110116シリーズ 教育:Education and Training(第1回)留萌消防組合での教育

 
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基本手技



110116シリーズ 教育:Education and Training(第1回)留萌消防組合での教育

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シリーズ 教育:Education and Training

第1回

留萌(るもい)消防組合での教育

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講師

名前 中路 和也(なかみち かずや)

所属 留萌消防組合消防本部予防課長
年令 52歳
出身 北海道岩見沢市
消防士拝命  昭和57年4月
救急救命士資格取得  平成7年5月
趣味 サッカー(観戦及び少年サッカーの指導とシニアで現役)


シリーズ
教育:Education and Training

教育:教え育てること:education
訓練:教え鍛えること:training
(講談社・日本語大辞典より)

第1回
留萌消防組合での教育

今回から5回シリーズとして「教育」についてお伝えする。第一回目は留萌消防組合での教育を紹介する。

1.留萌消防組合の概要

 留萌消防組合は、北海道の西北部に位置し、日本海に面した留萌市(約25,000人)と、小平町(約4,000人)で構成され、管轄区域は東西34㎞、南北44㎞、総面積924㎢を有し、組織は消防本部及び1署2支署、職員60名で、火災、救急、救助、危険排除等の消防業務と予防業務を兼務で対応している。

 この稿では、小規模な消防署での主な教育(訓練・研修)について紹介したい。

2.消防教育=組織力アップの原点

 消防にとって教育の場は大きく二つに分かれる
・消防学校
・所属の消防署および現場

 消防学校の教育訓練は、消防職員としての資質を高めることを目的として、「初任教育」・「専科教育」・「幹部教育」・「特別教育」等、基礎的教育から特定の分野までのさまざまな専門的教育がある。そこで修得した個々のスキルは住民の安心・安全のため、また常に住民からの信頼に応えるために応用される。

 一方、所属の消防署および現場での教育では、迅速・的確・安全そして能率的に業務を遂行するため、個々のスキルアップを目的に行われている。しかし、その地域の環境・施設・装備・規模等の条件により教育カリキュラムに少し差違が生じていることは否めない。

 現在の消防業務は、著しい社会情勢の変化や少子高齢化に伴い、私が消防士を拝命した頃(昭和57年)と災害も消防力も大きく様変わりしている。地球温暖化なのか想定を越えた自然災害や特殊災害、複雑多様化していく火災・救助現場、救急救命士による高度化した救急現場。それぞれの災害に対処するための近代的・科学的な消防資機材や高度なテクニックは日進月歩で進んでいる。消防学校教育での基礎や専門分野習得だけで満足していては、遅れを取ってしまいそうである。常に消防力の強化や災害対応能力の向上を図っていくため、消防職員一人ひとりがさぼることなく真剣に日々教育訓練に取組む必要を感じる。

 消防の教育とは、「組織力アップの原点」であると私は考える。

 教える人・学ぶ人が共に同じ方向・目的意識を持ち相互に研鑽することが重要である。先輩は現場で得た貴重な経験を惜しみなく伝え、後輩はその全てを真摯に受入れ自分流にアレンジしていくことが大切である。また教育現場は職員間の最高のコミュニケーションの場でもある。その結果、信頼感・協調性・団結力そして今流行していることばの「リスペクト」精神が生まれ、消防の基本であるチームワークの強化が成り得る。

3.留萌消防組合が関係する教育

 教育訓練は指導者の能力・考え方により成果も絶対に変わる。我がまちのような小規模な消防は、組織上(人員不足)、専従の隊員(火災・救急・救助・予防業務を全職員が兼務で行っている)を配置することが難しい。また災害現場は一度として同じ様相や全てにおいてパーフェクトな対応もあり得ない。ここ数年は火災件数の減少や大きな自然災害の発生がないことが逆に若い職員の現場経験不足の懸念材料となっている。

 このような状況ではあるが、多種多様な災害現場や一般業務に広く精通でき、知識・技術のスキルアップと消防士としてのメンタル面の強化を図るため、明確な目的を示した教育訓練を無理せずコツコツと行っている。それが「組織力アップの原点」となり得ると信じているからである。

 以下に留萌消防組合が関係している教育の具体例を提示する。
 内容は一般的なものであるが、最も大切なのは継続していける「環境つくり」である。

(1)新任者の教育

a.消防学校(初任教育)入校前教育(約1週間)

 新規採用職員を対象に公務員・消防職員としての心構えや消防学校での教育訓練を円滑に実施できることを目的に行う。全くの素人に「動機は」「消防とは」から優しく問い掛けていく。しかし、多くの新任者は大きな声を出すことすら恥ずかしくておとなしい。初任教育では学科はもちろん大切だが、体力・元気・リーダーシップのある者が目立ち印象に残ることが多いため、特に実科に力を注ぐべきだ。仲間をつくる場でもあり、それが将来必ず役に立つはずだ。入校前は短期間ではあるが、社会人としての挨拶や礼儀、消防士としての心意気や大きな声を出す習慣等を身につけて6ヶ月の初任教育へ送り出すことが重要である。

b.消防学校(初任教育)卒業後教育(約1ヶ月-2ヶ月間)

