ヘリコプター搬送の費用対効果

 
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最新救急事情

ヘリコプター搬送の費用対効果

2018年2月25日日曜日

ドクターヘリについての救急隊の症例報告を読んでいると必ず出て来るのが「オーバートリアージを恐れず」という文言である。私はこれを読むたびに「自分の車なら燃費や維持費を気にするくせに、自分の懐が傷まないなら何でもかんでも飛ばせば良いのか」と不快になる。その流れでドクターヘリの記事の評論を書く時には否定的な論調になる。

では、ヘリ搬送の費用対効果費(コストパフォーマンス)はいかほどなのだろう。

目次

ヘリを使う患者の半数以上がオーバートリアージ

私と同じことを考えている人はフロリダにもいた。筆者ら1)は6年間外で外傷センターに運ばれて来た4218名のうち28%がヘリコプターで搬入されたとしている。空輸された患者のうちオーバートリアージとされたのが患者数の51-77%もあった。その空輸コストは一人当たり117万円.これに比べて陸送なら11万5000円で済む。オーバートリアージによって無駄にかかった経費は年間1億5000万円にもなる。それだけ金をかけても死亡率は空輸と陸送で有意差はない。筆者らはオーバートリアージが財政を圧迫することから、適切な外傷プロトコルの必要性を訴えている。

外傷患者では陸送と差がない

外傷患者を対象としたメタアナリシス(たくさんの論文を寄せ集めて結論を得る方法)の報告がある2)。対象は2015年4月29日までに発表された38論文。そのうちの34論文では成人の外傷患者をヘリコプターで空輸した場合と陸送した場合で比較している。全ての論文は非無作為割り付けであり、前向き無作為割り付け論文は1編もないので信用度は低い。第一の評価点は生存退院である。筆者らは全38論文中の28論文で示されている28万例余りの症例を解析したのだが、データの差が著しく生存隊員に関しての評価は不能であった。6編で論じている脳外傷についていは、空輸は陸送に対して優位を示すことはできなかった。21編では患者の属性を揃えた上で論じているが、ヘリコプターの優位を示しているものもあれば示せなかったものもあってまちまちである。外傷スコアを元に優劣を論じている論文は14編あって、これも結果はまちまち。4編では外傷患者を高度外傷センターに移送する場合でのヘリコプターの僅かな優位性を示している。陸送での自動車事故やヘリコプターでの事故についてはいずれでも起こり得るため論じている論文はない。筆者らは「総じてレベルの低い論文ばかりである」としており、論文を作る上での方法に問題があると結論付けている。

山の中でのケガでヘリコプターを呼べるのに「クジを引いたら陸送が出たので陸送しよう」とはならない。だから論文の湿としてはかなり低いものを相手に比較せざるを得ない。これ以降紹介する論文も質は高くない。

2015年以降で差があるという論文

市街地でデータを取った論文が2017年に出ている3)。対象は1999年から2012年までに発生した15歳以上の外傷患者1029名。発生場所は外傷センターから16km56kmの市街地である。症例に対しては発生場所や患者の属性、気管挿管の有無、病院前滞在時間、外傷スコア等が記録されている。患者属性は陸送と空輸で患者のマッチングを行う時に使われた。評価点は生存退院率である。結果として、患者の俗世を合わせてない生データでは死亡率が空輸で7.7%、陸送で5.3%であり有意差なし。ところがマッチンク後には空輸4%、陸送7.6%と逆転し、オッズで見ると空輸は陸送に比べて生存率が2.7倍となった。

病院からの距離が56kmあっても市街地だとするのは日本人には抵抗があるが、論文を素直に読めば差があるようだ。

水戸医療センターから出た論文4)でも差があるとしている。筆者らは2004年から2014年の間に運ばれた外傷スコアーが16点以上の患者について病院内の死亡率を検討した。対象患者は21286名でそれらが192病院に運ばれていた。患者背景を揃えない生データの段階では陸送の方が死亡率は低かったものの、外傷スコアーを一致させた検討では死亡率は空輸が22.2%,陸送が24.5%と有意差を認めた。論文では外傷の種類によって死亡率を比較している。それによると空輸で死亡率が減るのが墜落、クラッシュ症候群などの圧挫であり、部位は胸部、四肢であった。

15歳以下の小児でも外傷に関しては生存率が低下することが示されている5)。

内科疾患の論文がない

外傷ではヘリコプターで患者を空輸する必要性は理解できる。頭蓋内や心嚢内にどんどん血が貯まるようなら、一刻も早く病院に病院に運んで止血しなくてはならない。では内科疾患ではどうなのだろう。厚生労働省の2007年の資料では、脳血管+心臓大動脈+その他が搬送数の36%を占めている。また重症度では重症+重篤が60%で、軽症、中等症、死亡が40%であった。2013年では外傷患者はさらに低くなり53%である。

内科疾患でも空輸の利点は当然ある。しかし統計をとっても有意に利点があるとはとても思えない。心筋梗塞で血栓溶解剤を使うのに、空輸なら制限時間内で病院に運べて陸送なら制限時間を過ぎるほど時間がかかるのだろうか。日本で約半数を占めるが内科疾患患者のでデータが欲しい。

文献

1)J Surg Res 2017;218:261-70

2)Cochraine Database Syst Rec 2015 DEC 15(12)

3)Zhu TH:Acad Emerg Med 2017 sep 12 Epub

4)Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2016;24:140

5)J Trauma Acute Xare Surg 2016;80:702-10

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