180916救助の基本+α 救助に関する法律

 
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基本手技

月刊消防 2018年8月号+9月号

目次

1 寄稿にあたって

愛知県にあります尾三消防本部、特別消防隊の八木と申します。よろしくお願いします。
さて、救助の技術・知識というのは各消防本部で蓄積されたものがあり、方法・手技等は様々あると思います。今回「救助の基本+α」のお話を頂き、まず救助活動の基本・原点は何かと考えたとき、それは全て法律が根拠ではないかと思いました。初任科教育や専科教育で教育を受けますが、現場活動に従事するうち、その根拠が少しずつ薄れてきているように思いました。+αの前段階の堅苦しい話になりそうですが、少しだけお付き合いください。

2 尾三消防本部について

愛知県の中央に位置する尾三消防本部(図1)は、豊明市、日進市、みよし市、長久手市及び愛知郡東郷町の4市1町を管轄しています(図2)。尾三とは「尾張」と「三河」を由来として造られた呼び名で、尾張と三河にまたがるこの地域は昔から尾三地区と呼ばれていました。尾三消防本部は、平成29年度まで日進市、みよし市、東郷町の2市1町で構成されていましたが、平成28年に豊明市、長久手市を含めた4市1町で「尾三消防組合・豊明市・長久手市消防広域化協議会」を設置して広域化の協議を進め、平成29年10月には消防広域化の合意に至り、平成30年4月1日から新たなスタートを切りました。

001 愛知県の中央に尾三消防本部があります

(1) 構成市町について

日進市、長久手市は名古屋市に隣接しており、人口増加率は全国トップクラスとなっています。みよし市は、トヨタ自動車及び自動車関連産業を中心に数多くの工場が立地しており、製造業が盛んな街となっています。東郷町は、名古屋市のベットタウンとして人口の増加が著しく、都市構造の変換が急速に進んでいます。豊明市は、名古屋市と隣接するとともに、国道1号線、国道23号線、伊勢湾岸自動車道など、交通の便に恵まれており、交通の要として重要な街となっています。4市1町の総人口は約32万人、面積は約130k㎡です(図3)。

002 豊明市、日進市、みよし市、長久手市及び愛知郡東郷町の4市1町を管轄しています

(2) 消防体制について

尾三消防本部は、1本部、5消防署、3出張所で組織されており、本部直轄として特別消防隊を配置しています。救助隊は3隊配置されており、職員数は334名(平成30年4月1日現在)、救助隊員は専任、兼任合わせて42名となっています。


003 4市1町の総人口は約32万人、面積は約130k㎡です

 

1 はじめに

私たち消防職員は、災害現場において消火・救急・救助等の活動を行う際、法律に守られ、ときに縛られながら活動を行っています。私たちは住民の安全安心を守る消防職員であり公務員でもあります。地方公務員である私たちは法律を守りながら職務を遂行する必要があります。地方公務員法第32条において、「職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と定められています。このように、我々の職務遂行には何らかの法的根拠があるのです。

皆さん、救助活動など災害現場で活動する際、「この活動の法律的な根拠は何だろう」と気になった事はありませんか?私もその一人です。若手の頃は、上司に教えられたとおりに現場で活動してきましたが、歳を取るにつれ「必要な活動を法律に従って実施しているはずだけど、その根拠は何だろう?」と根拠を考えて行動することが多くなってきました。

消防が行う活動といっても様々です。消火・救急・救助活動、さらに予防業務など多岐にわたります。その中で消火・救助に関係する活動について的を絞り、法律との関係について考えてみたいと思います。

2 消防とは?

消防の概念は、消防組織法第1条と消防法第1条にあります。消防組織法第1条(消防の任務)において「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。」とあります(図4)。消防法第1条は「この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。」とあります。
上記のとおり、消防組織法は、第1条において(消防の任務)が規定されており、第2条から第36条までそれぞれ、消防は市町村単位で構成されることや、消防の組織について、国、都道府県との関わり等が規定されています。一方、消防法は、火災の予防、消防設備等の設置や義務、規則について基本を規定され、また、消火や救急活動、火災調査権についても規定されています。

004 「国民の生命、身体及び財産を火災から保護する」

3 救助活動の法的根拠とは?

救助活動の法的根拠について、火災時とその他の災害とに分けてみます。また、それぞれについて消防組織法上と消防法上について根拠を探ってみたいと思います。

(1) 火災時の人命救助の法的根拠について

  ア 消防組織法の法的根拠

消防組織法上では、第1条(消防の任務)の中で「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護する」という一文があります。よって、消防組織法第1条が根拠となります。

 

イ 消防法の法的根拠


消防法第1条の中で「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減する」とあります。また、消防法第29条第1項において「消防吏員または消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる」という一文があります。よって、消防法第1条と消防法第29条第1項が根拠となります。

(2) その他の災害の法的根拠について

 ア 消防組織法の法的根拠

消防組織法上では、第1条(消防の任務)の中で「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減する」という一文があります。「これら」の中にその他の災害が含まれると考えられるため、消防組織法第1条が根拠となります(図5)。

