190503今さら聞けない資機材の使い方(72)ゾンデ棒

 
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基本手技

近代消防2019年5月号

●今さら聞けない資機材の使い方 72 ゾンデ棒 (砂川地区広域消防組合 砂川消防署 奈井江・浦臼支署 井上堅登)

目次

【はじめに】

今回「今さら聞けない資機材の使い方」で救出検索用のゾンデ棒について紹介することになりました。砂川地区広域消防組合 砂川消防署 奈井江(ナイエ)・浦臼(ウラウス)支署の井上堅登です。今回このような機会を与えて下さった関係者の皆様に感謝申し上げます。

私は救急救命士の資格を平成28年3月に取得し、同年4月より消防吏員として勤務しております。拝命から3年目となりますが、消防活動に使用する資機材は多種多様であり、全てを把握しきれていないのが現状です。その中でも特に、この地域特有の資機材は何かと考えたときに、今回の資機材を紹介することに決めました。

私の所属する砂川地区広域消防組合は、砂川市、奈井江町、浦臼町及び上砂川(かみすながわ)町の1市3町を管轄し、約2万7000人の住民の安心と安全のために活動しております。

国土交通省の豪雪地帯対策特別措置法の豪雪地帯指定では、北海道全域が「豪雪地帯」と指定されております。その中でも積雪の度が特に高く、積雪により長期間交通が途絶され、住民の生活に著しい支障が生じる地域を「特別豪雪地帯」として指定しています。当組合の管轄地域では、砂川市と浦臼町が「特別豪雪地帯」に指定されており、非常に降雪量の多い地域となっております(001)。

今回紹介する「ゾンデ棒」は当組合のように降雪量の多い地域に特化した資機材です。

001

特別豪雪地帯である砂川市の2019年2月の様子。

【ゾンデ棒とは】

「ゾンデ棒」とは、降雪量の多い地域において、雪の中に埋没してしまった人の人命検索に使用する、いわゆる人命検索棒です。別名「プローブ」とも呼ばれます。

近年ではバックカントリースキーなどが流行し、ビーコンやシャベルなどに併せて、ゾンデ棒も必携品となっています。バックカントリーなどで使用される市販のゾンデ棒にはスケール(測り)が付いており、人命検索よりもその地の積雪を測る用途に使われることのほうが多いのが現状です。ゾンデ棒の長さは用途や環境に合わせて様々であり、2m弱のものから、3m以上のものまであります。

中にワイヤーが入っており、折り畳み式でコンパクトに収納でき、尚且つ瞬時に組み立て可能なものが主流です。材質はカーボン製のものや、アルミニウム製のものなどがあり、雪山の内部に硬い物体があっても簡単に歪むことのない丈夫な構造になっています。

【消防でのゾンデ棒の用途】

消防でのゾンデ棒の用途は、雪山遭難者の捜索救助活動、屋根からの落雪による埋没者の捜索活動などがあります。特に、雪崩が発生する危険性のあるエリアや、豪雪地帯を管轄する消防では、ゾンデ棒を導入している消防も多いです。捜索にはゾンデ棒を用いゾンディーレーンという方法で行います。ゾンディーレーンの方法については後に紹介します。

【当組合での対応】

当組合では先に紹介したゾンデ棒ではなく、現状では園芸棒(002)を代用しております。市販のゾンデ棒よりも安価に購入できます。

園芸棒は組み立ても必要ないため、すぐに使用できるメリットもあります。また、目盛り(スケール)を付けることで市販のゾンデ棒と同様の使用法で使用可能です(003-006)。


002

市販の園芸棒

003

園芸棒にテープを巻く

004

等間隔にテープを巻くことで刺したときの深さが分かる

005

隊員が持つ部分は棒のイボで手を傷めないように広くビニールテープを巻く。

006

完成。テープの部分に先端からの深さを示したテープを貼ってある。

【ゾンデ棒を使用した検索法(ゾンディーレーン)】

※今回はゾンデ棒の基本的な使用方法を述べるため、後の実働内容は、狭い範囲の検索となることをご了承ください。

⑴救助に伴う人員編成

 ①ゾンデ隊(007)

 ②シャベル隊(008)

 ③記録員(009)

 ④安全管理員(010)

どの隊に何人を配置するという明確な決まりはありませんが、主に上記のように4つの隊を編成します。ゾンデ棒を用いて捜索をするゾンデ隊、ゾンデ隊が発見した要救助者をシャベルにより救出するシャベル隊、時間管理や重複捜索を避けるための記録員、現場把握や更なる雪崩の発生など二次災害の防止に努める安全管理員が必要です。

007

ゾンデ隊

008

シャベル隊

009

記録員

010

安全管理員

⑵検索要領

 ①検索範囲の設定

まず、検索範囲の設定が一番重要といっても過言ではありません。雪崩等により埋没した人間は、エアポケットが確保された状態でも1時間以上の生存はかなり厳しいとされています。埋没者の救出は一刻を争うため、周辺の状況などから、要救助者が埋没している可能性が高い一定の検索範囲の決定並びに範囲が分かるように印をつけます。印は棒を刺したり(011)、ラインを引いたり(012)して付けます。

011

検索範囲の決定(1)。棒を刺して示す。

012

検索範囲の決定(2)。ラインで示す。

 ②避難場所と退路の確認

再び雪崩が起きた場合に避難する場所と、その経路を全員で確認します。全員で共通認識を持つことで2次被害を軽減させます。また、退路を決定しておくことで、救助者が万が一埋没してしまった場合でも退路の位置を検索することで早期救出が望めます(013)。

013

避難場所と退路の決定(指さし呼称)

