雑誌 健康教室 2020年12月号p48-49
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止血
目次
はじめに
今回は血の止め方です。いつもお世話になっている旭川近郊のH先生に話を伺うと、その長い教員生活の中で圧迫止血以外には行ったことがないそうです。
今回紹介するのはその圧迫止血と、止血帯を用いた止血方法です。教科書には止血点を圧迫する方法が載っているのですが、私も知り合いの救急隊員も試したことはないというので、この原稿では触れません。
動画解説
001
傷口の観察をします。自分では手に負えないような激しい出血がある場合やショック状態の場合はまず救急車を呼び、そのあと止血を行います。
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血液からうつる病気があります。手袋やビニール袋を用いて血液に触れないようにします。
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圧迫止血法。
ほとんどの出血は圧迫することで止まりますし、少なくとも救急隊が来るまでは圧迫止血でしのぐことができます。
出血部位を布で押さえます。血が止まるまで押さえ続けます。布が血で滴るようになったら新しい布を上から当てて押さえます。以前は新しい布に交換していましたが変更されました。
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止血帯法。この方法が用いられるのは圧迫止血法では止血ができない場合です。爆弾で手足が吹き飛ばされ、傷口からどんどん出血しているのが一番の適応です。学校で行われることはまずありませんが、知識として覚えておきましょう。
残っている手足の上流に布を巻きて縛ります。布の幅は広い方が効果的に血管を締めることができます。
005
さらに血液が止まるまで棒で締め上げます。締め上げた時刻を記録しておきます。いったん締め上げたら緩めてはいけません。以前は30分に一回緩めるとしていましたが、現在は緩めないようになりました。
止血のアップデート
(1)止血方法は変わっていない
止血の方法は昔から変わっていません(zu001)。押さえることと締め上げることです。
第一選択は押さえること。救急車を呼んだ後は、何も考えずに押さえ続けましょう。
止血点圧迫法についてはPubmedという世界一の医学論文検索サイトでもまともな論文は出てきません。過去の方法ですので忘れて構いません。
止血帯法については、ターニケット(006)という専用の資機材がアメリカ軍から入ってきて、消防で広く配備されるようになりました。2013年4月15日のボストンマラソン爆弾テロ事件では床に置かれた爆弾から釘やベアリングなどの金属が飛び出しため、多くのランナーが足を負傷しました。この時に用いられた止血帯によって多くの命が救われたことから、2019年のラグビーW杯や2020年の東京オリンピックを見据えて消防に重点的に配備されたものです。
006
ターニケット。駆血帯と締め上げ棒が付いたもの。近代消防2019年7月号p78ページから引用
病院の外での命に関わる出血をどの方法で止めたか調べた文献によると、この止血帯法が最も多く、ついで止血剤の入った特殊なガーゼで覆うこと、止血用器具を用いること、圧迫止血法、止血点止血法の順でした。海外では止血剤入りのガーゼが普及していることからこのような結果になったようです。日本の救急隊は持っていません。
(2)救急隊や医師はどうやって止血するか1)
大出血で命に関わる場合、救急隊はまず圧迫止血を試みます。次に手足なら止血帯で出血を止めます。骨のズレが出血の原因ならスレを最小限にする資機材を体に巻きます。止血にかける時間は最小限として一刻も早く病院へ運び込むように救急隊は常に訓練しています。
病院到着後には止血方法を検討します。胸部や腹部臓器の損傷の場合は手術で止血を試みます。骨盤骨折のような、手術では止血できない場合には放射線科医が透視下で破れた血管を閉塞させるカテーテル手術を行います。
文献
Crit Care 2019;23:98
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
hataguchi.jpg
唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
tamakawa.JPG
旭川医療センター病理診断科
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