181003救急活動事例研究(20)アクセス困難地域に居住している傷病者を列車を利用して救急搬送した事案

 
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症例

近代消防2018年10月号p111-3

救急活動事例研究

アクセス困難地域に居住している傷病者を列車を利用して救急搬送した事案

 

目次

1 はじめに

今回紹介する救急事案は、浜松市北部山間地域に居住する高齢者の救急搬送にJR飯田線の列車を使用した、浜松市消防局としては初めての試みある。関係機関の協力と連携により、傷病者を無事搬送できたので紹介したい。

2 背景

この駅は、静岡県、愛知県そして長野県の県境が接する山の中であり、車では行くことができない。この駅から徒歩で約1キロメートル、上り下りの続く山道を20分程度歩いた山の中腹に傷病者宅がある。搬送にはJRの列車を使用し、時間の短縮、傷病者の負担の軽減を図ったものである。

傷病者宅は、直近の水窪出張所からは、陸路(林道)を約20キロメートル、そこから山道を徒歩で1.5キロメートル、時間にして2時間以上要す場所であった。搬送先でありかかりつけの病院でもある佐久間病院は、傷病者宅から陸路で約40キロメートル、時間にして1時間30分を要すところに位置する。しかし列車を使用した場合なら搬送病院の最寄り駅は中部天竜駅であり、小和田駅からJRで約40分で搬送できる(図1)。

図1

配置図

3 入電状況

搬送する前日、山間地域を巡回する保健師から「80歳代男性。食事がとれず歩行困難。衰弱が著明なためかかりつけ医師と相談したところ、入院させたいので、翌日、救急隊で佐久間病院まで搬送していただけないか」との相談を受けた。

4 搬送方法の検討

消防ヘリコプターでの搬送を検討したが、着陸場所もピックアップするスペースもなく断念した。以前からこの地域での救急事案はJR飯田線の利用が有効であると認識していたことからJRを利用することとした。

次に搬送経路についての検討をした。

(1)水窪駅を拠点とした場合:

水窪駅から小和田駅へ行き、逆経路で戻った場合、同駅で傷病者を救急車に乗せ、佐久間病院まで約40分要す。

(2)水窪駅で乗車、JRを佐久間中部駅(佐久間病院直近駅)まで利用する場合:

水窪駅から小和田駅へ行き、逆経路で戻り、佐久間中部駅で下車するが、当駅に佐久間病院まで搬送する救急隊を待機させる必要があり、2隊の救急隊が必要になる。

(3)中部天竜駅を拠点とした場合:

水窪救急隊は、当該駅に事前に移動する必要があるが、1隊で対応できる。

上記3案を検討した結果(3)とした。

5 活動内容

7月24日、保健師が先行する形で列車を利用し、午前9時ごろ傷病者宅を訪問した。保健師が傷病者の状態を確認し、出動隊に携帯電話で連絡が入った。自宅にある車いすに座ることができるとの情報があり、山道の搬送に車いすを視野に入れ、資器材の選定等準備をした。

出動指令により水窪救急隊が中部天竜駅に向かった。また、搬送支援のため本署から2人が出動し、同駅で合流した。

午前10時44分に中部天竜駅を出発し、午前11時20分に小和田駅に到着、傷病者宅に向かった(写真1)。

写真1

移動電車内のようす。中部天竜駅から小和田駅まで移動

傷病者宅までの道は、幅員約1.5メートル、中央部の約1メートルがコンクリート舗装されている。この道は凸凹が激しく、雨による浸食があり部分的に亀裂が入っている箇所があるため、ストレッチャーでは搬送困難と判断し、ストレッチャーを小和田駅構内に置き、車いすでの搬送を選択した(写真2)。観察及び処置資器材はリュックサックに詰めて向かった。

写真2

搬送経路道路状況。この道は凸凹が激しく、雨による浸食があり部分的に亀裂が入っているためストレッチャー移動を断念

午前11時39分傷病者宅に到着。保健師からその後の状態等の情報を得るとともに、バイタル等の測定を行なった。傷病者は、自宅居間に仰臥しており、意識はJCS1で、脱力感を訴えていた。出動前に保健師から得た状態と変化ないことを確認した。

