250201最新救急事情(252)病院前低体温療法の研究

 
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最新救急事情

月刊消防 2024/05/01号 p72-3

目次

はじめに

 
心停止後に病院内で行われる低体温療法は現在は目標体温管理療法となっていることはこの連載で何度も書いた。20年以上前は、心停止後に体温を33℃程度に一定期間下げることが患者の生存や神経学的後遺症の軽減に有用であると考えられていた。だから病院に到着する前から氷水を点滴して体温を下げることも試みられていた。しかし現在は体温を上げない(脳の温度を平熱に保つ)ことが重要であって体温を下げる必要はないとされている。ということで低体温の話はカタがついたと思っていたら、まだ研究は続いている。
 

低体温療法の概要

 
心肺蘇生後、患者は高体温となり死亡することは広く知られていた。そこで1990年代の後半から、心肺蘇生に成功した患者を数日間30℃から33℃という低体温として死亡率を減らすことが行われるようになった。初めの頃は闇雲に体温を下げていたのだが、肺炎などの合併症が頻発するため2010年頃は33℃が一般的になっていた。ところが2013年に33℃に体温を下げた群と平熱を維持させた群で結果が変わらないという報告が出たことで、積極的に体を冷やす治療から、体温を上げない治療へと治療方針が変化した。なので、なぜ今頃病院前低体温療法なのか、という疑問が湧く。
 
 

過去の論文

 
Pubmedで調べると、病院前救護の時点で低体温を導入することに触れているのは2004年の論文1)が初めてである。そこでは凍る状態にまで冷やしたリンゲル液を静脈内投与することで被検者13名の体温を平均35.8℃から34.0℃まで下げた結果から、病院前の低体温の導入を可能にするものとしている。その後デンマークから2006年に病院前救護の段階で26名に低体温を導入し神経学的後遺症を減らすことができたと報告2)されてからは、多くの研究が発表された。
この後、冷却した点滴による体温低下によって患者管理が盛んに行われたが、有意差を持って患者の利益になるという論文は全然出てこなかった3)。このため、2013年のメタアナリシス論文4)では、5編の研究論文の633例を解析した結果として、病院前低体温療法では入院時の患者体温を下げることはできるが、生存率改善と神経学的後遺症の軽減は見られないと結論している。2014年に出た論文5)でも同じ結論であり、この方法は消えたと思っていたのだが、また形を変えて研究が行われているようだ。
 

鼻に氷水を入れる

 
スエーデンから6)。今までの低体温療法は集中治療室で開始されること、体温はゆっくり下がっていくことから、脳が目的とする温度に達するまでは8-10時間もかかっていた。そこで、救急隊員が現場に到着して20分以内に鼻腔に冷水を流し込むことで、超早期に脳だけを目標とした低体温療法を開始したら患者の生存率上昇や神経学的後遺症の軽減につながるだろう、という研究である。体温調節の中枢は視床下部にあり、そのすぐ足側には鼻腔があるから、鼻に氷水を流し込めば有効に脳を冷やせる。だが、冷やす必要があるのか、さらに現場で冷やし始めて何かいいことがあるのだろうか。研究は現在進行中なので、結果を楽しみに待ちたい。
 

除細動の出力に関する研究

 
ついでに、評価が定まっていると思われる事項の研究をもう一つ。皆さんが日常的に使っている除細動器の出力はいくらかご存じだろうか。日本光電のAEDは成人モードで初回が150J, 2回目は200Jで放電されている。だが、このエネルギーに関しては、初回の最適値も、追加除細動での最適値もはっきりとはわかっていないらしい。思い返せばAEDも市場に出た当初は何度放電しても150Jだったはず。現在市場に出ている製品は、機械によっては120-150-200Jと上がっていくものもあれば、150-200-200Jのものもあるし、最初から200Jで変化しないものもある。オーストラリアでは様々な出力のAEDを導入し、どのAEDが一番優秀であったかを調査することで、最適な出力を求めようとしている7)。
この研究と同様の研究はイギリスで行われていた8)。それによると、除細動出力120-150-200Jが12名、150-200-200Jが10名、200-200-200Jが16名で行われた。30日後の生存者は3例(8.3%)であり、2例の生死は不明であった。こんなに症例が少なくて有意差が出るようならもうその出力で除細動は統一されているはず。それでも大規模研究へ進むのだから、研究者たちには確実に有意差が出るという確信があるのだろう。
 

文献

 
1)Resuscitation 2004 Sep; 62(3):299-392
2)Ugeskr Laeger 2006 Jan 30;168(5):458-61
3)Acta Anaesthesiol Scand 2009 Aug;53(7):900-7.
4)Resuscitation 2013 Aug;84(8):1021-8
5)Acad Emerg Med 2014 Apr;21(4):355-64
6)Am Heart J 2024 Feb 26:S0002-8703(24)00047-4
7)Resusc Plus. 2024 Mar; 17: 100586.
8)Resusc Plus 2024 Feb 9:17:100569

 

 

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