190115救助の基本+α(32)水難救助

 
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基本手技
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月刊消防2019/1, p19-23

目次

1 はじめに

「救助の基本+α」シリーズの水難救助編を投稿させていただくことになりました、今治市中央消防署 消防副士長 河野 祐輝と申します。

今治市は、古くから海上交通の要衝として栄え、瀬戸内海は、その多島美から東洋のエーゲ海とも言われており、平成11年に開通した「瀬戸内しまなみ海道」(西瀬戸自動車道)は、それらの島々を縫うように11本の橋で本市と広島県尾道市とを結び、その景観の美しさは、世界的な観光資源となっています。また、平成28年には、「村上海賊」(水軍)が日本遺産に認定されるなど、歴史的文化遺産にも恵まれた地域です。

 「瀬戸内しまなみ海道」最大の特徴は、徒歩や自転車でも渡ることができることです。全長70kmのサイクリングコースは、日本初の海峡を横断する自転車道であり、世界有数の多島美を楽しむことが出来るコースとして、世界中のサイクリング愛好家から注目を集めており、現在、本市では、愛媛県とともに「サイクリストの聖地」を目指し、様々な取組を行っているところです。

 市域は、東西25km、南北45km、総面積419.14k㎡で人口は160,740人となっています。

 当消防本部は、1本部3署5分署で構成され、消防職員数217名で市民の安心・安全なまちづくりに取り組んでいます。

 本市は、総延長約341kmの海岸線を有し、ため池も全域に多数点在することから、多発する水難事故に対応するため、昭和56年に水難救助隊を発足させました。現在37名の水難救助隊員を擁し、地域事案に即した訓練を行い、個々のスキルアップに励んでいます。また、水難学会指導員の資格を持つ隊員は、市内の小中学校に出向き、プールで「UITEMATE」(浮いて待て)の指導を実施するなど、幼い子供の命を水難事故から守る取り組みを積極的に行っています。

2 水難救助

 水難救助とは、湖沼、河川、海等の水域において発生した遭難、行方不明者等を水難救助器材等を活用して救出することです。水難救助の様態としては、遊泳中に流され又は水没したもの、河川等への転落、船舶の衝突又は転覆等で水中へ転落、乗り物が水中へ転落、地震、大雨等の災害に伴うものなどがあり、救助活動に際しては、危険性を強く認識するとともに、平素から潜水業務に関する基礎知識と技術の向上に努め、陸上と水上(水中)の連携体制を確立し、隊員個々の技術を高め迅速、確実かつ安全な部隊の活動が特に要求されます。

今回は、当消防本部の訓練時の写真を参考に水難救助活動時の各項目について説明させていただきます。

3 水難救助車両(写真1~5)

 水難救助資機材搬送車は、定員9名で、車内後部には、出場途上、隊員が潜水スーツやスクーバセット等の着装が可能なスペースを設けています。また車両の上部には常時使用可能な状態のゴムボートを積載しています。

写真 1 車両前方

写真 2 車両側方

写真 3 車両後方

写真 4 車内 空気ボンベ、スクーバセット等

写真 5 車内 三点セット、ブイ、ロープ等

4 水難救助方法

【三点セットによる救助(写真6~8)】

 溺者救助等、レスキューモードの時には三点セットで入水し、救助活動を行います。注意点として、溺者から目を離すと、見失ってしまう危険があります。一度、沈んでしまうと、水深が深い場合、スクーバセットに切り換えて再度、救助活動と後手に回ることになるため、常に要救助者の動向を観察しながら救助活動を行うことが重要です。

写真 6 三点セット 前

 

写真 7 三点セット 後

 

写真 8 ウェットスーツ(セパレートタイプ)

スクーバセットによる救助

水中検索時には、スクーバセットで入水し、救助活動を行います。水中での活動は、陸上と違いコミュニケーションが取りづらくなるため、陸上隊と潜水隊の共通認識・潜水隊員間の共通認識を持つことが重要です。

共通事項

(1)検索ロープ合図

  ア 開始:1回、停止:2回、発見:3回、緊急:連続

  イ 合図の重複(例 2回:停止中なら開始、進行中なら停止)はしない。解らなくなるため。

  ウ 陸上よりも水中の伝達は解り難いので、合図ははっきり大きく行う。「これ合図?」と隊員に思わせないよう意識する。

  エ 検索ロープが弛んでいる、途中で屈折部がある、索間の隊員がロープを握る等の伝達障害を発生させない。

  オ 合図は返信があって初めて成立するものであることに注意し、返信がない場合等憶測で行動を開始しないこと。合図が成立しない場合は、少し間を空けて繰り返し行う。

  

