210506救助の基本+α(54) 可搬式ロープウインチ

 
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基本手技

月刊消防 2021/1/1

月刊消防「救助の基本+α」

「可搬式ロープウインチ」

目次

著者

階級・氏名  消防司令補 平田 博章 ひらた ひろあき

所属  泉州南消防組合 泉州南広域消防本部
警防部 警備課 高度救助隊

出身地 大阪府阪南市

消防士拝命 平成12年4月1日

趣味  旅行、格闘技、クライミング

 

1 はじめに

この度「救助の基本+α」掲載を担当させて頂きます、泉州南消防組合泉州南広域消防本部高度救助隊の平田と申します。寄稿にあたり掲載内容について検討した結果、当組合の救助工作車に積載している「可搬式ロープウインチ」について紹介させて頂きます。

2 消防組合の紹介

泉州南消防組合は、平成25年4月に、旧泉佐野市消防本部、旧泉南市消防本部、旧熊取町消防本部、旧阪南岬消防組合消防本部の4つの消防本部の広域化により、大阪府最南部に位置する3市3町を管轄する消防組合として誕生しました。現在の管轄人口は約29万人、管轄面積は213.7k㎡で府内では大阪市に次いで2番目の広さとなります。北に大阪湾、南に紀伊山脈を望み、管内には高速道路、鉄道、食品コンビナート、原子炉実験施設、更には海上空港である関西国際空港を擁する地域特性となっております。
消防組織は、1本部、5署、2分署、4出張所で、消防職員数は378名(令和2年4月1日現在)です。救助体制については、消防本部に高度救助隊1隊(水難救助隊兼務)、署に特別救助隊1隊(水難救助隊兼務)兼任救助隊2隊(うち1隊水難救助隊兼務)を配置し、日々業務を行っています。

3 高度救助隊について

私が所属する高度救助隊は、平成31年3月1日に救助体制の更なる高度化を目指し発足しました。高度救助隊員は消防本部警防部警備課に所属する16名で構成され、5名乗り組みで運用しています。

当救助隊は、三つ打ちロープ等を使用した従来型救助と、カーンマントル構造ロープ等を使用した都市型救助が出来るよう資機材を配備し、現場の状況に応じて使い分けることとしています。近年では欧米等の手法や基準に基づいた救助活動が全国的に広まり、当救助隊においてもNFPA(全米防火協会)規格に準拠する資機材を導入し講習等を通じて様々な救助手法を学んできましたが、それらをあくまで一つの手法と捉え、我が国の伝統である“「安全」「確実」「迅速」”という救助隊の基本を忘れることなく、日々訓練に励んでおります。

 

 

写真① 救助工作車に積載している従来型資器材と都市型資器材等

4 可搬式ロープウインチについて

当救助隊が配備する可搬式ロープウインチについては、高度救助隊発足時に導入した救助工作車Ⅲ型とともに配備しました。商品名は「ポータブルキャプスタンウインチ」(以下「ポータブルウインチ」という)です。ポータブルウインチは主に林業で伐採木の運搬等にチルホールの代替として使用されています。

 

 

 

 

写真② ポータブルウインチ本体

 

4サイクル ホンダGX-35CCエンジンを搭載し、牽引力はシングルラインで最大700Kgです。寸法は35cm×28.9cm×26.1cmで、重量は9.5Kgと軽量であり、搬送が容易な仕様となっています。

 

写真③ ポータブルウインチを背負う隊員

使用方法

1.電源を入れて始動グリップを引き、エンジンをかけます。
2.暖機運転しながらアンカーに固定します。
3.エントリーフックにロープを掛けてドラムの下側を通します。
4.ロープをドラムに3~4回巻きつけます。
5.ロープをEXITフックにかけます。
6.ポータブルウインチから1m程離れて立ち、ロープのたるみが取れるまでゆっくり水平に引きます。
7.エンジンの回転数を上げて牽引を開始します。

 

 

写真④ ポータブルウインチにスタティックロープを設定

5 ポータブルウインチを活用した救助方法について

ポータブルウインチがどのような救助事象で活用するのが適しているか検証、訓練を実施しましたので、その救助方法についてご紹介させていただきます。

導入以前に実施してきた低所救助

導入前まで、都市型救助で実施する場合は、メインラインにMulti purpose device (MPD)と滑車を使用した3倍力システム、ビレイラインにはタンデムプルージック、若しくはメインラインと同じ設定のミラードシステムを基本とし、救助を行ってきました。

