240124救助の基本+α(82) ファイアーコントロールボックスを活用した警防活動研修 入間東部地区事務組合 濱崎仁

 
  • 324読まれた回数:
基本手技

月刊消防2023/06/01号, p22-25, 2023/07/01号p20-30

目次

プロフィール

■氏名
 濱崎 仁(はまざき じん)
■所属
 入間東部地区事務組合 西消防署消防課 副主幹(消防司令)
■消防士拝命日
平成9年4月1日
■現職拝命日
令和4年4月1日
■派遣等
 ・埼玉県消防学校救助科助教官
 ・埼玉県消防学校警防活動教育教官
・埼玉県防災航空隊(H23.4.1~H26.3.31)
 ・消防大学校 緊急消防援助隊教育科 航空隊長コース
 ・消防大学校 救助科(第73期)
■趣味
 家族とお出かけ・薪ストーブライフ
■氏名
 齊藤 達男(さいとう たつお)
■所属
 入間東部地区事務組合 西消防署高度救助隊 隊長(消防司令補)
■消防士拝命日
平成17年4月1日
■現職拝命日
令和2年4月1日
■派遣等
 ・埼玉県消防学校警防活動教育助教官
 ・埼玉県消防学校警防科「火災性状」外部講師(第17期、第18期)
■趣味
 ファイヤーコントロールボックス・チェーンソーメンテナンス
■氏名
 神藤 祐亮(かんとう ゆうすけ)
■所属
 入間東部地区事務組合 西消防署高度救助隊 (消防士長)
■消防士拝命日
平成17年4月1日
■現職拝命日
令和3年4月1日
■趣味
 キャンプ

https://ops.tama.blue/wp-content/uploads/2023/11/text_small.pdf

text_small

月刊消防「救助の基本+α」

「ファイヤーコントロールボックス(FCB)を活用した警防活動研修」

■写真01個人写真

■氏名

濱崎仁(はまざきじん)

■所属

入間東部地区事務組合西消防署消防課副主幹(消防司令)

■消防士拝命日

平成9年4月1日

■現職拝命日

令和4年4月1日

■派遣等

・埼玉県消防学校救助科助教官

・埼玉県消防学校警防活動教育教官

・埼玉県防災航空隊(H23.4.1~H26.3.31)

・消防大学校緊急消防援助隊教育科航空隊長コース

・消防大学校救助科(第73期)

■趣味

家族とお出かけ・薪ストーブライフ

  1. <はじめに>
  2. <消防本部の紹介>
  3. 教育体制
  4. <指導者もアップデート>
  5. <何故いまFCB(ファイヤーコントロールボックス)を活用した教育が必要なのか?>
  6. <建築様式の変化に合わせて消防活動も変化する>
  7. <耐震性>
  8. <火災性状の特徴>
  9. <ファイヤーコントロールボックスの実施について>
  10. <ファイヤーコントロールボックスの作成>
  11. <繰り返すことで見えてきた課題>
  12. <火災性状の実演>
  13. <作成要領>
    1. ⑴シンプルタイプ
      1. ア切り出し寸法
      2. イ組み立て
      3. ウ作成ポイント
      4. エ学習効果
    2. ⑵4コンパートメントタイプ
      1. ア切り出し寸法
      2. イ組み立て
      3. ウ作成ポイント
      4. エ学習効果
  14. <実施要領>
    1. ⑴A室点火
    2. ⑵A室火災拡大(ロールオーバーからフラッシュオーバー)
    3. ⑶A室開口部を少量の開口(3cm程度)まで閉じる
    4. ⑷B室開口部を開放(A室開口部は開放状態)
    5. ⑸A室とB室の間仕切りを開放
    6. ⑹B室延焼拡大(ロールオーバーからフラッシュオーバー)
    7. ⑺C室開口部開放
    8. ⑻救出①
    9. ⑼B室とC室の間仕切りを開放(A室開口部開放、B室開口部閉鎖、C室開口部開放)
    10. ⑽A室開口部閉鎖(C室開口部のみ開放)
    11. ⑾救出②
    12. ⑿屋内進入(A室開口部少量開放、C室開口部開放)
    13. ⒀C室屋根開放(垂直ベンチレーション)
    14. ⒁A室、B室、C室開口部を一気に全開放(バックドラフト)
    15. ⒂消火(A室開口部のみ開放)
    16. ⒃水流ベンチレーション(B室開口部からノズルを入れてA室開口部より煙を排出)
    17. ⒄前面パネル開放(コントロールボックスの前面を取り外す。)
  15. <状況判断できる隊員になるために>
  16. <数ある手法のひとつ>
  17. <おわりに「我々の仕事とは」>

<はじめに>

埼玉県の入間東部地区事務組合消防本部西消防署消防課の濱崎と申します。この度は、全国の救助隊員をはじめ、多くの消防職員に大変人気のコーナーである「救助の基本+α」に当消防本部(入間東部地区事務組合消防本部)が実施する警防教育のひとつ「ファイヤーコントロールボックスを活用した警防活動教育」について、ピックアップしていただき大変ありがとうございます。また、過去にも本コーナーに「震災対応要領」を紹介させていただいた経緯があったことから、監修者である独立行政法人国立病院機構「旭川医療センター医学博士玉川進先生」より、あらためてお声がけを頂いたことをきっかけに、再び本誌面のコーナーにて当消防本部の職員教育の一部をご紹介させていただく運びとなりました。

