月刊消防2019年9月1日号 p10-14
救助の基本+α(38) |
はしご水平救助操法第2法 |
月刊消防「救助の基本+α」
【テーマ】 はしご水平救助操法(2)
【プロフィール】
著 者:阿部 徹(あべ とおる)abe.JPG
所 属:いわき市消防本部 常磐消防署 警防第二係
出 身:福島県いわき市
消防士拝命:平成8年4月
趣 味:ウエイトトレーニング、ジョギング、バドミントン
目次
1 はじめに
いわき市は、昭和41年10月に14市町村の合併により誕生し、福島県の東南端、茨城県との県境に位置しており、1,232㎡という広大な面積、南北に約60㎞の海岸線を有する豊かな自然環境と温暖な気候風土に恵まれています。
東北地方においては仙台市に次ぐ人口34万人を超える中核市で、製造業を基幹産業として、水産業及び農林業も盛んであります。また、南部には、石油コンビナート等特別防災区域があり、17の特定事業所が所在しています。
あの東日本大震災から8年余月が過ぎようとしていますが、震災当時から全国の皆様の御支援を受け、市民一人一人が勇気付けられ、復興への歩みを加速させることができ、かつての活気を取り戻しつつありますこと、この場をお借りしまして感謝申し上げます。
いわき市消防本部は、1本部4課5署1分署7分遣所で組織しており、現在の職員数は361名となっております。寄稿に関連する救助業務に係る主な動きとしましては、平成21年6月に高度救助隊の発隊、平成22年から国際消防救助隊への隊員登録を行っています(地図)。
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いわき市管轄説明地図
2 はしご水平救助操法(2)
今回は、数ある消防救助操法の中から、救助現場でも選択事例の多い、はしご水平救助操法(2)(以下「水平2法」という。)について、解説させていただきます。
水平2法は、高所からの救助操法の一つであり、三連はしごの伸梯範囲内での支点構築が容易で、担架を水平状態で救助できることから、要救助者の身体の負担軽減も図ることができ、各消防本部(局)においても、救急隊との連携事案が多いのではないでしょうか。
3 使用資器材【写真1】
担架×1
三連はしご×1
30mロープ×2
担架引上げ用ロープ×1
小綱×5
カラビナ×6
とび口×2
補強材×1
001
使用資機材
4 活動順序及びポイント
⑴ 一箇所吊り担架の作成
平担架の場合・・・巻き結びの方向に注意し、担架フレームの角で十分に締め込み、緩みなく結着する。三連カラビナは、支点として使用するカラビナ以外は安全環を閉める。【写真2、3】
バスケット担架の場合・・・ロープ又はブライドル等を使用し、一箇所吊り支点を作成する。【写真4】
002
担架フレームの角で十分に締め込む
003
三連カラビナは安全環を閉める。
004
一箇所吊り支点を作成する
⑵ はしごの伸てい(架てい)
1番員は2番員と協力し、はしごを伸てい及び架ていする。
★ポイント★
伸ていは、架てい位置から5段以上の長さを目安とする。腰高窓などから救助を行う場合は、窓上方まで伸ていし、はしご先端を壁体に架ていする方法をとる。【図1・図2参照】
⑶ 1番員進入
小綱及び引上げロープを携行し登ていする。【写真5】
⑷ 救助ロープの作成
3番員は、30mロープを2本使用し、先端にもやい結びを作成する。【写真6】
005
小綱及び引上げロープを携行し登ていする
006
ロープを2本使用し、先端にもやい結びを作成する
⑷ 資器材の搬送
引上げロープで、とび口2本を巻きつり結びにより引上げ、担架は3番員が用手で介添えし、同ロープで引上げる。(建物等への干渉に注意)【写真7、8】
★ポイント★
とび口の巻きつり結びは、巻き結びの端末を長くとり、誘導ロープとする。
007
とび口2本を巻きつり結びにより引上げる
008
担架は3番員が用手で介添えしつつ引上げる
⑸ 救助ロープの引き込み及び補強材の結着
救助ロープを横さんに通し、補強材を結着する。【写真9】
★ポイント★
救助ロープの支持点となる横さんの1段下で作業姿勢(なるべく目線より高い位置で作業しないよう注意する)をとり、先に救助ロープを横さんに通して1番員に渡す。補強材は、救助ロープの荷重を利用して安定させ、巻き結び(半結び)で結着する。補強材固定用の小綱は、落下防止のため首にかけた状態で結着し、2箇所の巻き結びは約5㎝の間隔を空けて救助ロープのガイドとする。余長は上部で整理する。
補強材は、堅牢で、必ずはしご幅より長いもの(40㎝程度)を使用し、支かんにも荷重が掛かるものを使用する。
009
救助ロープを横さんに通し、補強材を結着する。