(2)確認項目(陸上で行う)

ア 事案内容・状況の周知(無線内容・現場到着時、関係者への聴取等)

イ 隊員の配置

ウ 検索方法

エ 合図の確認

オ 残圧確認(活動時間の徹底)

 

(3)検索方法

ア 円形検索(写真9~13)、図1

 

    検索範囲がある程度特定されている際に有効な検索方法です。関係者からの情報を考慮した上で、検索範囲を特定しその中心を基点とし、索間・エンドが一列横隊となり、円形に検索を行います。

 基点は、指揮者が行い、進行方向は反時計回りで未検索部がないよう一周プラス30°の検索を行います。索間は、視界良好の場合、隊員同士の間隔を広くとったり、活動人員によってはウェービングしながら検索活動を行います。逆に視界不良の場合は、隊員同士の間隔を狭め、ウェービングは行わず未検索部分がないようにします。

    エンドは、検索ロープを緩ませることのないよう、基点と反対側(外側)に張りながら進行方向へ進みます。

     ・要領

(ア) 共通事項の確認

(イ) アンカー設定検索範囲の中心位置に設定します。

     (ウ) 潜降2種類の方法(一斉・順番)があり、指揮者の判断で行います。

     (エ) 検索ロープ展張指揮者が方向や長さを示します。

(検索環境により調整)

    (オ) 検索開始海底のヘドロ等を巻き上げ、視界を悪化させないよう注意し、中性浮力を保ちながら開始します。

写真9  潜降前の再確認

写真10 検索ロープの確認

写真11  基点

写真12  索間

写真13  エンド

イ ジャックスティ検索(写真1416)、図2

    検索範囲が特定されず、広範囲に活動を行う際に有効な検索方法です。2か所のアンカーを設定し、アンカー間に基線を展張します。展張後、二方または一方(潮流等の理由)を横隊となり検索を行います。

    注意点として、少人数で広範囲の検索を行うことが可能な反面、潮流が速い・視界不良の際には、有効な検索活動を行えないこともあります。

   ・要領

(ア) 共通事項の確認

(イ) アンカー設定検索水域が広範囲になるため、移動も考慮します。

    (ウ) 潜降第1アンカー側から開始します。

    (エ) 検索ロープ展張カラビナは基線に掛けます。また、エンドは基線と直線に展張するように注意します。

    (オ) 検索開始第2アンカーに到着後、半円検索を行います。

写真14  検索ロープの確認

写真15   基点側

写真16  エンド側

ウ 曳航(えいこう)検索(写真1720)、図3

    岸等の陸上隊員が基点となり、潜水隊員は横隊で直線的に活動を行う検索方法です。

    陸上隊員と潜水隊員が連携を取りながら行います。陸上隊員は進む速さを合わせ、また岸側に一番近い潜水隊員は、岸に直角に伸展するように検索ロープを張ることが重要です。この検索方法は、アンカーを設定することなく、ロープのみで検索を行えることから、迅速な活動ができるメリットもあります。

   ・要領

(ア) 共通事項の確認

(イ) 検索ロープ展張陸上隊員と連携を取り、直線に張るように注意します。

    (ウ) 検索開始

 

写真17  検索隊形

写真18  陸上隊員の位置

写真19  岸側

写真20  エンド側

5 おわりに

 近年、台風や局地的な豪雨等で水害が頻発し、これに伴い厳しい状況下での水難救助事案が全国各地で発生しています。

 水難救助は、その非日常的な作業環境から「不安感や恐怖感、ストレス」を強く身近に感じることがあります。水中での活動を安全に行うためには、このような感情を持ちつつも「平常心」を自分の心の中に常に保つことが大切です。いかなる局面においても「人命救助」は、私たち消防人にとって最大の使命であることから、これらの感情に打ち勝つためにも日頃の訓練や各種機関での研修でいかなる状況にも動じない潜水知識、技術を身につける必要があり、このことが結果的に隊員自身の身を守ることに繋がってくると私は考えます。

 今後は、自分の座右の銘である「一人でも多くの尊い命を救うため」この言葉を常に胸に刻み、「UITEMATE」(浮いて待て)を始めとする市民への水難事故防止の啓発活動の輪を広げていくとともに、私自身の水難救助隊員としてのスキルアップや後輩隊員の育成に励んでいきたいと思います。

著者

河野 祐輝(こうのゆうき)

生年月日

19871229日(30歳)

所属

今治市中央消防署 消防救助係

消防士拝命

平成22年4月

趣味

魚釣り、家族と過ごすこと

 

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