210502最新救急事情(219-2) 新型コロナ:血液型・薬・ワクチン

 
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最新救急事情

プレホスピタルケア 2020/12/20日号 p88

最新救急事情(219-2)

今月も新型コロナ関係の論文を紹介する。初めに紹介するのは新型コロナと血液型の関係。私たち日本人は自分の血液型を皆知っているし性格判断も盛んなので、興味を持って読めるだろう。後半は治療薬とワクチンの情報である。

目次

1.新型コロナと血液型

血液型によって新型コロナの感染リスクや重症化のリスクが異なることをご存知だろうか。それを証明する論文を2編紹介する。血液型とコロナウイルス の関係は、近親のウイルスであるSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスの時からすでに明らかになっていて、Aの文字が含まれる血液型A型と血液型AB型で感染リスクが高くB型とO型でリスクが低い。これはB型とO型の人が持っている抗A型抗体がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に発現していることによる。SARSウイルスと新型コロナウイルス はこのACE2を足がかりに細胞に侵入する。抗A型抗体があることで新型コロナウイルスが細胞に入りにくくなるため感染リスクが軽減される。

0型は感染しづらいい

最初は血液型と感染の関係から1)。デンマークで新型コロナウイルスのリアルタイムPCR(遺伝子増幅)を受けた患者の血液型を調べた。対照群は検査を受けなかった住民220万4742人であり、これはデンマークの人口の38%に当たる人数である。検査を受けた患者47万3654人のうち新型コロナウイルス陽性患者は7422人であり、男性が32.9%、年齢の中央値は52歳であった。

血液型の結果を見ると、新型コロナ陽性患者:対照群は0型38%:42%、A型44%:42%、B型12%:11%、AB型5%:4%であった。A型(p<0.001)とAB型(p=0.011)の割合が上昇しており、これは統計学的にも有意であった。B型も%を見る分には上昇しているが、統計学的な有意差はみられなかった(p=0.091)。対照群より減少しているのはO型のみであり、p<0.001で有意差が認められた。

血液型と入院および死亡率の関係では、すべての血液型において対照群との有意差は認めなかった。

A型とAB型は重症化率が高い

次は血液型と重症化リスクについて。カナダの論文2)。集中治療室に入っていた新型コロナ患者を対象に、血液型と重症化の関係を調べたものである。こちらの研究では単純に血液型で比較するのではなく、A型に抗体を持つB・O型とそれを持たないA・AB型の2群に分けて比較している。血液型を2つまとめた理由はいくつか書かれているが、結局は症例数95例と少ないのでまとめざるを得なかったのだろう。

患者背景を見てみると、有意差のあるものは白血球数がB・O型で低く、AST値が低く、クレアチニン値も低かった。つまり同じく集中治療室に入っているにしてもB・O型の患者はA・AB型の患者より軽症であった。人工呼吸器による換気を必要とした患者の割合はB・O型では61%であったのに対し、A・AB型では84%と有意に高かった。持続透析を受ける患者の率も同様に有意差が見られた。集中治療室の滞在期間の中央値はB・O型で有意に長かったが、退出率には有意差はなかった。

2.レムデシビルは無効

前回2020年10月号のこの連載で、レムデシビル、商品名ベルクリーについては「実は効かないのでないかという流れになってきている」と書いた。その後WHOからレムデシビルの投与は勧められないという勧告が出た(2020年10月20日)。入院患者7000人以上を対象としたランダム割り付けコントロール臨床試験において、死亡率・人工呼吸器装着率、病悩期間の改善は認められなかったとしている3)。

しかしながら日本では承認を取り消す動きはなく、臨床医もインタビューに対し「命はお金より重いはずだ」と述べ使用を続けると答えている4)。一方、イギリスからはレムデシビルの使用について「A high price to pay(支払う金額は高すぎる)」とする意見が寄せられていて、そこでは「生存に良い結果が得られていないのに高額な支払いを続けるのはギャンブルだ」と書かれている5)。

臨床に限らず何であっても、自分が行なっている方法は有効だ、間違いない、という思い込みが起きる。私も集中治療室にいた時は無駄な薬を効くものと信じて使っていた。NHKのインタビューに答えた先生も思い込みで判断しているのではと思う。

3.ワクチンはもうすぐ使える

全世界が渇望しているワクチンについては、世界最大の製薬メーカーであるファイザーが臨床実験を終了し、執筆時点ではアメリカ食品医薬品曲(FDA)に対して緊急許可申請を行うところまでこぎつけた。この原稿が出版される12月20日前後には市場に出る可能性が高い。このワクチンの欠点はマイナス70度で流通させる必要があること。容易に分解されるリボ核酸(RNA)がワクチンの本体であり、超低温でなければ失活してしまうからだ。ただファイザーでは現在超低温保管が不要な新しいワクチンも開発中である。ファイザーと一緒にワクチン開発の先頭に立ってきたアメリカ・モデルナ社も程なくFDAに緊急許可申請を提出すると聞く。こちらのワクチンは同じRNAが材料であるがマイナス20度で保管が可能。つまりファイザーのワクチンは特殊かつ高価な冷凍庫が必要なのに対し、モデルナのワクチンはクロネコヤマトの冷凍便で送ることができる。

一方国産のワクチンはまだ実用化の目処が立っていない。大阪大学関連のアンジェスが頑張ってはいるが、患者数が確保できないためか、まだ第2相試験にとどまっている。当初はこの11月には最終模臨床試験である第3相試験に入る予定だったが、来年以降になるとアナウンスされている。

 

文献

1)Blood Adv 2020;4:4990-3
2)Blood Adv 2020;4:4981-9
3)https://www.who.int/news-room/feature-stories/detail/who-recommends-against-the-use-of-remdesivir-in-covid-19-patients
4)NHK報道。2020/11/20
5)BMJ 2020;371:m4457

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