近代消防2021/11/10 2021年12月号
●今さら聞けない資機材の使い方 103
LUCAS 3 心臓マッサージシステム
北海道
南宗谷消防組合浜頓別支署
炭谷拓磨
目次
著者
名前:炭谷 拓磨(すみや たくま)
所属:南宗谷消防組合浜頓別支署
出身地:北海道枝幸郡中頓別町
消防士拝命:平成27年4月
趣味:バイク、キャンプ
1.はじめに
はじめまして。この度、「今さら聞けない資機材の使い方」を執筆させていただくことになりました、南宗谷(みなみそうや)消防組合 浜頓別(はまとんべつ)支署の炭谷(すみや)拓磨(たくま)と申します。浜頓別町は北海道北部に位置し、漁業と酪農が盛んな町で、平成元年7月には日本で3番目のラムサール条約に登録されたクッチャロ湖があります。天気が良い日は夕焼けがきれいで、夏には全国各地のキャンパーやライダーが訪れます。(写真1)また、平成25年に建設されたコテージは、温泉かけ流しとなっており、夏場は予約が取れないほどの人気です。ぜひ一度、足を運んでみてください。(写真2)
写真1
クッチャロ湖
写真2
コテージ
2.自動式心マッサージ器について
今回、紹介させていただく資機材は「LUCAS3心臓マッサージシステム」です。「自動式心マッサージ器」は用手的胸骨圧迫の実施が困難な傷病者移動時や長時間搬送時、揺れる救急車内、さらには特定行為などの実施時に有効な胸骨圧迫を行うことができます。用手的胸骨圧迫では階段移動時に胸骨圧迫を中断せねばなりませんでした。胸骨圧迫中断時間を短縮する為に、当支署では3年前に導入された資機材です。また、第42回掲載の自動式胸骨圧迫器でも紹介されていましたLUCAS2からの変更点ともう少し詳しく使用方法を説明していきたいと思います。
3.各部名称
写真3
LUCAS3本体
①コントロールパネル
②患者ストラップ
③吸着カップ(圧迫パッド)
④リリースリング
⑤支持脚ストラップ(安定ストラップの一部)
⑥バックプレート
写真4
コントロールパネル
⑦電源ボタン
⑧調整ボタン
⑨中断ボタン
⑩アクティブボタン(連続・30:2)
⑪バッテリーインジケータ
⑫消音ボタン
⑬データ送信ボタン
4.使用方法
LUCAS3は用手的胸骨圧迫が適応となる傷病者に対して使用します。禁忌は下記の3点です。
・傷病者の胸部に安全に正しく装着できない場合
・身体が小さく吸着カップを下げている際にアラームが鳴り、中断モードやアクティブモードにできない場合
・身体が大きく傷病者の胸部を圧迫しない状態で、本体をバックプレートに固定できない場合
(1)
心停止を確認したら、直ちに用手的胸骨圧迫を開始します。(写真5)
写真5
胸骨圧迫をしてLUCAS3準備
(2)
バック内でコントロールパネルの電源ボタンを1秒間押すと、セルフテストが開始され、調整モードになります。
※調整モードのまま5分経過すると自動的に電源がOFFになります。(写真6)
写真6
LUCAS3の電源ボタンを押す
(3)
バックプレートを傷病者の背面に設定します。この際、2つの方法があります。1つ目はログロール法(写真7)、2つ目はリフト法です。(写真8)いずれの方法も胸骨圧迫の中断時間を最小限にするよう心がけます。
写真7
ログロール法
写真8
リフト法
(4)
LUCAS3本体を取り付けます。リリースリングを1回引っ張り上げ、爪ロックが開いていることを確認します。胸骨圧迫中に、自分に近い側の支持脚をバックプレートに固定。その後、もう一方の支持脚をバックプレートに固定し、カチッという音を確認します。1度本体を引き、爪ロックが適切に装着されていることを確認します。(写真9)
写真9
LUCAS3本体を取り付け
(5)
LUCAS3の圧迫位置は用手的胸骨圧迫と同様に胸骨の下半分です。調整モードになっていることを確認します。圧迫パッドが傷病者の胸部を圧迫することなく胸部に触れるまで、吸着カップを押します。(写真10)
写真10
圧迫位置調整
圧迫パッドが正しい位置にあることを確認し、中断ボタンを押して、圧迫開始位置を固定します。※正しくない場合は、調整ボタンを押して吸着カップを引っ張り上げ、位置や高さを再調整します。
アクティブ(連続)ボタンまたはアクティブ(30:2)ボタンを押して圧迫を開始します。