イ 消防法の法的根拠

消防法第1条の中で「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減する」とあります。「地震等」の中にその他の災害が含まれると考えられます。また、消防法第29条第1項において「消防吏員または消防団員は、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために必要があるときは、火災が発生せんとし、又は発生した消防対象物及びこれらのものの在る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる」とあります。さらに消防法第36条第8項で「第18条第2項、第22条及び第24条から第29条まで並びに第30条の2において準用する第25条第3項、第28条第1項及び第2項並びに第29条第1項及び第5項の規定は、水災を除く他の災害について準用する」と「水災を除く他の災害について準用する」とありますので、消防法第36条第8項の準用規定により消防法第29条第1項が根拠となります。よって、消防法第1条と消防法第29条第1項が根拠となります。

005 「これらの災害による被害を軽減する」

 

  (3) 救助活動の種別について

救助活動に限らず、火災、救急等には事故の種別が決められており、活動後に報告が必要です。救急・救助は「救急事故等報告要領」において、また火災は「火災報告取扱要領」においてそれぞれ種別が決められています。さらに救助活動の後には「救助活動の基準」において、分析と評価を行い、活動の問題点を明確にするようにとされています。以下に救助の種別を記載します。

 

4 火災警戒区域と消防警戒区域

ガス漏れ事故や火災出動時に警戒区域を設定することがあります。その際の法的根拠
について考察してみたいと思います。

(1) 火災警戒区域の法的根拠

消防法第23条の2において「ガス、火薬又は危険物の漏えい、飛散、流出等の事故が発生した場合において、当該事故により火災が発生するおそれが著しく大であり、かつ、火災が発生したならば人命又は財産に著しい被害を与えるおそれがあると認められるときは、消防長又は消防署長は、火災警戒区域を設定して、その区域内における火気の使用を禁止し、又は総務省令で定める者以外の者に対してその区域からの退去を命じ、若しくはその区域への出入を禁止し、若しくは制限することができる。」とあります。ガス漏れ、危険物の漏えい等の事故で火災の発生が予測され、人命、財産に被害があるおそれのある場合に一定の区域を指定して、火気の使用制限をして火災の発生を未然に防ぐこととされています。また区域内の建物の関係者、事故発生の関係者、ライフラインの作業者、医療従事者等は火災警戒区域出入者として制限を受けません。
しかし、これらの者でも消防長及び消防署長の権限により立ち入りを禁止することができます。火災警戒区域の命令権者は消防長及び消防署長です。それ以外の消防吏員は権限がありません。
消防長、消防署長が不在時には、実務上、権限が現場の消防吏員に委任されていると解釈することが可能です(図6)。

006 警戒区域の設定は、消防長・消防署長が不在時には、実務上、権限が現場の消防吏員に委任されていると解釈することが可能

しかし、現場においは最も上席の役職者が設定すべきとされています。なぜかと言うと、火災が発生していない状態であること、さらに本来の命令権者が消防長、消防署長とされており、高度の判断が必要とされているからです(図7)。

007 しかし、現場においは最も上席の役職者が設定すべきとされている

消防法第23条の2第2項により、現場に命令の委任を受けた消防吏員がいない、もしくは消防長、消防署長から要求があった場合は警察署長も火災警戒区域を設定することが可能です。実務上は消防吏員が到着していない現場において、警察が一時的に火災警戒区域を設定することになります。

(2) 消防警戒区域の法的根拠

消防法第28条第1項において「火災の現場においては、消防吏員又は消防団員は、消防警戒区域を設定して、総務省令で定める者以外の者に対してその区域からの退去を命じ、又はその区域への出入を禁止し若しくは制限することができる。」(図8)とあります。

008 「区域からの退去を命じ、又はその区域への出入を禁止し若しくは制限することができる。」

火災時に、迅速な人命救助と危険排除のために、一定の区域を指定して立入りを制限することが可能です。消防警戒区域出入者として、区域内の建物の関係者、事故発生の関係者、ライフラインの作業者、医療従事者等、報道関係者、消防長及び消防署長が発行する立入許可証を所有する者等は制限を受けません。しかし、これらの者も、場合によっては立入を禁止することが可能です。
消防警戒区域の命令権者は消防吏員及び消防団員ですが、消防法第28条第2項から消防吏員、消防団員が火災の現場にいない場合、又は消防吏員、消防団員から要求があった場合は、警察官も消防警戒区域を設定することが可能です。

(3) 火災警戒区域と消防警戒区域の違い

火災警戒区域と消防警戒区域の違いは一言でいうと、現に火災が発生しているか、発生していないかということになります。火災警戒区域は、火災が発生していない段階(災害の発生拡大危険を排除)で設定します。
一方、消防警戒区域は、火災が発生して、活動を迅速に行うために設定します。命令権者についても火災警戒区域は消防長及び消防署長であり、消防警戒区域については消防吏員、消防団員です。