(写真1) 消防緊急通信指令台の操作要領を学ぶ新人

 消防学校(初任教育)を卒業後、消防署に配置される新規採用職員を対象に、職場環境への適応、消防実務の把握及び警防活動技術の習熟を目的に行う。指導側にとっては現場で対応できるかどうか到達レベルの確認も目的の一つとなる。

(写真2)反動力に耐え必死に放水姿勢をとる新人。

 入校前は大きな声を出すことすら恥じらっていた職員が、初任教育を修了し心身共にたくましくなって職場に復帰する。しかし、現場経験はゼロ。現場を想定した訓練を繰り返し行い(写真1-3)、新人が身につけてきた能力(知識・気力・体力・技術)や安全性・判断力をしっかり見極めると共に個々の性格・特徴や弱点を知る機会でもある。この期間は覚えることが山ほどあるが、基本を始め熟練した先輩のテクニックや経験をうまく取り入れ、安全に現場活動できるよう最大限の努力をすることが大切である。また積極的にコミュニケーションをとり目標とする先輩をみつけるチャンスでもある。

(写真3)2連梯子をへっぴり腰で登はんする新人

 消防人生のスタートとなるため、「消防とは」を、常に厳しく、特に心に残るような指導が重要となる。

(2)若年者職員の教育(約1ヶ月間)

a.特命救助隊員の養成

(写真4)油圧式救助器具(スプレッター)の基本的な取扱いを学ぶ隊員。

 勤続年数1年以上の新人職員を対象に救助現場活動要領の修得及び救助隊員としての心構えの周知を目的に行う。修了時には指導側が心技体の到達レベルを確認する。
少数精鋭で対処しなければならない職場のため、新人職員とのチームワークが必要不可欠である。特に救助事案で多い交通事故現場を想定したカリキュラムで行い、いついかなる時にも救助隊員の補助的役割として対応できるよう基礎から厳しく教育している(写真4)。救助隊員は新人職員のあこがれでもある。基礎技術はもちろんだが、どんなときでも「助け出す」といった強い精神力や心意気をたたき込むことが重要である。

(3)職員の再教育

a.消防隊の基本訓練(通年実施)

 全職員を対象に消防隊活動要領の修得及び安全管理の周知徹底を目的に行う。主に火災現場を想定した第1出動体制を基本に行い、隊員間の連携と特に現場経験の少ない職員が頭だけでなく身体全体で覚えることが重要である。

b.救急隊の基本訓練(通年実施)

(写真5)積載資器材(BVM)等の取扱い訓練を行う隊員。

 救急隊員(救急救命士及び救急隊員資格者)を対象に専門的な知識と適切な救急救命処置の修得及び隊員間の連携強化を目的に行う。主に高規格救急車に積載されている各種資器材の取扱い(写真5)

(写真6)特定行為(気管挿管)の反復訓練をする救急救命士。

及び救急救命士の特定行為や車内活動のシミュレーションを行っている。増え続け複雑化する救急事案に対応するため、常に適切で質の高いプレホスピタルケアを提供できるよう訓練している(写真6)。

(写真7)特定行為中のチームワークを確認する

また救急救命士に依存した救急隊ではなく、隊員個々のレベルアップやチームワーク(写真7)、さらには傷病者やその家族のための心温まる接遇にも心がけている。

c.救助隊の基本訓練

 救助隊員及び特命救助隊員に指名されている職員を対象に、いかなる現場においても助けたいと思う気持ち(心)・助けるための技術(技)・助けるための体力(体)をテーマに励んでいる。

 留萌消防組合では救助隊の専任体制が取れずに日替わり救助隊となっている。このためこの訓練では誰と組んでも任務が遂行できるチームワークを養っている。

 救助隊員の指名については唯一、人数と年令制限を設けているため、常に若い職員の目標となるよう日々努力が必要である。

(写真8)訓練用車両をクレーン操作により支持固定する救助隊員。

・救助活動訓練(通年実施)
救助工作車は消防車両の中でも特に多種多様な各種救助資器材等が積載されており、その取扱い及び各種救助方法とシミュレーション等を反復している(写真8)。

・救助ボート取扱い訓練(期間限定)
小型船舶操縦免許取得者(職員)の指導により、安全運行マニュアルの座学、実際に近隣の川において簡易救助ボートの取扱い(組立・搬送・収納)や操縦法及び救助法を学ぶ。危険が伴う活動なため徹底した安全管理能力の養成が必要である。

(写真9)梯子車の操作要領を反復訓練する隊員

・梯子車運行訓練(通年実施)
高所で危険性の高い活動が多く求められているため、主に車両の操作、安全性の点検・確認を重視する必要がある。幸いにも梯子車の出動する災害は少なく、ほとんどが訓練出動である(写真9,10)。

