目次
1.はじめに
新連載の第1回を担当させて頂きます北海道・留萌(るもい)消防組合小平(おびら)消防署の永井と申します。本連載のテーマは資器材を学ぼうということで「ターニケット」について執筆させて頂きます。
2.ターニケットとは
世界各国において多様な形態のテロ災害が発生しており、日本においてもラグビーワールドカップ2019や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を期にテロ対策としてターニケットが導入されました。
ターニケットを用いることで早期に止血処置がされ、大量出血による防ぎえた外傷死を防ぐことができます。
3.ターニケットの使用目的
動脈性(拍動性・噴出性)の出血で、直接圧迫止血法で制御できない場合は、数分で致死的状態に陥るためターニケットの使用が重要となります。
すべての外出血に対して、まず試みられるべき止血は直接圧迫止血法です。それでも止血が困難な場合には専用の止血帯(ターニケット)(001)のほか、タオルや三角巾などを巻き付けて締め上げ血流を遮断する止血帯止血法(緊縛法`, 002)によって止血を行います。

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001
直接圧迫止血をしながらターニケットを装着する
002
緊縛法。三角巾を使っている。
4.ターニケットの種類と構造
ターニケットにはCAT(Combat Application Tourniquet)やSOFTT(Special Operation Forces Tactical Tourniquet)などさまざまな種類があります。
私の消防署で所有しているターニケットはMAT レスポンダーです(003)。
(003)MAT レスポンダー
5.ターニケットの使用方法
①使用前(使用後)にリリースボタンを押しながらベルトを完全に引き出す「リリース作業」を行う(004)
※ベルトの緩みが残ったままターンキーを回転させ緊縛行為を行うと、機器内部で糸が絡み故障や破損の原因となる。
(004)リリースボタンを押しながらベルトを完全に引き出す
②出血部から5~8cm中枢側にベルトを巻く(005)
※地肌に直接ベルトを巻くのが原則。困難な場合は衣類との間に固形物がないことを確認の上、衣類の上からベルトを巻く。
※本器のフック部とバックルを接続する(カチッと音がするまで押し込む)。
(005)ベルトを巻く
③ベルトをしっかり密着させ締めていく(006)
※ベルトを引き適切な緊縛力を与える。
(006)ベルトを引き締めていく
④出血が止まるまでターンキーを回転させ締める(007)
※出血が持続する場合には、1本目よりさらに中枢側にもう1本別の止血帯を装着する。
(007)ターンキーを回転させ締める
⑤装着した時間を記録する(008)
(008)時間を記録する
⑥緊縛力の微調整や解除はバックルレバーで患者の状態を確認しながら少しずつ緩める(009)
(009)バックルレバーを押し少しずつ緩める
6.ターニケットの合併症
○装着中
・圧迫に伴う疼痛
・末梢部位の阻血
○解除後
・再灌流による不整脈または心停止
・神経障害
・深部静脈血栓症
・筋力低下
7.ポイント
・生命の危機が切迫している出血に対して使用した場合は、2時間までは解除の必要はない。
(一定時間ごとに緩めたり解除したりすることで出血量を増加させ生命予後を悪化させる。)
・ターニケットを解除する場合は、血圧の急激な低下、不整脈の誘発等のリスクを伴うためAEDの準備等も考慮し原則、医師の管理下で行う。
・小児に対してはターニケットを使用せず、従来の止血法で止血を試みる。
(小児に対しての使用について、有効なエビデンスがないため。)
・前腕や下腿でも十分な止血効果がある。
(止血が不十分な場合は、1本目よりさらに中枢側または上腕及び大腿部にもう1本別の止血帯を装着する。)
8.おわりに
私自身、ターニケットの使用実績がないため、ターニケット該当事案が発生した際には積極的に使用していきたいと思います。テロ災害等にとらわれず産業災害や通常の救急活動におい
てもターニケットの使用が有効であるため、慌てずスムーズな現場活動を行うためには日々使用方法や知識を再確認することが大切だと思っております。

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