<消防本部の紹介>

入間東部地区事務組合消防本部管内(面積49.74㎢)は、埼玉県の南西部に位置し、首都圏から30キロメートルに位置する富士見市・ふじみ野市・三芳町の2市1町から構成され、埼玉県を代表する1級河川の「荒川」を挟み東には、さいたま市、西は所沢市、南は志木市・新座市、北は川越市に接し、荒川低地を擁した火山灰土からなる、関東ローム層の平坦な地形により東京のベッドタウンとして発展した地区であり、管内人口は約26万5千人、消防組織は1本部・2消防署・3分署で、そのうち西消防署に高度救助隊、東消防署に特別救助隊を配置、消防職員数は290名で、専任救助隊員は30名、消防団は3本部23分団、消防団員305名を配備し災害に備えています。

図01入間東部地区の位置

教育体制

近年、消防を取り巻く社会環境は大きく変化し、火災現場の予期せぬ状況の変化、建物構造の大型化・複雑化、大規模な災害への迅速かつ的確な対応が求められています。そうした変化に対応するためには、災害対応力の高度化、専門化をさらに進めていく必要があることから、当消防本部では平成28年より警防力の向上と消防戦術の習得及び各種情報の共有化を目的とした教育プログラムとして、警防活動研修制度を定め、教養(火災の原理)、ホース延長、緊急避難要領(ファイヤーファイターサバイバル)や火災救助活動等、特に発生率の高い一般住宅火災における活動に焦点を当てた研修内容を主として実施しているほか、平成29年度からは、より効果的に火災現象の知識を高めるため、火災性状及びバックドラフトやフラッシュオーバーの発生原理などを、実際に模型住宅を燃やし炎や煙の動きを目で見て学ぶことが出来るファイヤーコントロールボックス(火災性状実演)を活用した研修メニューも取り入れ実施するようになりました。

写真02写真研修

写真0 3写真

研修写真

04-1写真研修

写真04写真研修

写真05写真研修

<指導者もアップデート>

消防も時代、社会の変化に合わせ絶えず変化すること。このことから、常に教育カリキュラムの内容も最新の状態にしておく必要があります。

当該研修を計画する上で、まず最初に検討し決定すべき事項は「指導者」の選任です。この指導者は2段階制にしており、1段階目にあたる指導者は総括及び訓練主担当の役割を担う消防司令補の階級を持つ小隊長クラスの職員、または消防学校において教官、助教官の経験を有する者や学校教育(警防活動教育)を修了した者の中から選任し、2段階目の指導者については、次世代の指導者を育てることを目的とし主任又は主事の消防隊員の中から自らの希望により所属長の推薦を受けた者を充てる仕組みにすることで、研修のコンセプトや課題、研修内容の組み立て方等、先輩指導者の補助に就きながら、その背中からノウハウを学び、複数回の事前会議や調整訓練を経て次世代の指導者として研修現場に立っていく。

このように指導者を2段階制にすることで、研修を通じて指導者も絶えず知識・技術をアップデートし、今、そして今後の時代変化に合わせた火災に対応できる継続的な教育を行っていくことが重要ではないでしょうか。

写真06写真研修写真

06-1写真指導者4名

<何故いまFCB(ファイヤーコントロールボックス)を活用した教育が必要なのか?>

消防白書によると、最近10年内の全国における火災発生件数及び火災による死者数を見ると減少傾向にあります。このことから火災現場を経験した消防職員が減り、経験不足に合わせ世代交代による若い職員の増加によって、「火災現場」がどのようなものであるのか知らない隊員が増えているのが実状です。炎を取扱う我々消防官は「敵:火」を知らなくてはなりません。「彼を知り己を知れば百戦危うからず」孫氏の兵法の言葉です。

敵「火」は危険なもの、危険であるがゆえ、どのように立ち向かうべきかを知り、事故やケガが他人事でなく常に自分にも起こりうるものであるといった危機感を持たせなければなりません。

そう言った危機感を養うために必要な事象を現場で経験できない代わりに訓練や研修で補い、危険な現象そのものを体験させ、自らが危険をジャッジすることが出来る隊員を多く育てるための効果的な方法として、実際に炎や煙の動きを目で見て確認できるFCB(ファイヤーコントロールボックス)による火災性状の実演教育を導入しました。

