201209救助の基本+α(50)支持点・支点 (笠間市消防本部 鈴木裕也)

 
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基本手技

月刊消防2020/9/1, p22-26

 

救助の基本+α

支持点・支点

 

目次

1.はじめに

はじめまして、今回「救助の基本+α」シリーズを担当させていただきます、茨城県笠間市消防本部の鈴木裕也と申します。
現在は、笠間消防署で救助隊長として勤務しています。
まず、当本部について紹介いたします。
笠間市消防本部は平成18年3月19日、旧笠間市、旧友部町、旧岩間町が合併し新「笠間市」となり発足し、1本部3署体制職員数127名(令和2年1月1日現在)で消防業務を行っております。
管轄の笠間市は、茨城県の中央部に位置し、東西約19キロメートル、南北約20キロメートルで構成され、総面積は、240.40平方キロメートルとなります(001)。JR常磐線及びJR水戸線の鉄道、そして常磐自動車道及び北関東自動車道の高速交通体系が確立されています。首都圏から約100キロメートル、県都水戸市に隣接し、近年住宅団地造成等により都市化が進んでおり、笠間地区を中心に観光レクリェーション面において県内では代表的地域となっています。

001
笠間市の位置

2.支持点・支点について

救助活動では、ロープを工作物に結着したり、カラビナに通してロープの伸びる方向を変えて使用します。これらの箇所を支持点または支点といいます。「支点なくして救助なし」と言われる通り支持点・支点(以下、支点等という)を作成することは、救助活動においてとても重要な要素で、支点等の作成次第で救助現場の活動が大きく変わってくると言っても過言ではありません。
私たち救助隊の訓練は、主に所属施設の庁舎や訓練塔を使用して実施しています。そこには見慣れた支点等があり、より救助しやすい環境で訓練を実施しています。しかし、実際の現場では堅牢な構造物・工作物・樹木等(以下、地物等という)を探し、無ければ自ら作り上げなければなりません。
今回の「救助の基本+α」では、このような救助活動を左右する支点等の選定・作成について紹介していきたいと思います。

3.支持点・支点の作成方法

支持点・支点の作成方法については、主にソウンスリング、ウェビングテープ、ロープによる作成方法があります。

(1)ソウンスリングによる作成方法(002)

地物等に巻きつけたり、折り返して作成するため、簡単に支点等の設定が可能となります。
素材はダイニーマ製とナイロン製があり、長さも数種類あります。
ダイニーマ製の特徴は、高強度で水濡れによる強度低下がありません。しかし、摩擦抵抗が小さいため滑りやすく、140度程度で融解します。
ナイロン製の特徴は、吸水性があり濡れた状態では最大で約25%の強度低下が見られます。
約220度で溶解し、ダイニーマ製に比べ安価となります。
どちらも、最低破断強度は約22kNとなっています。

①2バイト(003)

上部支点の活用に際し、地物等から距離をとる必要がある場合などに行う方法。巻き付けずに引っ掛けてあるだけのシンプルな方法。地物等の表面が滑りやすい材質の場合などは、横滑りに注意する必要があります。

②2ラウンドターン(004)

地物等に2回巻き付け、両端末となる輪の部分を活用する。巻き付け数は地物等の太さにより調整します。
また、太い地物等に作成した場合はカラビナのトリプルアクセスに注意する必要があります。

③ガースヒッチ(005)

いわゆるひばり結び。ガースヒッチにより支点等を作成した場合は、ソウンスリングの交点の位置により強度が変化するので注意する必要があります。

002

ソウンスリングによる支持点・支点の作成
(出典:平成19年度救助技術の高度化等検討会報告書)

003
2バイト

004
2ラウンドターン

005
ガースヒッチ

(2)ウェビングテープによる作成方法

三つ打ちロープでいう小綱のようなもので支点等の作成だけでなく、要救助者の縛着やハーネスの作成などソウンスリングよりも多用途に使用することができます。
ロープに比べて接地面積が広いためフィット感が高く、ソウンスリングと違い輪の大きさを任意に調整することができます。
FEMA(※1)のGYBOR(※2)規格により、色ごとに長さが決められています。
最低破断強度はメーカーにより多少の違いはありますが約17kNとなっています。

①シンプルアンカー(006)

単純に地物等の大きさに合わせ、ウォーターノットで結索し、アンカーを設定する方法。

②ラップスリープルツー(007)