5 救助活動中の活動区域の設定について

交通事故などの救助活動中に、迅速な活動と危険排除のため、活動区域を設定することがあります(図9)。法的な根拠については、消防法第36条第8項の準用規定により、消防法第28条第1項、消防法第29条第1項を根拠として行うことができるのではないでしょうか。

009 交通事故などの救助活動中に、迅速な活動と危険排除のため、活動区域を設定することがある

火災警戒区域、消防警戒区域等の設置(ゾーニング)には誰にでも
一目でわかるような明示が必要です

6 破壊消防について

消防法第29条第2項「消防長若しくは消防署長又は消防本部を置かない市町村にお
いては消防団の長は、火勢、気象の状況その他周囲の事情から合理的に判断して延焼防止
のためやむを得ないと認めるときは、延焼の虞がある消防対象物及びこれらのものの在
る土地を使用し、処分し又はその使用を制限することができる。」とありますが、権限者
は消防長、消防署長及び消防団長です。
実際には現場で活動する消防吏員が行うことになると思いますが、現場で活動する消
防吏員個々に与えられた権限ではありません。しかし事実上権限を委任されていると解釈して活動が可能となります。

7 救助隊の違いについて

救助隊にも様々な種類があります。それらは「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定
める省令」で配置基準等が決められています。また「救助活動の基準」においては、救助
工作車の基準等が示されています。省令第2条では人口10万人以下の消防本部には救
助隊を、省令第4条では人口10万人以上の消防本部には特別救助隊を、省令第5条では
主に中核市に高度救助隊、省令第6条では政令市等に特別高度救助隊を配置することと
されています。省令第3条において、救助隊の数は消防署の数とされています。救助隊員、
救助資器材、救助工作車についてもそれぞれ定められています。
以下にまとめさせていただきます。

上記表の中から隊員保護用器具の基本についておさらいします。


図10
安全帯については、腰骨の位置で締めこまなければいけません。
安全帯の使用における法的根拠は労働安全衛生法、労働安全衛生規則に定められています。

図11
防火衣については、手首および

図12 足首の部分を締めこみ、熱気の進入を防止するとともに、防火衣内の空気層をつくる必要があります

図13
首の部分については襟を立てて、マジックテープでとめる必要があります。なお、熱中症対策のため、水分補給や状況に応じて防火衣を一時的に脱衣して休息するなど対策が必要です。

図14
ハーネスのストラップはしっかりと締めこみ、体にフィットさせ、余った部分はリテイナーにしまわなければいけません。

図15
胸部、背面にあるアタッチメントポイントは、バックアップラインで使用するフォールアレストシステムの一部です。腰の両サイドと腹部にあるアタッチメントポイントはワークポジショニング(メインラインに吊り下がった状態)等で使用します。

8 消防水利について

消防水利には、防火水槽、消火栓、池、河川等があります。消火栓や防火水槽の場合、維持管理は市町村に維持管理設置義務があります。
消防法第21条第1項で「消防長又は消防署長は、池、泉水、井戸、水そうその他消防の用に供し得る水利についてその所有者、管理者又は占有者の承諾を得て、これを消防水利に指定して、常時使用可能の状態に置くことができる。」と定められています。
池、河川等は消防長又は消防署長が消防水利として指定することができ、これを指定消防水利といいます。維持管理義務は消防もしくは指定消防水利の所有者、占有者のどちらかが行わなければなりません。
消防水利は、消防水利の基準に従って設置するよう定められています。消防水利の基準第3条で「消防水利は、常時貯水量が四十立方メートル以上又は取水可能水量が毎分一立方メートル以上で、かつ、連続四十分以上の給水能力を有するものでなければならない。」と定められています。また、設置場所についても「消防水利は、市街地の防火対象物から一の消防水利に至る距離が、別表に掲げる数値以下となるように設けなければならない。」とされており、不特定多数の者が出入りする建物から消防水利に至るまで約100メートル程度(別表に詳しく記載されており、市街地とそれ以外の場所でも指定される距離は違います。)と定められています。

 

図016
消防法第21条第2項において「消防長又は消防署長は、指定をした消防水利には、総務
省令で定めるところにより、標識を掲げなければならない。」とされています。

少しですが、消火・救助に関係する活動について的を絞り、法律との関係について考察させていただきました。普段何気なく活動しても、公務である以上必ず法律の根拠があり、法律の根拠のない活動は慎まなければなりません。場合によっては違法行為になります。
緊急避難行為についても、予測し得る活動については、該当しないと考えられます。
皆様と同じく、私もさらに消防・救助の技術知識の習得についてはもちろん、それに伴った装備を考え、法律を遵守し可能な限り効率的な活動について追及したいと思います。ありがとうございました。

図17
著者:八木 智章(やぎ ともあき)
所属:尾三消防本部 特別消防隊 消防救助隊
履歴:平成24年から特別消防隊へ配属
体質:汗っかき、暑いのが苦手、肉類が嫌い
趣味:筋トレ、キャンプ、クライミング

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