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191008最新救急事情(211-2)熱中症での冷却方法

プレホスピタルケア 2019年8月20日号

最新救急事情

熱中症での冷却方法

先日近隣の小学校で熱中症の処置について講演してきた。北海道は涼しいとはいえ、それでも熱中症の患者は一定数出てくる。学校での熱中症は集団発生してニュースになることがあるため学校でも非常に気を使っている。

熱中症での搬送症例のほとんどは軽症で、生理食塩水の補液で回復する。だが稀には40℃を超える高体温になり死亡したり中枢神経系の後遺症を残したりする。死亡や後遺症を避けるためには一刻も早く体温を38℃まで下げなければならない。病院で行われている最も迅速確実な冷却方法は患者を氷水に漬け込むことである。加えて半分凍ったソリタ1号液を点滴する。場合によっては胃や直腸に冷水を流し込むことや血管内冷却法、場合によっては人工透析なども行われる。だがこのような集中治療は病院でしか実施できない。救急車が来るまでに行える冷却処置について調べてみた。

氷嚢くらいで体温が下がるとは思えない

従来腋や鼠蹊に氷嚢を置き動脈を冷やすことが推奨されてきた。筆者がこの6月にNHKラジオで聞いた冷却方法もこれである。ラジオで講師の先生は「体表に水をかける方法は、皮膚の血管が締まるため却って熱を溜め込んでしまい逆効果になる」とも言っていた。だが自分でやってみるとわかるが、こんな簡単な方法で急速に体温が下がるとは思えないし、実際に「長時間の冷却が必要になる」と指摘している論文1)もある。

公に発行されている熱中症ガイドラインも冷却方法は分かれている。環境省の熱中症環境保健マニュアル2018 2)では氷嚢霊薬が絵で示されている。一方日本スポーツ協会の熱中症予防ガイドブック2019年版3)では水道につないだホースで全身に水をかけ続ける「水道水散布法」が推奨されるとしており、それも困難な場合は体表冷却となっていて、動脈冷却は「追加的に冷やすのも良いでしょう」というおまけのような扱いになっている。

文献で見ると

熱中症の文献はどういうわけか中国からのものが多い。中国の救急医学会雑誌4)では冷たい水につけることが一番で、他の方法も許容されるとしている。その後に別の方法として紹介されているものを書き出すと、20℃の水風呂に入れること、冷却マットを体に巻き振動を与えること、体温冷却ユニットに入れること、裸にすること、エアコンの部屋に入れること、氷によって動脈を冷やすこと、四肢をマッサージすること、の順で並んでいる。氷嚢の順位はエアコンより低いのである。振動やマッサージは、皮膚の血流を促進して冷却効果を高めるために行う。

次はニューヨークから2016年に出されたもの5)で、症例報告からどのような冷却方法がとられたか調べたものである。それによると冷却方法には傾向が見られなかったそうで、「速く確実な体温低下が熱中症患者を助けることが一般に同意されているにこかかわらず、冷却方法には議論がある」としている。また最も冷却効果が見込めるのは氷水に浸けることで、スポーツ最中に熱中症で倒れた若者に適用したところ全員生存できた。一方患者が老人なら表面冷却の例が多く、砕いた氷で体を包むことによって冷却効果を増強させることができる。ただ、この論文に関しては症例報告を拾っている段階で結果が偏ってくる。基本的にうまく行った症例しか発表しないからだ。どの冷却方法が劣っているかは症例報告では分からない。

古い論文になるが、2004年には1℃から16℃の水をかけることが記されている6)。2005年には同じスポーツ分野で冷却方法の論文が出ている7)が、氷水に入れるのが一番で、次が冷水をかけるか氷嚢による全身マッサージ、それができない場合は多くの方法を組み合わせて冷却するように書かれている。

帝京大学教授の三宅康史先生らが2018年に発表した論文8)では、冷却方法についての優劣を決めるエビデンズはないとしている。引用された論文は水に浸ける方法は1980年のLancetで体表を冷やす方法は1987年のLancetである。1980年から冷却方法についての進歩はないということを示している。

氷水>水道水>動脈冷却

動脈に氷嚢を当てる方法が氷水風呂や全身水かけより劣っていることは少なくとも1986年に指摘されていた1)にも関わらず、現在でも動脈冷却を第一選択として書いてある本が多い。環境省のマニュアル2)がその例である。心肺蘇生ガイドラインは5年ごとに改定され注目度も高い。熱中症での冷却の方法もガイドラインの中に含まれるようになれば良いのにと思う。

文献

1)S Afr Med J 1986;9:378-80
2)http://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
3)https://www.japan-sports.or.jp/publish/tabid776.html#guide01
4)Zhonghua Wei Zhong Bing Ji Jiu Yi Xue. 2018 ;30:1006-10
5)J Emerg Med. 2016;50:607-16.
6)Sports Med 2004;34:501-11
7)Br J Sports Med 2005;39:503-7
8)J Intensve Care 2018;6:30

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