(写真10)実際に梯子車を使った訓練。

(4)その他の特別教育

a.消防学校(専科教育)入校前教育(入校前約1ヶ月間)

(写真11)救急救命士から難しい解剖生理学を学ぶ職員(救急科入校前)

 (H22年度は救助科・火災調査科・予防査察科・救急科・気管挿管再認定である)
 消防学校専科教育入校者を対象に各課程で必要な知識と技能を事前に修得し消防学校での教育訓練を円滑に実施できることを目的に行う。主に直近に卒業した先輩職員が経験と実績を基にマンツーマンで教育する(写真11)。

 専門知識・技術を学ぶことと、学校の課外生活において、将来の力になってくれる仲間をつくることが大切であり、特に入校前の職場での努力が必要である。

b.機関員養成研修(約1ヶ月間)

 大型自動車免許を取得した職員(採用条件として採用後3年以内に自費で取得することとなっている)を対象に、火災現場における機関員としての活動要領の修得及び心構えの周知を目的に行う。

(写真12)先輩からポンプ運用のコツを学ぶ職員。

 安全・確実に現場到着するための走行訓練及び有圧水利(消火栓)や無圧水利(防火水槽等)の部署時における活動要領とポンプ構造や機関部等の理解である(写真12)。さらには先輩職員から現場でのトラブル解消法も伝授してもらっている。

 機関員は「隊員の命を預かる」重要な役割を担っている。いかに冷静に対応でき、隊員からの信頼感を得ることが必要であり、指導者による技能到達レベルの確認も厳しいものがある。

c.救急救命士の再教育

 救急救命士の資格を有する職員を対象に、高度な救命処置等の質の確保と維持向上を図るために関係機関の協力を得て平成7年から継続して生涯教育を行っている。

 主に病院実習(二次・三次医療)・症例検討会・学術集会・各種技能教育コース等への積極的な参加が求められるが、長期間続くためマンネリ化をいかに防ぐかが課題である。

 特に病院実習では唯一生体での処置を学べるため、各手技を救急現場で確実に実践できるよう、協力してくれる患者さんに感謝の気持ち伝えつつ、失敗を恐れず成功するまで積極的に行う必要がある。

 私も平成7年に救急救命士の資格を取得し市立病院で就業前研修・生涯研修を経験してきたが、その間、特に熱意のある医師と出会いその影響は大きい。今でも公私ともにアドバイスをいただいている。

d.救急勉強会(年1回)

(写真13)H21年10月20日るもい健康の駅で開催された勉強会。

 消防職員(救急救命士や救急隊員資格者、救急に興味がある職員等)や医療関係者を対象に最新の救急事情や知識・技能を身につけることを目的に行う。消防の有志が主催しており、主に救急現場に精通した情熱的な医師や看護師を講師に招き、講話や一問一答方式の厳しい講義やスパルタ式の実技指導の中、悪戦苦闘しつつも個々のレベルアップや消防の職場にない雰囲気や刺激を求めて参加している(写真13)。

e.一般職員研修

 職員派遣元である留萌市及び小平町が企画する一般職員の能力・スキルアップを目的とした研修に積極的に参加している。

 主に職場におけるリーダーとして活躍している係長級やリーダーを目指す主任級の研修では、環境つくりやコミュニケーションの重要性を再認識し、また、メンタルヘルス研修では、年々増加している心の病への対策や考え方を学び、消防組織の中で役立てている。またこれを機会に市町職員との繋がりを強めることが最も大切である。

4.終わりに

 総務省消防庁消防・救急課は、全国の消防本部を対象に大量退職者の状況やそれに伴う消火活動等の知識・技術伝承の取組状況等の実態調査を行い、特に小規模な消防本部(概ね職員数100人未満)は、対策を制度化せずに、日常業務において署所等にて対応している事例が多く見られたと発表した。これは留萌消防組合にも当てはまることである。

 我が小規模消防は特にここ数年、財政難による老朽化した庁舎・故障が目立つ消防車両等消防施設整備の遅れや職員の給与独自削減問題、ベテラン職員の早期退職や若年職員の離職による人員不足、更には兼務体制による「それなり」といった意識等、負の要因ばかり目立ち職員の士気高揚等に不安を感じることもときにはある。

 しかし、諸先輩方が築いてきた消防の歴史や住民からの信頼感をしっかりと引き継ぎ、消防本来の「人を助ける」といった崇高な精神と消防士としての魅力、高いモチベーションを維持し、「組織力アップ」に全力を注いでいく。これからも職員一人ひとりが、豊富な知識と優れた技能を養うため、常に向上心を持ち創意工夫した教育訓練を小規模なりに『コツコツ』と日々行っていきたい。

 家族に誇れる消防士、住民に頼られる消防士。
 すべては住民の安心・安全、そして笑顔のために。


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11.1.16/3:08 PM

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