・アクティブ(連続)・・・連続的に胸骨圧迫を行います。人工呼吸用アラートとして緑のLED信号が毎分10回(6秒に1回)点滅します。
・アクティブ(30:2)・・・30回胸骨圧迫を行い、一時停止するので2回の人工呼吸を行います。一時中断前にLEDが断続的に点滅し、アラーム音が鳴ります。
(6)
安定用ストラップ装着することで、操作中でも適切な位置を維持することができます。中断を最小限にするために、LUCAS3が作動中に取り付けてください。※安定用ストラップのクッションはできるだけ肩に近づけて、ねじれのないように装着します。(写真11)
写真11
安定用ストラップ取り付け
(7)
傷病者の移動開始前に、傷病者の腕を固定します。(写真12)
※現場で静脈路確保を実施している際は、輸液が妨げられないことを確認します。
※バッテリーの温度が上がり、やけどの原因になるので、長時間搬送時には手の固定を解除します。
写真12
傷病者の腕を固定
(8)
移動中も作動可能です。傷病者の移動時にはLUCAS3と傷病者が搬送用器具上で安全に固定されていることと傷病者の胸部でLUCAS3が正しい位置と角度に維持されていることを確認しましょう(写真13)
写真13
傷病者搬送時
(9)
バッテリー残量が少なくなるとバッテリーインジケータが黄色に点滅し、アラーム音が鳴るので、中断ボタンを押し、電源を切ることなくバッテリーを取り換えます。バッテリー取り換えが60秒以内であれば、吸着カップの位置を記憶しているのでアクティブボタンを押すと、すぐに圧迫を再開してくれます。※60秒を超えると再度セルフテストが行われ、開始位置を再調整する必要があります。(写真14)
写真14
バッテリー取り換え
(10)
LUCAS3作動時にも除細動は施行可能です。心電図を解析する前に中断ボタンを押して圧迫を中断します。除細動パッド及びケーブルが吸着カップの下に入らないように注意します。除細動実施後に吸着カップの位置が正しいことを確認します。必要に応じて位置を調整します。(写真15)
写真15
除細動パッド装着。CPRセンサー付除細動パッドを使用しているため、センサーパッドのケーブル1本がカップの下になっている。
(11)
取り外しは、電源ボタンを1秒間押して装置を停止させます。安定用ストラップが取り付けられている場合は、安定用ストラップを支持脚ストラップから取り外します。リリースリングを引き上部ユニットをバックプレートから外します。
以上が一連の流れでの使用方法となります。
5.LUCAS2からの変更点
大きな変更点は3つあります。はじめに、傷病者と本体を固定するバックプレートが従来のものより半分の厚さとなり、より素早く設定できるようになりました。2つ目は、キャリーバックがポリカーボネート製となり、耐久性が高く、軽量化したハードケースとなるとともに、収納された状態での充電や充電状態の確認が可能になりました。最後に、データが本体に記録され、BluetoothやWi-Fiを使用してパソコンに転送することが可能になりました。転送されたデータは専用ソフトウェアを使用して、CCF(胸骨圧迫比率)や胸骨圧迫中断のタイミングなどを可視化することができ、事後検証や症例検討等に用いることができます。
6.実際に現場で使用して
街から少し離れた地域での心肺停止事案で4名出動。現場到着後、ストレッチャー上にバックプレートを準備。傷病者を建物から搬出後、ストレッチャーに乗せ、LUCAS3を装着して作動開始しました。通常の活動では、救急車内収容後、狭隘なスペースの中央に胸骨圧迫実施者がおり、活動に支障をきたすこともありましたが、LUCAS3の使用により解消されました。何より、人員に余裕ができ、早期現場離脱につながりました。走行中の車内においても揺れ等に動ずることなく、有効で絶え間ない胸骨圧迫ができました。
また、老健施設や病院等の施設内においては、メインストレッチャーでの移動距離が長いことやスロープ等の移動があるので、LUCAS3を使用することによって傷病者搬出中であっても有効で絶え間ない胸骨圧迫ができます。
7.検証
今回は4種類の搬送資機材で訓練人形を使用して搬送資機材への収容や実際にLUCAS3を動作させて移動する際の動揺等を検証してみました。