この場合、3倍力システムを設定する空間の確保や、空間を確保しても素引きの3倍の長さを引かなければならないことや、一定のスピードで継続して引き揚げることが出来ず、ロープの引きしろが無くなる度、要救助者の引き揚げが一時停止してしまいます。そのため、特に長距離における低所救助には引き揚げに時間を要していました。

 

 

 

写真⑤ メインライン(オレンジ)に3倍力システム、ビレイライン(赤)にタンデムプルージック

 

 

 

写真⑥ 3倍力のミラードシステムで引きしろが無くなった状態(Choke O block )

 

ポータブルウインチを活用した低所救助

要救助者引き揚げ時、メインラインにポータブルウインチ、ビレイラインに不測の事態にすぐに対応できるようMPDを設定し、ポータブルウインチで牽引することで先述の問題点が解消され、引き揚げに要する時間が短縮出来ます。さらに、動力を活用するため救助隊員の体力の消耗も最小限に抑えることが可能となりました。

写真⑦

 

 

写真⑦ メインラインにポータブルウインチ、ビレイラインにMPDを設定

クレーンのフックを支点にした低所救助訓練

過去にも事故事例のあった、高さ約20mの橋桁から要救助者が落下した想定でポータブルウインチを使用して、検証を兼ねた低所救助訓練を実施しました。まず、救助工作車後部にあるフックでアンカーを取り、クレーンのフックを支点にして、メインラインにMPD、ビレイラインにタンデムプルージックで隊員2名を投入しました。

 

 

 

 

写真⑧ 想定訓練場所

 

 

 

 

 

写真⑨ メインラインにMPD、ビレイラインにタンデムプルージックで隊員2名投

隊員到着後、ビレイラインのタンデムプルージックを離脱し、ポータブルウインチを設定、救出時はビレイラインとメインラインを入れ替え救出します。

 

 

 

写真⑩ タンデムプルージックをポータブルウインチに入れ替え救出

 

結果、要救助者と救助者2名を約20m引き揚げた救出時間は約1分30秒でした。

 

 

 

 

写真⑪ 要救助者と隊員を引き揚げ

また、検証のため同想定で隊員4名により3倍力のミラードシステムで引き揚げた結果、救出に約4分かかる結果となりました。

 

 

 

 

 

 

写真⑫ 3倍力のミラードシステムで救出

その他にも、過去の事故事例の中から場所を選定して山岳での滑落事故想定訓練や、崖からの転落事故想定訓練を実施し、長距離における低所救助においてポータブルウインチを活用することで、「安全」「確実」は元より、「迅速」な救助の向上を実感することが出来ました。

 

 

 

 

写真⑬ 崖からの転落を想定した訓練。

※救助工作車の後部フックの前方に支点がある場合には両フックにMPDを設定し、その前方の支点にポータブルウインチを設定することで、より安全で操作性が良い。

 

また、ポータブルウインチを使用してスタティックロープを展張、検証したところ、256Kgという結果であり、システム作成や繰り返しロープを引く手間が省けるため、時間の短縮に効果的でした。

倍力システムでの展張と比較したところ下表のとおりです。

 

 

 

 

 

 

写真⑭ ポータブルウインチでロープ展張時の張力計表示

6 おわりに

近年、複雑多様化する大規模災害や特殊な災害に対して、迅速かつ効果的に対応するため、時代の流れとともに消防救助手法も進化していく必要があります。今回、ポータブルウインチを活用しての低所救助を主として紹介させていただきましたが、導入されていない消防本部様も多いかと思います。あくまで低所救助の1つの手法として参考にして頂ければ幸いです。災害現場においては環境や要救助者の状況、安全性等、その現場の実情に応じて救出方法を判断することが重要です。様々な救助活動の教訓・課題を踏まえ検証・研究し、実情に合った手法を見極め、 選択し、その手法を体得するために訓練を重ね、時代にあわせた資機材の配備と技術の向上が継続される体制づくりを目指したいと思います。

 

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