190119今さら聞けない資機材の使い方(68)エンジンカッター

 
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基本手技

雑誌 近代消防 2019/2月号

エンジンカッター

多治見市消防本部 北消防署 警防担当 大島早人

目次

1 はじめに

皆さんは、消防車等に積載されているエンジンカッターの基本的構造や使用方法を知っていますか?
近年の消防活動では、人命救助や効率的な注水のための火点検索、また、排煙のために有効な開口部を設定することが必要です。
そこで、開口部を設定するにあたり、様々な方法や資機材を使用する方法がありますが、今回は、扉等を破壊し、開口部を設定する場合に使用するエンジンカッターについて紹介します。

2 エンジンカッターとは


円形の切断刃を内燃機関により、高速回転させることで、コンクリートや石材、金属や鋼材などを切断する道具です。当消防本部は、STIHL社製並びにパートナー社製を使用しています。今回はSTIHL社製を参考に解説します。(写真1、2)

 

写真1 エンジンカッター 横から

写真2 エンジンカッター 上から

① ガード
切削屑や、火花から、使用者を保護する。
② ブレード
※後述
③ 前ハンドル
前ハンドルの保持する場所で、刃の角度が決定する。
④ スロットル
握り具合により、エンジンの回転数を決定する。
⑤ デコンプバルブ
シリンダー内の圧を逃がし、スターターロープを引きやすくする。
⑥ スライドコントロール
始動時はSTART
アイドリング時はⅠ(自動で移動します)
エンジン停止時は0の位置にする。
⑦ チョークレバー
※後述
⑧ 燃料ポンプ
燃料タンクからキャブレターへ強制的に燃料を送る。
⑨ スターターロープ
引くことで、スパークプラグが点火し、エンジンが始動する。

3 ブレード

エンジンカッターには、部材を切断するための砥石状の刃が取り付けられています。

ブレードには大きく分けてダイヤモンドブレードとレジノイドブレードがあります。

☆ダイヤモンドブレード
アスファルトやコンクリートの切断に適しているブレードです。(写真3)
金属のブレードの周辺に、ダイヤモンドが散りばめられ、このダイヤモンドが、切断対象物をひっかくことにより、削ることができます。注意することは、ダイヤモンドブレードは、金属の切断には適していません。金属を切断するときは、摩擦熱により、高温になります。ダイヤモンドは熱に弱く溶けてしまい、本来の切断力が発揮できません。火災現場では、周囲が高温となる可能性があり、注意が必要です。

写真3 ダイヤモンドブレード

☆レジノイドブレード
アスファルト、コンクリート、石材、鉄の切断に適していますが、用途により付け替えが必要です。
金属用(赤)と非金属用(緑)の2種類のブレードがあります。(写真4)
ブレード全体が砥石状になっているため、斜めに切断しても、ブレードが止まり難いです。しかし、切断していくと摩耗するため、切れば切るほど小さくなるのが特徴です。

写真4 レジノイドブレード(金属用)

※ダイヤモンドカッターは金属を切断できるマルチブレードもあり、切断する材質に対して、ブレードの交換は不要ですが、ダイヤモンド(炭素)を使用しているため、熱を帯びると炭化し摩耗が激しく、長時間の使用には向きません。

4 使用手順

• エンジンを始動させる前に、ガードや、ブレードの緩みがないかを確認します。可能な限り水平なところで、エンジンを始動します(写真5)

写真5 始動前点検

• スロットルトリガーインターロックと、スロットルトリガーを同時に押さえながら、STARTの位置にスライドコントロールを動かします。(写真6)

写真6 スライドコントロールをSTART位置

• チョークレバーを必要に応じてセットします。(写真7)

写真7 チョークを閉める

• デコンプバルブを1回押し、シリンダー内の圧を逃がします。(写真8)

写真8  デコンプバルブを押す

• 燃料ポンプを7~10回押します。バルブに燃料が満たされていても実施します。(写真9)