写真07写真研修

写真08写真研修

写真09写真研修

<建築様式の変化に合わせて消防活動も変化する>

大変残念でありますが、近年、消防職員の火災による殉職事案も発生しております。この原因のひとつには、住宅構造の変化に伴う異常な火災性状の発現があるのではないかと考えられます。これまでの日本の建築物は木造を主体とした建物が多く、蒸し暑い夏を快適に過ごしやすくするために風通しの良い建物が建てられてきましたが、建築技術の向上や生活様式や気候の変化に合わせ、高い住宅性能を持った建物へと変化し、万が一火災が発生しても、「火を外には出さない・もらわない」と言った不燃材を多用する防火性能を備えた建物や、夏は涼しく冬は暖かく「高気密・高断熱の家」「魔法瓶の様な家」などと言ったフレーズの構造を持った住宅が多く建築されるようになってきており、木造の建築物もSRC・RC造(鉄骨・鉄筋コンクリート造)の様な火災性状を見せるようになっています。

このように建物の構造が変化すれば、当然「燃え方:性状」が違う訳です。

例えば、これまでの一般的な木造住宅で火災が発生すると、我々消防が通報を受けてから火災現場に到着するのに約8分とした場合、火災は最盛期を迎えていることが多かったのではないでしょうか。これは、建物自体の気密性が低い上に、不燃化されていないことから、

酸素が建物内に流入し短時間のうちに急激な火災性状に発展してしまうと言うことが考えられます。当然、この様な状況では屋内進入し消火活動を行うこと難しく、火災戦術としては守勢防ぎょ的な包囲戦術を執り外部から放水し延焼防止を図る活動になるかと思います。

<耐震性>

また、合わせてもう一つ気にかけておく必要があるのは、建物の強度です。我が国は地震多発国と呼ばれ、過去の大震災の教訓を受け建物の耐震基準が改正されてきました。1981年の新耐震基準においては、屋根の重さを考慮した構造計算が義務付けされ、屋根重量に応じた強固な作りが必要になり、さらに2000年には新耐震基準として建物の荷重に対する地盤が耐える力に応じた基礎構造が必要になるなどして、都度改正されてきた耐震基準の前後では地震に対する建物の耐震性能も変化してきました。このことは、一概に全てとは言い切れませんが、火災による影響を受けた場合の倒壊危険度を判断する上で必要な事項であるのではないでしょうか。

<火災性状の特徴>

例えば、瓦屋根の一般的な住宅(30坪程度)であれば、屋根の重さは約6000㎏と言われています。火災出動した先の現場が瓦屋根で1981年以前(古い耐震構造)の建物であった場合、耐震性能が低いということは火災の影響にも弱く、延焼すれば倒壊する可能性も高いと評価することが出来ると思います。一方、高気密・高断熱と呼ばれる住宅が火災になった場合はどうでしょうか。屋根材は軽く内装は不燃化され、躯体強度が高く外部からのもらい火は受けにくい。そして万が一、建物内から出火しても高気密であることから、室内にどんどん煙(可燃性ガス)、熱の層が溜まり、ある一定の温度になった時、天井付近の可燃性ガスが燃えるロールオーバー(フレームオーバー)と言った現象や、天井や壁、内容物が熱分解することで更に煙(可燃性ガス)が溜まりながら下がり、最後には建物内の収容物や可燃性ガスの発火点に達し、急激に室内全体が燃え上がります。この短時間で燃え広がる現象をフラッシュオーバーといい、おおよそ450℃くらいから起こる可能性が高くなっています。また、もう一つの現象としては、密閉された区画内において燃焼が継続し高温を保ったまま酸素が足りないような状態で、ドアーを開けた場合にバックドラフトという爆発的な燃焼が起こる可能性もあります。もし、屋内進入中にこのような爆燃現象が発生した場合、濃煙熱気で退路が失われるなどしてしまい、重大な事故に繋がってしまう可能性が高いのです。これらの特徴を持つ高気密・高断熱住宅での火災活動は、外からの放水では消火することが難しいため、屋内に進入しての消火活動が効果的であることが多いことから、フラッシュオーバーやバックドラフト等の兆候を早い段階で把握し、または発生を防ぎながら、安全を確保しつつ、状況に適した放水・排煙技術、熱画像直視装置等を駆使し活動を行っていくのかを見極めていく必要があるのです。

この能力を養うためには、ファイヤーコントロールボックスによる実演教育を通して、常に変化し行く火災現象とは、科学や物理の教本に記載されている燃焼特性のとおり発生しているものであると言うことを理解させ、火災現場で起きている目の前の状況(敵)を冷静に見極めてどの様に火災を防ぎょするべきか状況を評価する。この能力(状況評価:サイズアップ)は、各隊の隊長のみならず、隊員一人ひとりが判断し「危険」だと発信できる力を身に付けることが出来れば、ひと現場複数の目で危険な前兆を察知し、隠れ潜む危険から自分自身、仲間(活動隊員)や要救助者を守ることに繋がっていくのではないでしょうか。

ここまで濱崎仁執筆


ここから齊藤達男神藤祐亮執筆

■写真02個人写真

■氏名

齊藤達男(さいとうたつお)

■所属

入間東部地区事務組合西消防署高度救助隊隊長(消防司令補)

■消防士拝命日

平成17年4月1日

■現職拝命日

令和2年4月1日

■派遣等

・埼玉県消防学校警防活動教育助教官

・埼玉県消防学校警防科「火災性状」外部講師(第17期、第18期)