 ③入場・退場場所の決定

捜索が進むにつれ、雪の上は踏み荒らされていきますが、捜索を行っていない範囲を踏み荒らさぬよう、出入口を決定しておく必要があります。隊員各自がバラバラな方向に退場しないようにしましょう(014)。

014

入退場は一列で。未検索範囲を踏み荒らさないこと

④人員配置

捜索は、埋没している可能性が高い場所から始めるのが原則です。検索範囲の狭い場所は、端から端へと検索するのが望ましいです。検索の際はゾンデ隊を横1列に配置し、隣の隊員とぶつからない程度の間隔で配置します。検索中は横1列(レーン)を崩さないようにします(015)。

015

人員配置は一直線とする

⑤捜索方法

捜索の際は、必ず同じタイミングとスピードで、まっすぐゾンデ棒を突き刺します。端に配置(右か左)した隊員が号令するか(016)、隊長など1人の指揮者を決めてその隊員の号令や指示に合わせます(017)。雪崩の捜索の場合は、下流から上流に向かい捜索します。これは、雪崩による埋没者は下流まで流されて埋没している可能性が高いことと、再び雪崩が発生した際にいち早く退避することが出来るためです。

ゾンデ棒を同時にゾンデ隊全員で突き刺し(018)、埋没者に触れる感触が無ければ抜き、1歩(60㎝程度)前進し(019)同じ要領で捜索を繰り返していきます。

016

隊員の号令でゾンデ棒を突き刺す場合。写真では右端の隊員が号令している。

017

隊員以外で指揮者を決めて突き刺す場合。写真では記録者が号令している。

018

ゾンデ棒を同時にゾンデ隊全員で突き刺す

019

埋没者に触れる感触が無ければ抜き、号令に合わせて1歩(60㎝程度)前進する

(3)捜索方法

また、ゾンデ棒による捜索方法には、精度別に3つの方法があります。

①スピードゾンデ(020) ~ 両足を広げて、その中間を刺して捜索

②2点ゾンデ(021,022)   ~ 両足を広げて、その足の先2点で捜索(写真)

③3点ゾンデ(023,024)   ~ 両足を広げて、中間・足の先の3点で捜索(写真)

スピードゾンデは捜索が早く、3点ゾンデに比べて制度は劣りますが、ゾンデ隊の人員が十分に確保できていない場合に、早急な発見を強いられている場合はこの方法が1番適しています(図7)。

020

スピードゾンデ

021

2点ゾンデ。正面から

022

2点ゾンデ。斜めから

023

3点ゾンデ。正面から

024

3点ゾンデ。斜めから

 

ゾンデ隊の人員が十分に確保されている場合には2点ゾンデで捜索するのが適しています。

3点ゾンデは、精度が高い方法になりますが、スピードゾンデや2点ゾンデに比べて時間を要してしまいます。埋没してから長時間経過している場合や、遺体の捜索などには適しています。

また、1度の捜索で要救助者を発見できなかった場合は、左右にずれて2度目の捜索を行う(025)など、新しい範囲で捜索します。

要救助者を発見した場合ゾンデ棒は刺したままにし、シャベル隊によるゾンデ棒周辺の除雪作業を開始します(026)。

救出完了後、要救助者を避難場所(安全区域)に移動します。

025

1度の捜索で要救助者を発見できなかった場合は、左右にずれて2度目の捜索を行う

026

要救助者を発見した場合ゾンデ棒は刺したままにし、シャベル隊によるゾンデ棒周辺の除雪作業を開始する

要救助者が多数いる可能性がある場合には、要救助者発見後ゾンデ隊は、他の範囲の捜索を継続し(027)、シャベル隊はゾンデ隊が発見した要救助者の捜索に徹底します。埋没した際にエアポケットを作成できていなかった場合、生存できる時間は極めて少ないため早急な救助が必要になります。

027

要救助者が多数いる可能性がある場合には、ゾンデ隊は他の範囲の捜索を継続する。シャベル隊はゾンデ隊が発見した要救助者の捜索を行う。

(4)捜索のポイント

①ゾンデ棒はまっすぐに突き刺す!(刺入角度が5度ずれるだけで、ゾンデ棒の先端位置は数十cmのずれとなってしまう)(028)

②ラインは乱さず横1列で行う(029)。

③指揮者の合図により、「すすめ!刺せ!」(写真)で行っていく。

④現場の状況から、最も適している捜索方法で行う(スピードゾンデ、2点、3点)。

⑤救助者の安全は最重要項目!安全確保に努める!(退避場所、退路等の確認)(030)

028

刺入角度が5度ずれるだけで、ゾンデ棒の先端位置は数十cmのずれとなってしまう

029

ラインは乱さず横1列で

030

最重要項目は救助者の安全

【まとめ】

所属ごとに、埋没者を捜索する資機材、捜索方法、環境や人員配置には、様々な選択肢があると思いますが、重要なことは救助者の意思の共有です。

屋根の除雪中に落雪とともに転落し、埋没してしまう事案も想定されます。ゾンデ棒の使用方法、操作方法を理解し、早期に救出できるよう日々の訓練が重要となります。

今回、ゾンデ棒を使用した訓練や、ゾンデ棒について調べていくことで、私自身も知識を深めることが出来ました。この記事を読んでくださった皆様の中にも、復習になったと思った方や、ためになったと感じてくれた方がいらっしゃれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

【著者】

 

井上 堅登(イノウエ ケント)

砂川地区広域消防組合砂川消防署 奈井江・浦臼支署

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平成28年4月1日 消防士拝命

出身 富良野市

趣味 野球、スキー、自動車

(著者写真)9枚目

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