写真9 燃料ポンプを押す

• 左手でハンドルをしっかり保持し、右手でスターターロープをゆっくりと引き、かみ合ったら、素早く引きます。
※初爆(エンジンが始動しようとする爆発現象)後、エンジンがかからなかった場合は、チョークレバーをもとの位置に戻し、スライドコントロールを再度設定し、スターターロープを引き直し、エンジンを始動します。(写真10)

写真10 始動姿勢

5 エンジン始動後

約30秒間フルスロットルにし、エンジンの回転数を安定させます。スロットルレバーを握ると、スライドコントロールは自動的に、Ⅰの位置まで移動します。
ブレードは、正しくキャブレターが設定されていれば、アイドリング状態で回転しません。回転する場合は、キャブレターの調整が必要です。
これで、エンジンカッターを使用する準備が整いました。

6 保持姿勢

• エンジンカッターの重量を前方の腕で保持します。体に密着させることで、安定して使用できます。基本的に、肩までの高さで使用します。目線は切断点を注視します。(写真11)

写真11 保持姿勢①

• 両足は、肩幅で開きますが、エンジンカッターの切断延長線上に、自分の足を置くと負傷する可能性がありますので注意が必要です。(写真12)

写真12 保持姿勢②

7 『キックバック』と『プルイン』について

「キックバック」は、使用者に向かって切断刃が跳ね返ってくることです。切断刃の上部4分の1を使用すると、キックバックが発生しやすくなります。(写真13)

写真13 キックバックのモーメント
「プルイン」とは、切断物を上方から切断するときに、前に引っ張られる力です。確実にハンドルを握り、作業を行ってください。(写真14)

写真14 プルインのモーメント

8 切断時の注意点

切断時は、エンジンを全回転にしてエンジンカッターの重みを利用して切断してください。
また、切断対象物を切り終わる際に、対象物がどのように動く可能性があるのか、テンションが加わっていないか等、予測し安全に留意してください。

9 チョークレバーとは

英語では「choke」と書き、直訳すると、「窒息させる」、「詰まらせる」の意味になります。
チョークレバーの役割は、円滑にエンジンを始動させることです。エンジンが、まだ暖まっていない状態や、特に寒冷期にはスターターロープを引く前に、チョークレバーを閉めておきます。これにより、キャブレターが空気を給気する量が減り、混合気の燃料の比率を高め、エンジンを始動しやすくします。
ただし、初爆やエンジンが始動した後もチョークレバーを閉めたままにすると、反って酸素が供給されなくなり、エンジンが停止してしまいます。

10 チョークレバーのピットフォール(チョークがかぶる)

エンジン内には、スパークプラグがあります。燃料タンクに入った燃料は、キャブレター内で混合気となりその後、シリンダー内で圧縮されます。この時に、スパークプラグから火花が出ることにより、点火、爆発が起き、エンジンが始動します。「かぶるとは」、このスパークプラグが、燃料やオイルで濡れてしまい、点火、爆発がおきない状態です。
かぶってしまったら、スパークプラグを取り外して清掃し、キャブレターの混合比を調整することが確実だと思いますが、現場では時間の余裕がありません。緊急的な対処法の一つとして、チョークを開いた状態にして、何度かスターターロープを引くことで、スパークプラグについている燃料を吹き飛ばし、始動できる可能性があります・
ただし、この方法は一時的にかぶった場合の対処法なので、頻繁にかぶる場合は、スパークプラグや、キャブレターの点検が必要です。定期的なメンテナンスを実施しましょう。

11 終わりに

エンジンカッターは、危険が伴う資器材ですが、前述した内容を知り訓練することで安全に使用できます。
開口部を設定する方法は、窓ガラスを割ったり、バール等でこじ開けるといった方法もありますが、破壊活動においてエンジンカッターは有効な資器材です。
今回、紹介させていただいた内容が、現場活動や訓練の参考になれば幸いです。

参考文献
①まるごと1冊ドア解放マニュアル
(消防活動研究会 編著)
②STIHL取り扱い説明書

著者


名 前:大島 早人(おおしまはやと)
所 属:多治見市消防本部
北消防署
出 身:岐阜県 美濃加茂市
消防士拝命:平成28年4月1日
趣 味:ゴルフ 洗車

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