■趣味

ファイヤーコントロールボックス・チェーンソーメンテナンス

■写真03個人写真

■氏名

神藤祐亮(かんとうゆうすけ)

■所属

入間東部地区事務組合西消防署高度救助隊(消防士長)

■消防士拝命日

平成17年4月1日

■現職拝命日

令和3年4月1日

■派遣等

■趣味

キャンプ

<ファイヤーコントロールボックスの実施について>

入間東部地区事務組合消防本部西消防署の高度救助隊長の齊藤達男と申します。

私が、ファイヤーコントロールボックスを実施するに至った経緯ですが、消防本部内での警防活動研修を行うにあたり、若年隊員に火災性状を理解してもらうために実施したことがきっかけでした。また、このときの研修参加隊員の対象は主事、主事補(消防副士長、消防士)で、研修参加者の多くが、建物火災(1棟が全焼するような火災)に出場した経験がない消防職員ばかりであったことから、分かりやすく火災現象を教え伝えるためにはどのような方法が良いか検討し様々な資料を探していたところ、「PALMER’SDOLLHOUSE」(http://www.stopbelievingstartknowing.com/assets/sbsk-website-dollhouse-plans.pdf)に辿り着きました。

<ファイヤーコントロールボックスの作成>

ファイヤーコントロールボックス未経験の私がゼロベースから設計図を起こすことはとても難しいものでした。作成要領や説明要領等、参考となる部分は多かったのですが、前面パネルの開口部がスライド式ではないことや、屋根裏部屋の必要性の有無について課題も多く苦慮していたところ、とある勉強会で知り合った仲間が数多くのファイヤーコントロールボックスの作成、実施経験を有するという話を聞き、資料提供をして頂けないかとお願いしたところ快く設計図や説明要領等の資料提供をしていただくことができました。この資料を参考に消防本部内でなんとかファイヤーコントロールボックスによる火災性状の実演を実現できないだろうかと考え初号機の作成に取り掛かりました。

また、作成するにあたり課題となるのは材料の調達でしたが、タイミング良く当消防本部の訓練棟の大規模修繕が重なり改修工事の際に廃棄された煙道の合板をファイヤーコントロールボックスの材料として確保することが出来ました。ようやく作成に着手することができたのですが、簡単に作れるだろうと箍を括っていた私の安易な考えと技術の未熟さに見るに見かねた上司(その当時の東消防署副署長)がアドバイスと技術指導をして下さったおかげで、試行錯誤を繰り返しやっとの思いで初号機が完成しました。

いよいよ警防活動研修本番に完成したファイヤーコントロールボックスを使用し、仲間から提供して貰った説明要領の通りに燃焼実演を行ったところ、スムーズに研修を行うことができました。この場をお借りして、資料提供をしてくれた仲間と技術指導をしていただきました上司に感謝申し上げます。

<繰り返すことで見えてきた課題>

試行錯誤して、高精度に作り上げたはずのファイヤーコントロールボックスでも燃え抜けが発生してしまいました。燃え抜け箇所はA室天井(D室床)でした。燃焼説明の順序ではA→B→Cの順に開口し燃焼させて行きD室だけは唯一開口を行いません。この意図は区画形成の重要性やフローパス(換気と流路)について説明するためであり、燃え抜けが発生してしまうと説明通りに進行できなくなってしまう可能性がありました。しかし、一度も開口していないD室の床部分が燃え抜けてしまったため、実演による火災性状やフローパスを表現する効果が薄れてしまうということに気付かされました。このような経験を踏まえて次回からの研修においてはA室全面に石膏ボードを張り付けるという工程を付け加えることにしました。

また、上記の「PALMER’SDOLLHOUSE」や仲間の資料でもA室に石膏ボードを張り付けることと示されており、設計図通りに作成することの重要性を嚙み締めました。

<火災性状の実演>

研修では4部屋タイプのファイヤーコントロールボックスの他に長い箱(シンプルタイプ)を燃やして中性帯やロールオーバー、ガスクーリングを形成させ視覚的・体験的に学んでもらうことを目的としたボックスを作成しました。このボックスは以前に雑誌の一コマに掲載されていた写真を基に見様見真似で作成したもので、スムーズに表現したい火災性状を作り出すことが出来ることから、併せて火災性状実演に取り入れてみたところ、とても良い学習効果を与えることが出来ました。

<作成要領>

⑴シンプルタイプ

ア切り出し寸法

切り出し寸法は図の通りとなります。(図2-1)

図2-1シンプルタイプ切り出し寸法図

イ組み立て

(ア)組み立てイメージ及び寸法は図の通りですが、合板の歪みや切断精度により、若干のズレは生じます。(図2-2~図2-5)

図2-2シンプルタイプ出来上がりイメージ

図2-3シンプルタイプ組み立てイメージ図(正面)

図2-4シンプルタイプ組み立てイメージ図(背面)

図2-5シンプルタイプ組み立てイメージ図(断面)

(イ)右側燃焼室部分は燃え抜け防止のため、「天井面」、「床面」、「垂れ壁」、「立ち上がり」に石膏ボードを張り付けています。(写真2-1、2-2)

