100812_G2010:応急処置

 
  • 97読まれた回数:



100812_G2010:応急処置

OPSホーム>最新救急事情目次>100812_G2010:応急処置

100812_G2010:応急処置

月刊消防のご購読はこちらから

 ガイドライン2010には応急処置も含まれている。今回はこの応急処置について解説する。

全身固定は見直しを

 以前のこの連載でもお伝えしたとおり、全身固定に関する論文は極端に少ない。ワークシートで取り上げている論文はわずか2編である。一つ目は以前にも取り上げた、全身固定をしてもしなくても神経学的な予後には差はなかったという論文、もう一つは多数の論文を集めて横断的に解析をするコクランデータベースである。

 コクランでは無作為割り付け研究が行われていないと断った上で、全身固定が死亡率・神経学的後遺症に良い影響をもたらすかは不明であるとしている。しかし、全身固定の悪影響である、気道管理の難しさ・痛み・脳圧亢進・外傷部への圧力亢進は明らかに死亡率や後遺症を高める方向に作用する、とも述べている。またコクランでは「現在の全身固定適応プロトコールは必要以上に広い」として、受傷時に首や背中の痛みを訴えない患者の半数以上は全身固定は必要ない、としている。

 ガイドライン2010ワークシート作成者は、

  • 刺創では全身固定は不要であること、
  • 落下などの鈍的多発外傷では全身固定が有効とはされているがこれはエビデンスがないこと、
  • 歩ける患者では全身固定をすることが患者の不利益になり得る

と述べており、適応を見極めた上で全身固定を行うべきだ、という論調となっている。

 別のワークシートでは頸椎保護を考えるべき病態について述べられている。それによると、どんな外傷患者であっても今回の事故で新たに神経学的な欠損(動かない、感じない)が出た場合には脊髄損傷を考えるべきであること、脊損を考える外傷としては・車、二輪車、自転車のクラッシュ・重症頭部外傷・中毒の可能性がない・昏睡・高齢・フットボール選手で15分以上神経学的症状が持続すること・頭部に外傷を負った歩行者・身長より高いところから落下した患者、が挙げられている。高エネルギー外傷は以前のままだが、神経学的な症状の有無を強調している。過度な全身固定の見直しが進んでいるようだ。

止血は弾力包帯法も推奨へ

 止血では、現在のガイドラインで最も推奨されているのが直接圧迫法である。G2005以降発表された研究結果についてのベルト、ボランティアを用いた研究で直接圧迫法・弾力包帯圧迫・緊縛法を比較したところ、最も高圧をかけられたのは直接圧迫法であるが、不快感も最も強かったこと、適度な圧力がかかり不快感も少なかったのが弾力包帯法であったこと、緊縛法では止血に必要な圧力が得られなかったことを報告している。この結果から、著者は患部にガーゼを当てて弾力包帯で固定する方法が最も良いとしている。

 しかし、直接圧迫法が最も優れているという論文も新たに出ており、直接圧迫法と弾力包帯法の優劣は決しがたいようだ

酸・塩基誤飲は飲ませるな

 酸や塩基を誤飲した場合には水や牛乳を飲ませることが今も行われることがある。これについては、人での研究は1件もない。1985年には化学的な実験として強酸や強塩基に対しては大量の希釈液を投与してもpHや温度はさほど変化しないことが示されている。動物実験では強塩基による食道腐食に対して生理食塩水や牛乳、オレンジジュース、コーラが保護作用を持っていることを示している。また強酸による食道腐蝕に対しては生理食塩水と牛乳が有効であることが示されている。しかし、これらは誤嚥や嘔吐、直後の内視鏡検査に対するリスクに関しては考慮していない。

 これらの結果をみると、G2005での勧告の内容が変わることはなさそうだ。つまり、中毒センターに連絡が付くまで何も飲ませてはいけないということである。

熱傷は室温水で冷やす

 熱傷は受傷直後に冷やせば組織障害が軽くなることが分かっている。今回の勧告でも冷やす温度について触れられている。熱傷受傷30分以内に室温(15-25℃)の水もしくは生理食塩水で冷却すれば、痛みが軽減し、浮腫を軽減し、熱傷深度を軽減させることができる。

 22名の熱傷患者が28℃で30分間冷却された研究では、疼痛が減弱し、冷却のなかった群に比べて治癒が2日分早くなった。695名の小児熱傷患者での検討では冷却されることにより熱傷深度が軽減し、皮膚グラフトの面積が32%減少したとされている。また冷却は死亡率を減少させ、病院滞在日数を減少させる。これらより、15℃から25℃の室温水による30分以内の冷却が推奨される。

 一生懸命冷やすために1-8℃の冷水を用いる人がいるが、このような冷水では冷却しない場合より壊死が進む。現実的には水道水(2-18℃)を流したまま冷却を行うのが壊死を少なくし治癒を早めるもっとも良い方法である。冷却開始が遅れると効果はなくなるとされているが、30分以上経った熱傷についても冷却が有効であるという報告もある。

 広範囲熱傷の場合も室温水が最も有効である。室温より低い温度での冷却が治癒を早めるという報告は少ないし、逆に低体温を起こして死亡する可能性もある。実際に動物実験では20%以上の広範囲熱傷では氷水で10分間冷却すると死亡率が高くなることが示されている。

 熱傷でできる水胞の扱いについても検討されている。水胞を維持した方が水胞を除去したものより患部の感染が少ないこと、痛みが少ないこと、治癒が40%速くなることが報告されている。美容的にも水疱を維持した方が優れた結果であった。
二度以上の深い熱傷については、壊死組織を除去した方が感染が少なく、治りが速くなる。これは、水疱の液体に細菌の増殖を防ぐ成分が含まれること、治癒を促進する成分が含まれることが明らかとなっている。

 傷の被包は完全な閉鎖療法か湿らせたガーゼなどで覆う方法が乾燥ガーゼで覆う方法より治癒が速い。このガーゼに抗生物質を液体もしくは軟膏で混ぜることも治癒促進に有効である。

G2005と変わらない

応急処置の分野は興味がわかないのか、それとも現在では倫理的に実験が難しくなっているのか(特に熱傷)、新しい論文があまり出てこない。そのためG2005から大幅に変更されることはなさそうである。

文献

American Heart Association | To be a relentless force for a world of longer, healthier lives
Learn more about the American Heart Association's efforts to reduce death caused by heart disease and stroke. Also learn...

OPSホーム>最新救急事情目次>100812_G2010:応急処置


https://ops.tama.blue/

10.8.12/8:23 PM

]]>

コメント

タイトルとURLをコピーしました