⑹ フレームの作成及び結着
フレームを作成し、はしごに結着する。
★ポイント★
フレームは、とび口先端から1/3の位置に、小綱で巻き結び⇒3回以上巻きつける⇒巻き結び⇒巻き結びの余長で本結び⇒とび口を開く⇒戻り止めとして余長を巻き付け整理する。【写真10、11】
参考までに、二つ折り小綱で、巻き結び⇒余長で本結び⇒とび口を開く⇒戻り止めとして余長を巻き付け整理する。という方法でも、堅牢なフレームを迅速に作成することができます。
フレームの結着位置は、ベランダ手摺などの上部から、横さん2段以上の箇所を目安とする。(1箇所吊担架の高さが約60㎝)【図1参照】
フレームの結着位置は、手摺や窓枠の高さによって変わります。また、結着の要領として、隊員が建物内から結着できる高さの場合は、はしごの外側から、とび口の柄と支かん、刃と主かんを巻き結び(半結び)で結着します。【写真12】
フレームの結着位置が高く建物内からの結着ができない場合は、てい上で作業姿勢をとり、刃と支かん、柄と裏主かんをはしごの内側から巻き結び(半結び)で結着すると作業がし易くなります【写真13】
既製品のクロスバー等を使用する場合は、カラビナを用いて支かんに取り付けます。【写真14】
010
フレームの作成1
011
フレームの作成2
012
とび口の柄と支かん、刃と主かんを巻き結び(半結び)で結着する
013
てい上で結着作業することもある
014
クロスバー等を使用する場合は、カラビナを用いて支かんに取り付ける
⑺ 要救助者の収容
担架に要救助者を収容する。
⑻ 担架搬送
はしごの支点直下に担架を搬送する。
⑼ 担架と救助ロープの結合
ロープの流れに注意し、担架と救助ロープをカラビナで結合する。
⑽ 基底部移動
基底部を壁体から60㎝以上(担架の幅以上)離し、救出中も極力架てい角75°を維持する。
★ポイント★
基底部移動後の掛け金確認を確実に行う。
⑾ 担架保持~確保
隊員2名で担架を持ち上げ、地切り(床面から約10㎝)の段階で一旦救助ロープにテンションをかけ、救出前点検を行う。点検後、必要な高さまで担架を上げ、2番員は救助ロープを確保する。【写真15】
⑿ フレーム保持
1番員と3番員がフレームを保持し、隊長が担架を保持する。
⒀ 救出
フレームを押し出して離ていさせ、ロープを緩めて救出する。【写真16、17】
3 活動上のポイント(留意点)
⑴ 軟弱な地盤の場合、敷板やホースブリッジなどを活用し、接地面を増やすが、滑りやすい材質のものは使用を避ける。
⑵ 可能であれば担架誘導ロープを設定し、担架の接触による要救助者への衝撃、建物等の損傷を防止する。
⑶ 架てい箇所や、活動上損傷させてしまう恐れがある場所などは、予め毛布などで養生する。
⑷ 各所属によって使用する担架の種類も異なるので、担架底部からカラビナまでの高さや、諸元を十分に把握することで、救出プランが立てやすくなります。
⑸ ロープの一ひろ巻き、展開要領を統一する。これによりツインロープの作成も容易になる。
★ポイント★
① 一ひろ巻きは、左手に持った輪の内側に握りこむように巻いていく。【写真18】
② ①の要領で巻いたロープを延長する場合は、写真のように表側(巻き終わり側)を上にして地面に置いて引き出せば、常にロープが内側から出るので、重なることなくスムーズに展開できる。【写真19、20】
015
救出前点検
016
フレームを押し出して離ていさせる
017
ロープを緩めて救出する
018
一ひろ巻きは、左手に持った輪の内側に握りこむように巻いていく
019
写真のように表側(巻き終わり側)を上にして地面に置く
020
常にロープが内側から出るので、重なることなくスムーズに展開できる
5 最後に
水平2法は、冒頭にも述べたとおり、シンプルな設定による高所への支点構築や、要救助者の負担軽減を図ることができるという大きなメリットがありますが、一方で、担架を横にして救出できる間口の確保や、はしごを人力で確保するため不安定になりやすく、最悪の場合、はしごが転倒する危険性があることを理解したうえで活動(訓練)しなければなりません。
今回解説させていただいたのは、当消防本部内で、技術、知識の統一を図ることを目的に配属後、間もない隊員に指導している内容となりますことから、各消防本部(局)の実施要領や指導方法と異なるところもあるかとは思いますが、何より、活動上の安全を重視し、要救助者の苦痛軽減と社会復帰を念頭に置いた活動を目標に、活動時のポイント等をまとめてみましたので、十分な訓練を重ね、それぞれの隊の形を確立していただければと考えます。
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