写真2-1燃焼室に石膏ボードを張り付けた状況

写真2-2燃焼室「床面」、「立ち上がり」の石膏ボードの張り付け状況

(ウ)左側前室部分も高い受熱により時間の経過と共に燃え抜けてしまうため、前室の「前面」にも石膏ボードを張り付けています。

ウ作成ポイント

(ア)石膏ボードを箱の内側に張ることにより、耐火性は向上し箱の耐久度は上がりましたが、内壁が燃料とならないため燃え上がりに難がありました。そこで、燃焼室の天井に石膏ボードの上から合板を張り付け燃焼促進するようにしました。また、壁体等も燃料にしつつ燃え抜けを防止するために「背面」、「側面」は合板を更に貼り付けました。(写真2-3)

写真2-3燃焼室の内張りが完成した状況

(イ)燃焼室の耐火性を高めることにより、それ以外の部分に影響を及ぼすため、前室の「前面」の内側にも石膏ボードを張り付けました。

エ学習効果

(ア)中性帯の確認が同時に大人数で行えます。(写真2-4)

(イ)熱を感じることができ、防火装備の重要性を理解することができます。

(ウ)注水によるガスクーリングの効果を確認できます。(写真2-5)

写真2-4中性帯を確認している様子

写真2-5ガスクーリングの効果を確認している様子

⑵4コンパートメントタイプ

ア切り出し寸法

切り出し寸法は図の通りです。(図2-6~図2-8)

図2-64コンパートメントタイプの前面切り出し寸法図

図2-74コンパートメントタイプの枠部分切り出し寸法図

図2-84コンパートメントタイプの背面及び蓋周辺切り出し寸法図

イ組み立て

(ア)組み立てイメージは図の通りですが、合板の歪みや切断精度により、若干のズレは生じます。(図2-9)

図2-94コンパートメントタイプの組み立てイメージ

(イ)A室は燃え抜け防止のため、内側6面全てに石膏ボードを張り付けています。(写真2-6)

写真2-6A室の内側に石膏ボードを張り付けている様子

(ウ)B室も長時間の受熱に耐えるために側面と背面に石膏ボードを張り付けます。

(エ)C室は内壁の補強は必要ありませんが、費用及び時間に余裕があるのであれば側面と背面の内側に合板を張り付ける(二重にする)ことにより耐久性が増します。

(オ)D室は内壁の補強は必要ありません。

ウ作成ポイント

(ア)石膏ボードをA室の内側に張ることにより、耐火性は向上し箱の耐久度は上がりますが、壁が燃料とならないため燃え上がりに難がありました。そこで、燃焼室の内壁(天井、背面)には石膏ボードの上から合板を張り付け燃焼促進するようにしました。(写真2-7)

写真2-7A室の内張りが完成した状況

(イ)A室が出火室となり、その後の燃焼促進もA室に木材(燃料)を追加していきます。ですが、その他の部屋には木材(燃料)の追加を行いませんので、その後の燃料とするためと実際の住家をイメージするためにも各部屋にミニチュアの家具を作成配置しました。

エ学習効果

学習効果は以下の点が挙げられます。

(ア)中性帯の確認が行えます。

(イ)1開口部での吸気排気性状が確認できます。

(ウ)ロールオーバー、フラッシュオーバーの確認が行えます。

(エ)各ベンチレーションの確認(水平、垂直、水流)が行えます。

(オ)救出中における開口部の開口や注水による影響等を確認することができます。

(カ)レイン注水による消火効果について確認が行えます。

(キ)区画形成及びフローパスについて確認が行えます。

<実施要領>

3燃焼及び説明要領

⑴A室点火

A室を点火させると3分から5分程度で中性帯が確認できます。これは1開口部で吸気と排気が行われているための圧力差によって生じます。(写真3-1)現場到着した時点で最初にこの開口部を見分した場合、他の区画と繋がっていない、若しくは繋がっていたとしても他に開口部はないことが判断できます。

写真3-1中性帯の様子

⑵A室火災拡大(ロールオーバーからフラッシュオーバー)

燃焼を促進させてロールオーバーからフラッシュオーバーへの移行を確認します。このときに熱画像直視装置にて温度計測を行うことにより、ロールオーバー時期及びフラッシュオーバー時期を確実に確認できます。(写真3-2)(動画3-1)

写真3-2フラッシュオーバー時期の様子動画3-1

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑶A室開口部を少量の開口(3cm程度)まで閉じる

A室開口部の扉を徐々に閉鎖し、炎の動きを確認します。3cm程度の開口幅まで扉を閉鎖すると徐々に炎が小さくなり時間が経つと消えます。これは吸気が制限されて酸素供給が少量となると共に、A室内の可燃性ガスが充満することによって燃焼上限界を超えて燃焼できない状態でもあります。この状態でしばらくすると、無炎燃焼を意味する煙(可燃性ガス)が層状と脈状とが入り乱れる状況で噴出してきます。(写真3-3、写真3-4)この後に扉を一気に開放するとバックドラフトが発生します。(動画3-2)