地物等にウェビングテープを三回巻き付け、端末をウォーターノットで結索する。結索した部分以外の二本を荷重の加わる方向へ引いて設定する。ポイントは結索部の位置と牽引方向を合わせることで結索部に荷重がかかりにくくなります。

006
シンプルアンカー

007
ラップスリープルツー

(3)ロープによる作成方法

カーンマントル構造の編みロープには伸び率が大きいダイナミックロープと伸び率が小さいスタティックロープの2種類があり、従来の三つ打ちナイロンロープはダイナミックロープに含まれます。
降下や引き揚げ、展張といった活動をする際には伸び率が少ないスタティックロープを使用することで効率的な活動が可能となります。また、落下した場合確保ロープのたるみを無くすことで落下による衝撃荷重を軽減することができます。

①ノーノットアンカー(008,009)

地物等に結着するのではなく、単純にロープを巻きつける方法。
地物等との摩擦抵抗を利用したアンカー作成方法で、強度低下の原因となる結索を必要とせずロープ本来の強度で使用することが可能となります。
通常は、008のように端末に8の字結びを作成しカラビナにて主ロープに掛けますが、009のようにもやい結びの輪を直接主ロープに掛けることで資機材数を減らすことができます。

②ブリッツアンカー(010)

地物等にロープを巻き二重つなぎでロープを結索します。ロープに荷重がかからないように余長を取り8の字結びを作成し、二重つなぎで作成した輪にカラビナで連結します。
もしメインのロープが左右に動いても、このカラビナはロープ上を滑り左右に動くので安定したアンカーを構築することができます。

③ツーポイントアンカー

2か所の地物等にロープを係留し荷重を分散させて作成するアンカー。
作成方法はいくつかあると思いますが今回は、シンプルに作成できる2種類の方法を紹介します。

1.コイル巻もやい結びによる作成方法

(1)2か所の地物等にロープを通します。(011)
(2)地物等の間にあるロープを、アンカーを作成する位置まで引き寄せます。(012)

(3)コイル巻もやい結びで結索し完成です。(013, 014)

2.8の字結びによる作成方法

(1)上記と同じく2か所の地物等にロープを通します。(015)
(2)ロープの端末とメイン側のロープを二重つなぎで結索します。(016,017)
(3)地物等の間にあるロープを、アンカーを作成する位置まで引き寄せます。(018)
(4)引き寄せた4本のロープを合わせて8の字結びで結索し完成です。(019)

上記の2種類の作成方法は、地物等の数が増えても基本的な作成方法は変わりません。

008
ノーノットアンカー。カラビナを使う方法

 

009
ノーノットアンカー。直接主ロープに接続する方法

010
ブリッツアンカー

011
ツーポイントアンカー。コイル巻もやい結びによる作成方法。2か所の地物等にロープを通す

012
地物等の間にあるロープをアンカーを作成する位置まで引き寄せる

013
コイル巻もやい結びで結索

014
ツーポイントアンカーの完成

015
8の字結びによるツーポイントアンカー。2か所の地物等にロープを通す

016
ロープの端末とメイン側のロープを二重つなぎで結索

017
二重つなぎの拡大

018
地物等の間にあるロープを、アンカーを作成する位置まで引き寄せる

019
引き寄せた4本のロープを合わせて8の字結びで結索し完成

4.おわりに

ロープを使用する救助活動では、引き揚げ救助や張り込み救助において丈夫な地物等を選定する知識とそれを活用して支点等を構築する技術が重要となります。
救助隊員として、「安全・確実・迅速」に要救助者を救出するために、支点等の重要性を再認識することでより効率的で安全性の高いシステムを構築することができるのではないでしょうか。
消防が行う救助活動では、3S(セーフティ・スピーディ・シンプル)を念頭に置いて活動することが基本であると考えます。
特に、簡単なシステムや結索を使うなど「シンプル(単純)」を意識して活動することで、少ない結索、少ない資機材でシステムを作成することができ「スピーディ(迅速)」につながり、さらには誰にでも確認ができるようになることで「セーフティ(安全)」が確保されヒューマンエラーも防げるのではないでしょうか。
今回のこの記事が、全国の消防職員の皆様の救助活動の一助となれば幸いです。

※1 Federal Emergency Management Agencyの略称(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)

(020)

著者

鈴木 裕也(スズキ ユウヤ)
所属 笠間市消防本部 笠間消防署
出身地 茨城県笠間市
拝命 平成11年4月
趣味 ジョギング、DIY

記事作成協力 友部消防署特別救助隊

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