近代消防 2025/09/15 (2025/10月号)p58-60
冷却効果は冷却部位よりも冷却面積に相関する
高橋啓太
松江市消防本部
目次
1.はじめに
気象庁によると日本における夏季平均気温は最近100年を通じ上昇しており、総務省統計によると2024年の熱中症による救急搬送者数は過去最多を記録しています。その状況下、救急隊が熱中症傷病者に対して行う処置は、アイスパック冷却法を主としているところが多いと思われます。しかし、私は過去の症例経験よりアイスパック冷却法の冷却効果に疑問を感じており、これ以外に有効な冷却方法がないのか、当消防本部で所有する資機材を組み合わせた冷却方法を比較検証しました。
2.対象および方法
(1)対象
消防隊員の26名で、防火衣および空気呼吸器を装着し(001)、平時から実施している暑熱順化訓練(ランニング)(002)に併せ定期的に体温測定を実施しました。隊員には「ランニング速度は個人の能力に合わせ、水分補給は各自で判断し行うこと」「体調不良を感じれば訓練は中止すること」を申し渡し、隊員の同意を得ました。また給水頻度が少いと判断された隊員には安全管理者が指摘を行いました。
(2)体温測定要領
体温が訓練開始前より約2℃上昇した時点で訓練を中止し、冷却を開始しました。冷却開始後の体温測定は、1分間隔の間欠測定としました。体温測定には耳式体温計(ミミッピEM-30CPLB01,TERMO)(耳式体温計CTD505,CITIZEN)を用い(003)鼓膜温を測定しました。
(3)冷却方法
5通りの方法を行いました。消防隊員26名の中からランダムに10名を選出し、各冷却を行いました。
A:アイスパック冷却法(ペットボトルアイスやアイス枕を用い、頸部、腋窩部および鼠径部の太い血管が走行する箇所に冷却材を当て冷却する)(004,005)。
B:アイスベスト+アイスパック冷却法(アイスベストを着装させ、さらにペットボトルアイスや、アイス枕を用い、頸部、腋窩及び鼠径部の太い血管が走行する箇所に冷却材を当て、冷却する)(006,007)
C:アイスタオル冷却法(訓練隊員に氷水で濡らしたタオル5枚で体表面を覆い、補助者1名が随時タオルを交換し冷却を行う)(008,009)
D:アイスタオル+アイスパック冷却法(アイス枕を3つ並べた箇所に仰臥位となり、背部を冷却、さらに氷水で濡らしたタオル3枚を用いて体表面を覆い、補助者1名がタオルを交換し冷却する)(010,011,012)
E:気化冷却法(水ミスト+送風)(隊員の上衣を脱衣させ、補助者1名が霧吹きにて水を上半身にかけ、同時に送風機にて風を当て冷却する)(013,014)

001
防火衣および空気呼吸器を装着

002
暑熱順化訓練

003
使用した耳式体温計

004
アイスパック冷却法

005
アイスパック冷却法で使う冷却材

006
アイスベスト+アイスパック冷却法

007
アイスベスト+アイスパック冷却法で使う冷却材

008
アイスタオル冷却法

009
アイスタオル冷却法で使う冷却材

010
アイスタオル+アイスパック冷却法。体前面

011
アイスタオル+アイスパック冷却法。背中にも冷却材を置く

012
アイスタオル+アイスパック冷却法で使う冷却材

013
気化冷却法

014
気化冷却法で使う資機材
3.結果
015に結果を示します。
A:アイスパック冷却法の体温低下度は5つの冷却法の中でもより緩やかであるのに対し、D:アイスタオル+アイスパック冷却法の体温低下度は他の冷却法の中で最も急でした
4.考察
今研究から、アイスパック冷却法の冷却効果は限定的であり、それに代わる冷却方法をとしてアイスタオル+アイスパック冷却法の冷却効果が高いことがわかりました。つまり、どこを冷やすかよりも可能な限り広く冷やす方が効果が高いということです。
熱中症は、深部体温が40.5℃を超える状態が続くと予後が悪化するとされています1)。また、熱中症の重症化を防ぐためには30分以内に中心部体温を39℃台に下げることが必要で、治療の主な目標とされています2)。このことから、重症熱中症では一刻も早く有効な冷却が行われる必要があり、それを病院到着まで継続する必要があります。
今後も多くの冷却方法が検証・検討され、救急現場に導入されることを期待しています。
文献
1)Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019
2)Douglas J. Casa, Brendon P. McDermott, Elaine C. Lee, et al. Cold Water Immersion: The Golden Standard for Exertional Heatstroke Treatment. Exer. Sport Sci. Rev., Vol. 35
名前:高橋 啓太
かな:たかはし けいた
所属:松江市消防本部
出身地:島根県松江市
消防士拝命年:平成18年4月
救命士合格年:平成30年
趣味:スポーツ、音楽、読書

名前:高橋 啓太
かな:たかはし けいた
所属:松江市消防本部
出身地:島根県松江市
消防士拝命年:平成18年4月
救命士合格年:平成30年
趣味:スポーツ、音楽、読書

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