写真3-3煙が層状に噴出している様子

写真3-4煙が脈状に噴出している様子動画3-2

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑷B室開口部を開放(A室開口部は開放状態)

この時点ではA室とB室の間仕切りは取り外していません。B室の煙の性状は勢いのあるものではないため、A室とB室は開通していないことがわかります。現場到着したときも同様で、この2つの開口部を見分できた場合、この2区画は開通していないということが見て取れます。(写真3-5)(動画3-3)

写真3-5B室開口部を開放した状況動画3-3

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑸A室とB室の間仕切りを開放

間仕切りを取り除いた途端にA室からB室へ勢いよく煙が流れ、B室開口部から勢いよく煙が噴出されます。また、このときのA室とB室の開口部からの煙の噴出位置(高さ)は同一線上であります。(写真3-6)現場到着した場合にこの2つの開口部を見分したならば、A室とB室は繋がっていると言えます(動画3-4)。

写真3-6A室とB室の間仕切りを開放した状況動画3-4

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑹B室延焼拡大(ロールオーバーからフラッシュオーバー)

上記⑸ではA室の燃えが強く、その圧力の逃げ場としてA室開口部及びB室内となるため、B室へと延焼拡大していきます。A室の燃えがここまで強くない場合は、A室の扉を徐々に閉め、排気の大部分をB室開口部とし、B室を延焼拡大していきます。同一レベルでの吸気排気を行っていることから水平ベンチレーションとなりますが、本来の目的の水平ベンチレーションではないことに留意していただきたいと思います。B室でもA室同様にロールオーバーからフラッシュオーバーが確認できます。

⑺C室開口部開放

このとき、A室は燃焼促進しておくために開口部を全開放しておき、B室開口部は全閉鎖しておきます。この時点で開口されているのはA室のみであるため、再度双方向換気が行われます。この状態でC室開口部を開放します。煙の状態は勢いのあるものではないことが確認できます。これが意味することとして、C室は他の区画と繋がっておらず、A室からの流路も形成されていないということです。(写真3-7)(動画3-5)

写真3-7C室開口部を開放した状況動画3-5

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑻救出①

上記⑺の状態で人形を配置します。ここでのイメージとしては木造2/0専用住宅2階居室またはベランダに手振りの要救助者が1名いる状況です。この状況で救出を行う場合、A室またはB室から屋内進入して救出に向かうとなると、消火を行いながら前進しなければならず、かつ、C室に入室した途端に流路が形成されてしまうので、要救助者を危険に晒してしまいます。そこで、この状況下での推奨救出パターンとしては屋外から三連はしごを架ていして介添え救出することであると考えます。もし、ベランダに要救助者が避難しているのであれば、開口してしまっているC室の扉を閉めてもらうことにより流路に伴う延焼拡大を防止でき、更には危険な状態から回避することができます。当然ながらこれは私達の救出を行ううえでの安全にも繋がります。この状態は火災初期から中期に相当し、ここでの救出を目指したいと思っています。(写真3-8、写真3-9)(動画3-6)

写真3-8 2階居室またはベランダに手振りの要救助者が1名いる状況

写真3-9屋外から三連はしごを架ていして救出する状況動画3-6

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑼B室とC室の間仕切りを開放(A室開口部開放、B室開口部閉鎖、C室開口部開放)

次のフェーズとしてはA室からC室までの流路を形成することです。A室からC室までは繋がった状態であるため、高低差を利用してA室開口部全体が吸気、C室開口部全体が排気となります。(写真3-10)現場到着した際に、最初にC室開口部を見分した場合に、この建物のどこかに火点があり、その部屋からC室までは流路が形成されており、吸気もどこかに存在することがわかります。その火点や吸気口はこのあと建物を一巡することで判明しますが、最初に見た開口部と煙の状態でそこまでの推測が可能となります。

また、C室開口部から噴出している煙が可燃性ガスであるのかどうかをガスバーナーにて着火します。(写真3-11)写真のとおり、煙は着火します。ここで伝えたいこととして、「煙は燃料」であるということです。屋内進入しての消火は無効放水を行わなければ少ない水量で水蒸気の発生を最小限にし、自らが熱伝導により熱い思いをせずに迅速な消火へと繋がります。一方、屋内進入するということは燃料の中に身を投じるということになります。屋内進入することはこのリスクを背負って消火や救出に向かうという点を下命する指揮者と屋内進入する隊員は双方に理解する必要があると思います。(動画3-7)

写真3-10B室とC室の間仕切りを開放した状況

写真3-11煙をガスバーナーにて着火した様子動画3-7

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑽A室開口部閉鎖(C室開口部のみ開放)

C室開口部のみの開放であるため、この1開口部で吸気排気を行っており、不完全燃焼状態であります。(写真3-12)現場到着した際に、最初にC室開口部を見分した場合に、双方向換気が行われているため、火点はC室若しくはこの建物のどこかにあり、開いている開口部はC室開口部のみである可能性が高いことがわかります。上記⑼と異なる点は吸気口がC室以外にないという点です。(動画3-8)

