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100829Discovery and Experiences 経験から学べ!(第5回)情報伝達



100829Discovery and Experiences 経験から学べ!(第5回)情報伝達

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Discovery and Experiences 経験から学べ!

第5回

情報伝達

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Discovery and Experiences 経験から学べ!

講師

栗栖 大(くりす だい)

所属:函館市消防本部
年齢:33歳
趣味:ゴルフ(最近ご無沙汰になってしまいました)
消防士拝命:平成9年
救急救命士資格取得:平成9年
JPTEC Instructor
ICLS 日本救急医学会認定 Instructor
DMAT


情報伝達(第5回)

 前号では,救急活動の基本となるバイタルサインについて綴った。今号は,その観察結果を搬送先医療機関へ伝達することに着目していきたい。

 搬送先医療機関への情報伝達の方法として,携帯電話を用いて連絡する方法と指令室を介して伝達する方法とがある。私の所属する函館市消防本部では前者が用いられ,救急隊員として技量の問われる一つの要素となっている。

 搬送先医療機関が複数存在する地域では,この伝達内容により傷病者に適当な医療機関への搬送,傷病者や家族が希望する医療機関への搬送が実現するものである。また,搬送先医療機関の数を問わず,的確な情報伝達は傷病者が病院で受ける初療にも大きく影響すると言えよう。

 現場にいない医師や看護師へ短時間で的確に現場や傷病者の状況を言葉のみで描写することは非常に困難なことであり,言葉での伝達ゆえに救急隊員の意図が伝わりにくい現実を目の当たりにしている救急隊員も少なくないだろう。私もその一人であり,救急技術として日々の研鑽を欠かすことができない重要なものと位置づけている。


ケース1

18時03分「37歳女性,呼吸を苦しがっている。」との指令にて出場した。
 現場到着時,傷病者はトイレ前廊下に左側臥し,意識レベルJCSⅠ桁,呼吸速く,両手にはテタニー様症状が出現していた(絵1)。さらに顔面が紅潮して発汗も多量に認められた。

 傷病者から主訴の聴取を試みるも過呼吸状態で声にならず,一緒にいた夫から「食後,トイレに行った。バタンと大きな音が聞こえたため様子を見に行くとトイレ内で倒れているのを発見,救急要請した。トイレからは自分が出し,その際に頭を痛がっていた。普段はA精神科クリニックに掛かっている。」と聴取した。観察したところ,四肢麻痺および瞳孔異常は認められなかったが,血圧を測定すると210/100㎜Hgであった。担架を使用し車内収容,バイタルサインの再測定を実施しながら,脳外科専門病院へ連絡した(絵2)。

 救急隊「37歳女性,食後,トイレに行き倒れた。呼吸が速く,両手にはテタニー様症状が認められる。傷病者から主訴は聴取できず,四肢麻痺および瞳孔異常は認められない。掛かりつけ医療機関は,A精神科クリニックである。」
医 師「意識状態が悪いのか。」
救急隊「いいえ。意識レベルはJCSⅠ桁である。過呼吸様症状を呈し声にならないようだ。」
医 師「当院は脳外科専門病院である。その症状であれば精神科輪番病院か内科二次輪番病院へ搬送せよ。」(絵3)
救急隊「夫から倒れた後,頭痛も訴えていたと聴取した。」
医 師「現在も訴えているのか。」
救急隊「いいえ。」


 その後,別の脳外科対応可能な二次医療機関へ連絡し搬送,傷病者を引き継いだ。医師による初診時の傷病名はくも膜下出血であった。

 ケース1の検証
 携帯電話により救急隊から医師へ直接受入要請した事案であった。傷病者接触時の状況および観察結果を伝達したのだが,救急隊側の脳疾患も考慮しての受入要請が伝わらず,結果として受入不可との返答であった。傷病者を見ていない医師には,救急隊からの情報により,どのような傷病者が想像されたかを考えてみたい。

 「呼吸が速く,両手にはテタニー様症状が認められる。」との情報から過換気症候群である可能性が高いことは容易に判断できる。過換気症候群の場合,それに至る要因が重要である。A精神科クリニックに掛かりつけであることから精神的な要因が考えられる。また,トイレに行ったことから腹痛も要因の一つとされる。ただし,救急隊からの情報では腹痛という言葉がなかったため今回は否定される。さらに四肢麻痺および瞳孔異常という脳疾患を疑わせる所見も観察されなかったことが精神疾患をより強く印象付けたのであろう。もし,私が電話を受けた者であれば,脳疾患を患っている傷病者とは想像できない。

