第三文明 2020/10月号, p60-6268-74
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目次
感染を防ぐために
二〇二〇年八月時点で、日本全国の新型コロナウイルス感染新規患者は連日最高数を更新し続けています。もともとコロナウイルスは、一般的な風邪の症状を引き起こすありふれたウイルスですので、私は梅雨時期になれば感染は下火になり、次の流行は一一月くらいからだろうと思っていました。しかし、それは完全に間違っていました。
病院へ来る患者さんたちはきちんとマスクをし、来院時のアルコール消毒や手洗いもきちんとされています。またここ旭川では道ゆく人たちもきちんとマスクをしており、感染対策はしっかり根付いているようです。
感染対策のおさらい
感染は、①感染源、②感染経路、③感受生体の3つの要素が揃って初めて感染が成立します。
①感染源
感染源とは、新型コロナウイルスがその場所に存在することです。新型コロナウイルス患者は、発熱などの症状が出る二日前から感染力を持つことがわかっています。また若年者では感染していても無症状の例が多く報告されています。ですので、誰が感染元となるかわかりません。そのため、感染防御としてはウイルスのいそうな場所に近づかないことが第一です。
また、換気も重要です。感染するためには、ある程度のウイルス数が一度に体に入る必要があります。風が吹いていれば飛沫(つばなどが飛ぶ粒子)は風に流されるので、感染リスクは少なくなります。人が集まる場所では窓を開けて、風通しを確保します。通常の冷房は室内の空気をぐるぐると回しているだけで外気との空気の入れ替えはされませんので、意識して窓を開ける必要があります。空気清浄機は換気の代わりにはなりません。
加えて、湿度を保つことも効果的です。新型コロナウイルスの近縁であるSARSウイルスは、湿度五〇%で最も不活性化され、それより高くても低くてもウイルスの不活化の程度は下がることが示されています。これから冬にかけて、室内の湿度は下がっていきます。室内に洗濯物を掛けるなどの工夫で湿度を確保しましょう。
新型コロナウイルスはどんな消毒薬でもよく効きます。実験で新型コロナウイルスが長く感染力を保ったのは、プラスチックやなどのツルツルしたものの表面に付着した場合です。横浜港に停泊していたダイヤモンドプリンセス号の調査から、感染が疑われる人がいた場合にはトイレを重点的に消毒しましょう。不特定多数の人が出入りする場所では、ドアノブ、テーブルの天板、水道の水栓(水を出したり止めたりする部分)、照明のスイッチが重点対象です(図1)。
図1
感染が疑われる人がいた場合の消毒ポイントはトイレとツルツルした場所です
代表的な消毒剤として、アルコールと次亜塩素酸ナトリウム(商品名ハイター・ブリーチ)、次亜塩素酸水があります。アルコールは高価ですが、噴霧で汚れを落とす力があるので、手指の消毒やドアノブ、スマートフォンなどの拭き取りに用います。次亜塩素酸ナトリウムは安価ですが、噴霧はできず、金属を腐食させます。床やトイレなどの非金属部分での広範囲の拭き取りに用います。次亜塩素酸水はすぐ効力が落ちますので、使用期限と使用方法を守ってください。
②感染経路
感染経路とは、ウイルスが体の中に入る道筋のことです。新型コロナウイルスでは飛沫感染と接触感染が知られています。
マスクは、新型コロナウイルスを他人にうつさないために装着します。ただし、マスクに感染予防効果があるという報告はありません。ウイルスはとても小さいので、マスクの目地を容易に通過します。では、なぜ国はマスク着用を推奨しているのでしょうか。新型コロナウイルス患者は、症状の出る二日前から感染力を持つため、自分はかかっていないと思っても周りにウイルスをばらまく可能性があります。その可能性を少しでも少なくするためにマスクを着用するのです(図2)。
図2
マスクは他の人に新型コロナをうつさないためにつけます。鼻を出さないように金属の留め金を曲げて鼻筋にフィットさせましょう
確実に効果が期待できるのが手洗いです。こまめに手を洗いましょう。新型コロナウイルスが手に付いて、それを目・鼻・口に運ぶことで感染する(図3)ことを防ぎます。石鹸で六〇秒もみ洗いし、流水で十分すすぎます。通常の手洗いせっけんでもウイルスは破壊されますので、しっかり洗えば消毒剤は不要です(図4)。
図3
ウイルスがついた手で目鼻をこすることで感染します。これが接触感染です。
図4
正しく手を洗うことでウイルスは破壊されます。
手指の消毒も有効な対策です。アルコールには、さらさらしたタイプと、どろっとしたタイプがあります。どろっとしているのは皮膚の保護剤が入っているためです。さらさらしたタイプの方がよく効くのですが、手荒れしやすいので、自分の肌の調子を見て選択しましょう。
③感受生体
感受生体とはつまり、ヒトのことです。同じだけのウイルス量に暴露されても感染する人と感染しない人がいます。
体力を落とさないために、睡眠を確保することが大切です。寝不足や急なイベントは体力を消耗させ免疫力を下げます。急なイベントは仕方ないにしても、睡眠の量と質は確保するようにしましょう。毎日規則的な生活を心がけ、睡眠環境を整備しましょう。睡眠前のリラックスも大切です。
2.感染終息の見通しは
現在までに新型コロナウイルスは、二度大きな変異を起こしたことが確認されています。最初は人に感染するようになったこと。二〇一九年暮れに武漢から日本に来た中国人や帰国者によって持ち込まれたタイプで、次がヨーロッパから持ち込まれたタイプです。現在の、猛烈な勢いで患者数を増やしている割に重症者を出さないウイルスが新しいタイプなのかははっきりしていません。新しいタイプとする人たちは、「東京・埼玉型」と名付けています。
全てのウイルス感染症は弱毒化に向かいます。相手を殺してしまうと、ウイルスが子孫を増やせないためです。全世界に広まった新型コロナウイルスが消滅することはないでしょう。しかし、これだけ感染者がいて、その中には高齢者も一定の割合でいるにも関わらず、死者はほとんど増えていないことから、弱毒化した可能性はありそうです。もし本当に弱毒化したのなら、将来的にはインフルエンザのような季節性感染症になる可能性もあります。
引用
・消防職員のための消毒・滅菌・感染症対策マニュアル。東京法令出版社。2018年
・学校の応急処置がよくわかる。東山書房。2020年
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