写真3-12C室開口部のみ開放している状況動画3-8

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑾救出②

再度人形を配置します。上記⑻ほどの高条件ではありませんが、救出の最終段階として位置づけます。再び木造2/0専用住宅2階居室またはベランダに手振りの要救助者が1名いる状況です。⑻同様に屋外から三連はしごを架ていして介添え救助するのが推奨救出パターンであると考えます。(写真3-13)この状況下で玄関若しくは1階のどこかの開口部を開放してしまいますとC室が区画形成されていなかった場合、C室開口部全面が排気となってしまいます。そうなってしまうとこの要救助者は危険に晒されてしまうことになります。(写真3-14)当然ながらこれだけの重要局面においてC室とは異なる開口部から室内に向けての放水は厳禁となります。(写真3-15)従ってこのケースの場合、屋外から三連はしごを活用して進入し、進入隊員は要救助者を安全な位置に移動するとともに救助者及び要救助者の安全を確保するためにも可能な限り区画形成を行う必要があります。更に、私達は「人命救助最優先」のもと活動を行っています。この人命救助活動中の最重要局面において火災の様態を変化させてしまうような不用意な開口部の開放や放水は避けるべきであると言えます。指揮隊を中心に中隊長や小隊長が要救助者情報や人命救助活動中であることを全体に周知するとともに、統制を図ることが重要であると言えます。(動画3-9)

写真3-13C室開口部のみ開放している状態での救出状況

写真3-14救出中にA室開口部を開放し流路が形成された状況

写真3-15A室内に向けて噴霧放水をした状況動画3-9

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⑿屋内進入(A室開口部少量開放、C室開口部開放)

A室開口部を建物1階玄関だと仮定します。イメージするシーンとして救助隊により玄関ドアの破壊が完了し、これから屋内進入するという場面です。玄関ドアを開放し内部の状況を確認しているときにC室開口部から炎が噴出していると、この開口部に対して放水してしまうことがあります。この場面でC室開口部に対して噴霧注水などの放水をしてしまうと圧力の逃げ場がA室開口部となります。よって、これから進入しようとする隊員を危険に晒してしまう放水となってしまいます。(写真3-16)屋内に向けての放水は全てを否定するものではありませんが、これから屋内進入するという局面において今すぐに行わなければならないというものではありません。このケースとしても指揮隊を中心にこれから屋内進入する旨を全体に周知する必要があると言えます。再掲でありますが、屋内進入隊員は「煙は燃料」の中に身を投じることになります。ここも重要局面であるということを活動隊員全員が認識する必要があると思います。(動画3-10)

写真3-16C室内に向けて噴霧放水をした状況動画3-10

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⒀C室屋根開放(垂直ベンチレーション)

本来の垂直ベンチレーションは火点の直上屋根に開口部を作成するものですが、コントロールボックスであるため、C室屋根の開放となります。日本において馴染みが薄く、実績も少ない戦術ですが、煙をいち早く屋外へ排出するという点では他のベンチレーションと比較した場合、群を抜いて優秀です。(写真3-17)この煙にもガスバーナーにて着火を行います。(写真3-18)当然、着火しますが、再度「煙は燃料」であるということを記憶に残していただきたいと思います。垂直ベンチレーションを実施するにあたり、それに伴うリスクや損失と成果を天秤に掛ける必要があります。(動画3-11)

写真3-17垂直ベンチレーションを行っている状況

写真3-18垂直ベンチレーションの煙にガスバーナーにて着火している様子

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⒁A室、B室、C室開口部を一気に全開放(バックドラフト)

燃焼を促進させて全ての開口部を閉鎖します。一定時間置いた後にA室、B室、C室の開口部を一気に開放します。(写真3-19、写真3-20)(動画3-12、動画3-13)

写真3-19開口部を全て閉鎖した状況

写真3-20バックドラフトを発生させた状況

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版
【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⒂消火(A室開口部のみ開放)

A室天井に向けて3から5秒程度のレイン注水を実施します。(写真3-21)あれだけの火災であったにも関わらず、ほぼ鎮圧状態となります。(写真3-22)地域にもよりますが、先着隊到着時というのは消防力劣勢という場面が多い状況です。そのような場面で屋内進入消火を試みる場合、進入準備から火点に到着するまでの時間は相当程度見込まれます。そこで、レイン注水を選択し、ホースラインを1線さえ確保できればある程度の消火や延焼防止に努めることができます。(動画3-14)

写真3-21A室天井に向けてレイン注水を行っている状況

写真3-22レイン放水後の状況動画3-14

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⒃水流ベンチレーション(B室開口部からノズルを入れてA室開口部より煙を排出)

屋内から屋外へ向けて噴霧注水を行うとノズル付近で発生する負圧により煙が吸われ、その煙は水流に乗って排出されます。(写真3-23)水流ベンチレーションは各消防本部(局)で実現場でも実施経験が多いと思いますが、筒先一つで消火から排煙が行えるとても優れたベンチレーションであると認識しています。これを行うにあたり、吸気口が必要となりますが、この場合の吸気口はB室開口部となります。水流ベンチレーションを行っている際には吸気が発生しているため、酸素が供給されることにより残り火に再着火が生じます。上記に筒先一つと記しましたが、この残り火をこの一口で消火を行うと手間や鎮火までの時間を要してしまうため、可能であるならば筒先をもう一つ追加して、一口は水流ベンチレーション、もう一口は消火という役割で排煙及び消火を同時進行で行えば早期の鎮火へと導くことができます。(動画3-15)