小和田駅を出る列車の時間と搬送に掛かる時間を考慮して、出発時間を午後12時45分とし、昼食を取った。

搬送時使用する車いすには両肘掛部分にテープスリングを結着し、搬送時の補助をやりやすくすることと、安定化を図った。傷病者を車いすに座らせベルトで固定し、出発した。搬送中、階段や段差、亀裂の大きいところでは、車いすごと傷病者を持ち上げ搬送した(写真3)。傷病者をストレッチャーに移し、バイタル測定等を行い、容体変化のないことを確認し、佐久間病院へ到着予定時間を含めて連絡を入れた。搬送には往路の倍の時間をかかった。

写真3

車いすでの搬送。両肘掛部分にテープスリングを結着し、搬送時の補助をするとともに、安定化を図った。傷病者を車いすに座らせベルトで固定した。

小和田駅は普段無人駅であるが、到着した際には、JRの職員が待機していて、到着する列車の乗降口を案内してくれた(写真4)

写真4

小和田駅でのようす

午後1時40分小和田駅を出発、午後2時15分中部天竜駅に到着、先ほど案内してくれた列車乗降口は、中部天竜駅のスロープ直近の乗降口であり、列車内の付近にいた乗客に他の場所へ移動していただくようJRから呼びかけがあった。

下車後、救急車内へ収容し、バイタル測定後佐久間病院へ搬送した。

6 考察

(1)先行した保健師の情報により資器材の選定、搬送方法の検討ができた。

(2)JRの協力によりスムーズな搬送と傷病者の負担の軽減が図られた。

(3)JRの列車発車時間を考慮し、搬送開始時間を調整したことにより搬送に要した時間を1時間38分と最小限にできた。

(4)車いすは、車輪が大きく、取り回しがしやすく、狭く鋭角な曲りの多い山道の搬送に適していた。

(5)支援隊員の力が大きかった。

(6)傷病者のバイタルが安定していた。

(7)緊急を要する場合や、JRが不通となった時の対応を考慮する必要がある。

(8)緊急性が高い場合、消防ヘリにより、ホイストを使用した隊員の投入で傷病者接触を早期にできる。

7 時系列

午前10時00分 出動指令

         救急車にて、中部天竜駅に向かう

午前10時30分 中部天竜駅に到着、搬送支援隊と合流する。

午前10時44分 中部天竜駅を出発

午前11時20分 小和田駅に到着、傷病者宅に向かう。

午前11時39分 傷病者宅に到着

午前11時40分 傷病者に接触

午後12時44分 傷病者を車いすに収容する。

午後12時45分 傷病者宅出発(搬送開始)

午後 1時21分 小和田駅到着

午後 1時40分 列車により小和田駅出発

午後 2時15分 中部天竜駅に到着

午後 2時21分 救急車へ収容し、出発

午後 2時23分 佐久間病院到着

午後 2時30分 引き揚げ

午後 3時25分 出張所到着

 

筆者紹介

氏  名   庵原 誠之(イオハラ セイジ)

出 身 地   浜松市

所  属   浜松市消防局

消防士拝命  平成10年4月

救急救命士合格年月日

平成22年3月21日 第33回国家試験実施日

平成22年4月13日 合格発表

コメント

玉川進

ここまでして患者を搬送してくれる救急隊の努力には頭が下がる。7月末で一年中で一番暑いときで、帰りの時間が行きの2倍かかったと書かれているので、大変な苦労だったろう。患者の身体確保や複数の人数で車いすを引っ張る仕組みなど、多分過去に同じようなことを経験している野だろうことが窺われる。

北海道ではこれほどの山には人は住んでいないし、山の中にはヒグマがいるので住むことは危険でもある。なぜこの患者がこんな山奥に住んでいるのか、どうやって生計を立てていたのかそれを知りたくなった。

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