 では,どのようにすると,傷病者を見ていない医師にも的確な情報を伝えられたのだろう。次のようにまとめてみた。

 「37歳女性,食後,トイレに行き倒れたもよう。意識レベルはJCSⅠ桁だが,呼吸が速く声にならない状態である。夫がトイレから傷病者を救出した際,頭痛を訴えていた旨を聴取,さらに血圧は210/100㎜Hgで四肢麻痺および瞳孔異常は認められない。脳疾患の可能性も考慮し貴病院を選定した。その他の症状として,テタニー様症状も呈している。掛かりつけはA精神科クリニックである。」

 最初に年齢・性別,発症状況を伝達,次に主訴である可能性が高い頭痛,それに随伴する所見として血圧測定値,さらに他の観察結果および掛かりつけ医療機関という順番を付けた内容である。分析してみると,今回のキーポイントは,頭痛および血圧測定値である。それらを前段に話すことにより,この傷病者の緊急度・重症度が印象付けられる。その他の随伴症状も伝えるが,後段に話すことで前段の内容を踏まえて聞くことになる。さらに連絡先医療機関へ選定理由をしっかり伝えることにより,現場にいる救急隊員の判断を伝えることができる。これらの要素が情報伝達には必要とされると考える。

 推奨する情報伝達方法

 前述のケースを含めて,私が考える情報伝達方法を紹介する。

 1年齢,性別
 2主訴
 3現病歴(発症機転,受傷機転)
 4随伴症状,その他の症状
 5バイタルサイン
 6病歴(既往歴,現病名)
 7病院選定理由
 8病院到着予想時間

 全てのケースがこれらに当てはまるわけではない。当てはめようとすること自体が無謀とも言える。しかしながら,自身のパターンを作ることは基礎の習得には不可欠であり,この基礎のもと臨機応変が可能になると考える。実際,傷病者や家族が強く希望する場合には病院選定理由を先に伝えたり,掛かりつけであれば先に傷病者名および生年月日を伝えたるなど,場合により変更している。

 しかしながら,共通して言えることは,主訴および病院選定理由は具体的に伝えるように心がけている。目で見えない内容を聞く際に端的に箇条書きのような話し方は聞き手にとって理解しやすいからである。ダラダラと長く話すことは聞き手に話しのポイントを理解させることが困難な場合が多い。

 情報伝達訓練
 私が救急技術の研鑽として行っている訓練を紹介したい。ここで紹介する訓練方法は,その一部分であり,コミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルなどの知識・技術は基礎として習得しておくべきものと考える。

 1 救急出場から帰署後,出場した救急隊員以外に情報伝達する。(絵4)

 2 相手に伝達内容から想像されるものを答えてもらう。
 3 出場した3名の救急隊員で,回答と実際の傷病者との違いや不足部分を列記する。

 4 出場した3名の救急隊員で,列記したもので重要なポイントを抽出する。   (例:絵5)
 5 出場した3名の救急隊員で,伝達内容の中で不要なものを列記する。
 6 4,5を整理し,この出場における推奨伝達内容を作成する。

 上記6をまた別の人に試すことができると,さらに錬成されるだろう。傷病者を実際に見て,話して,観察した救急隊員が出場していない者へ短時間で説明し理解してもらう。出場していない者は出場した救急隊員の情報のみで,その傷病者がどのような病態に侵されており,今後何が必要となるかをより具体的に回答できるか否かで情報伝達の精度を計ることができる。その結果を出場した救急隊員で検証し,的確な情報伝達内容を作成する。この積み重ねが様々なケースに対応できる能力を構築する糧となる。

まとめ

 今回は情報伝達の中でも医療機関をターゲットとしたケースを取り上げたが,指令員への報告や情報伝達,帰署後の上司への報告など,様々な場面で応用できるスキルであると考える。このスキルを習得することは傷病者を適切な病院搬送へ結びつけることは然ることながら,傷病者や家族の搬送先希望に応えるなど住民サービスの向上にもつながる。結果として,救急隊の信頼度が向上するだろう。また,搬送先医療機関の初療体制や医師の初診対応へも反映する可能性があり,傷病者の利益につながることになると考えられる。

 傷病者や家族,関係者が注視している中での受入要請などの場面があり,情報伝達の中でも救急隊員の意図を伝えることが最も困難であると感じる。あえて専門用語を使用するなどの工夫も必要となる。

 情報伝達の技術は医療知識のみならず,基礎となるコミュニケーションやプレゼンテーションのスキルが不可欠なものであり,日常生活においても技術向上に努めていけるものと考える。


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10.8.29/9:20 PM

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