まず1つ目は、
バックボードです。バックプレートとバックボードが合わさると非常に滑りやすくなってしまいます。ベルト固定をしていても、移動中に圧迫位置がずれてしまいました。また、バックプレート用グリップテープというものがあり、バックプレートの裏に貼ることによって滑り止め対策をすることができます。(写真16)
写真16
バックボードへ収容
2つ目は、
スクープストレッチャーです。スクープストレッチャーもバックボードと同様に滑りやすのですが、湾曲している分、移動中においてもバックボードより本体が安定しており、ほとんど圧迫位置のずれがありませんでした。(写真17)
写真17
スクープストレッチャーへ収容
3つ目は、
バスケットストレッチャーです。検証ではバスケットストレッチャーに直接収容し、ベルト固定を行って検証しました。上記の2つよりは確実に安定感がありますが、バスケットストレッチャー自体が大きいので狭隘な場所には不向きです。バスケットストレッチャーを使用する場面としましては、救助現場やメインストレッチャー及び救急車が直近部署できず移動距離が長くなる場合だと思います。過去の症例として、砂浜で心肺停止事案が発生し、メインストレッチャー及び救急車も直近部署できず、バスケットストレッチャーで救急車まで長距離移動したという事案がありました。(写真18)
写真18
バスケットストレッチャーへ収容
最後に
メインストレッチャーです。バックプレートをストレッチャー上へ準備しておき、メインストレッチャーへ収容する際に本体を装着する方法がスムーズであると考えられ、メインストレッチャーが傷病者直近まで部署できる場合に有用です。その他にも一般住宅などでバックボードやスクープストレッチャーの取り回しができないような建物内を布担架で移動し、メインストレッチャーに収容する際に本体を装着するのも1つの方法ではないかなと思います。(写真19)
写真19
メインストレッチャーへ収容
8.新型コロナウイルス感染症への対応
現在、各地で新型コロナウイルス感染症が広がっており、救急隊においても感染拡大防止のために、「一般財団法人 日本臨床救急医学会」より、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う心肺停止傷病者への対応についてのガイドラインが令和2年4月27日付で発表されています。ご存じかと思いますが、新型コロナウイルス感染症対応として、心肺停止傷病者に対して、接触人員を削減し、感染拡大リスクを低減するため、自動心マッサージ器を積極的に活用することと謳われています。
9.おわりに
今回は「LUCAS3心臓マッサージシステム」について執筆させていただきましたが、私自身も新たな発見があり、とても刺激になりました。また、今回感じたことは、バックプレートを使用せずに、バックボードやスクープストレッチャーに直接取り付け可能となれば、より迅速に、より安全に、より安定して使用できるようになると思います。
自動式心マッサージ器は、前述したとおり長距離移動等で用手的胸骨圧迫よりも有効な胸骨圧迫ができます。しかし私自身は、あくまで自動式心マッサージ器は補助的な役割で、やはり基本は用手的胸骨圧迫であると考えます。自動式心マッサージ器に用手的胸骨圧迫の質が負けることがないよう、これからもまずは基本に忠実に勉強・訓練に励み、そこからさらにスキルアップを目指していきたいと思います。このような機会を作ってくださいましたこととお手伝い頂いた職場のみなさんにこの場を借りて感謝申し上げます。最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考文献
1.第10版救急救命士標準テキストp378-379
2.LUCAS3取扱説明書(Ver.3.1)
3.LUCAS2取扱説明書
4.医療機器添付文書(LUCAS3)
5.医療機器添付文書(LUCAS2)
6.新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う心肺停止傷病者への対応について(消防機関による対応ガイドライン)Ver.1.0
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