写真3-23水流ベンチレーションを行っている状況動画3-15

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

⒄前面パネル開放(コントロールボックスの前面を取り外す。)

D室開口部を開放して内部の状況を確認するのも一つでありますが、D室内を確認する場合、一人ずつでないと確認できないという課題を過去に得ました。その教訓から大人数に短時間でD室内の状態を確認してもらうために前面パネルを取り外すようにしました。(写真3-24)

このコントロールボックスの燃焼の際にD室は一度も開放されていません。ここで伝えたいこととして2点あります。1点目は流路について、2点目は区画形成の重要性についてです。どちらも似たようなニュアンスですが、例えば屋内進入してD室まで人命検索を行ったとします。D室まで検索を行って、D室開口部やC室とD室の間仕切り(ドア)を開けたまま退出した場合にどのようになるかを想像します。このコントロールボックスではD室を一度も開けなかったからD室がここまで綺麗な状態で残っています。これがD室の開口部や間仕切り(ドア)を開けた状態であったならば、火災は進行し、D室にまで延焼は及んでいることとなります。私達が行った行為が延焼を拡大してしまうことにも繋がるため留意が必要と考えます。次に、区画形成についてですが、屋内進入してD室の検索を行う場合に、この部屋を良い状態で残したいと考えるならば、C室とD室の間仕切り(ドア)はD室進入後に閉めるということが必要です。間仕切り(ドア)を閉めることにより、この区画は延焼経路から外れることになるため、自らの安全を確保しつつ室内の検索が行えます。また、この区画は自らのセーフティーエリアとしても活用できます。D室内を検索した結果、要救助者がいないと仮定し、この建物から退出する場面を想像します。退出しようとしたところ、退路は火炎が激しく屋外へ退出できないという状態であった場合に、もう一度この区画(D室)に戻れば自身の安全は確保できます。その後に無線機を活用して自分たちの現在地を屋外にいる指揮隊や隊員に知らせて救助を待つことができます。以上の2点がここで伝えたかったことになります。(動画3-16)

写真3-24前面パネルを開放した状況動画3-16

【月刊消防/2023年07月号 動画】東京法令出版

<状況判断できる隊員になるために>

例えば、建物火災で屋内進入することになったとします。一つの例として、部隊の指揮者は玄関付近で指示下命を行い、隊員が屋内進入を行います。指揮者は内部の火煙の性状や区画の詳細というものを自らの目で確認することができません。このとき屋内での状況を判断できるのは進入している隊員となります。このことから、当然、リアルタイムでの状況判断や対処については進入している隊員でないとできません。だからこそ、状況を評価して判断できる活動隊員の強化が必要であると思っています。

現在、火災が減少傾向にあることで、実火災で消防活動を経験したことがある隊員も確率的に減ってきています。ファイヤーコントロールボックスでは隊員の危機感を養うことの他に、ミニチュアながらも火災を体験でき、イメージを高めることができます。視覚で得た情報をイメージとして膨らませ、訓練ではそのイメージに則した行動を展開する能力を身に付けつつ、自らが判断して行動できる隊員を育成するためにもこのファイヤーコントロールボックスを活用した実演を続けていきたいと思います。

ここまで齊藤達男執筆


ここから濱崎仁執筆

<数ある手法のひとつ>

一重に、ファイヤーコントロールボックスと言っても様々な形、実演方法や手順、そして説明要領がある中で、この度は、本誌面を通じて全国の消防職員の皆様に当消防本部が行っている警防活動研修のカリキュラムの一つを掲載させていただきましたが、この度、ご照会させていただきました内容については、あくまでも当消防本部なりに、訓練や検証を重ね多くの文献などから習得した事項に基づき作り上げてきた内容であることから、数ある手法の一例であることを理解いただければと思います。

<おわりに「我々の仕事とは」>

火災発生時の最優先事項は、人命救助最優先です。そこで発信する「人命」とは要救助者の命と救助者(私たち自身)の命です。この仕事で犠牲になってしまった先人の方々、この仕事を全うしたくても病に伏しその思いを果たすことができなかった大切な仲間たちの思いも背負い日々、「消防という仕事」を強く認識し、常日頃から活動しなければならないのです。

そして私たちの任務完遂とは、朝「行ってきます」と出た玄関に必ず「ただいま」と笑顔で帰ること、これが「我々の仕事」なのです。

そして最後に、この言葉は、私の大切な恩師から埼玉県の消防官たちに伝えられた教導です。「命を救うためには、どんな妥協もしない。諦めない。必ず救って必ず帰る。」

全国すべての消防職員が、健康で事故や負傷なく安全確実なうちに消防職務を完遂されますよう切に願います。ありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました