月刊消防 2025/01/01, vol 47(01), 通巻547, p25-30
目次
1.挨拶
今回「救助の基本+α」を担当させていただく、福島県伊達地方消防組合中央消防署の後藤一真と申します。現在は、中央消防署で特別救助隊として勤務しています。
「救助の基本+α」に記事掲載をするにあたり、当消防組合に配備されています、三連はしご及び付属の資機材をご紹介いたします。普段、当たり前のように使用している三連はしごですが、もう一度基本を復習する機会となれば幸いです。
2.伊達地方消防組合について
当消防組合は、宮城県との県境である福島県北部に位置しております。(写真1)
管内には、1級河川である阿武隈川が流れており、ボルダリングや登山、四季折々の風景が楽しめる霊山などがあります。また、独眼竜正宗で有名な「伊達氏」発祥の地とも言われています。
構成市町は伊達市、桑折町、国見町、川俣町の1市3町で、人口約9万人、
総面積は約470k㎡を1本部1署4分署で管轄しております。(写真1)
救助業務体制は、中央消防署に特別救助隊1隊を配備し、管内全ての各種災害事案に対応しております。
令和4年は救助出動が38件、令和5年は44件発生しております。

(写真1)伊達地方消防組合
3.消防用積載三連はしごの諸元・性能について
救助工作車に積載されている三連はしごについてご紹介します。

名称KHA-87チタン製三連梯子(写真2)
型式品評は第12~1号
全長8,765mm
縮長3,560mm
自重31kg
立てかけ荷重
分散許容最大荷重
1,800N
登降者
2名
1局所許容最大荷重
1,400N
登降者
1名
水平架てい荷重
(使用長さ制限3.5m以下で使用)
分散許容最大荷重
1,800N
登降者
2名
1局所許容最大荷重
1,400N
登降者
1名
同時伸縮
同時伸縮式三連はしごは、梯上の滑車及び引き綱をはしごの裏側に配置した仕様となっています。伸縮用ロープである引き綱に加えてワイヤーロープを連動させることで、2連目、3連目が同時に伸縮ていす
る構造となっており、従来の1/2の早さで使用に適した長さに伸ていすることができるとともに、活動中、誤って掛金が外れた際に2連目が落下するのを防止します。(写真3)

(写真3)同時伸縮式三連はしご
掛金確認安全装置
掛金確認安全装置は、特に夜間及び暗所の活動時を想定したもので、掛金が支管にかかると発光ダイオードの点滅とともに確認ブザーが鳴動する装置です。掛金確認安全装置には、9Vの積層乾電池が使用されています。
電池交換のサイン
電池交換の目安は、発光ダイオードの点滅間隔が約1秒間隔(通常約0.5秒)と長くなります。(写真4)、(写真5)

(写真4)掛金確認安全装置

(写真5)電池交換のサイン
付属の資機材をご紹介します。
4.クレーン救出用金具TRC-02(写真6)

安全許容荷重2000N(約200kg) (写真6)クレーン救出用金具TRC-02。井形金具と滑車の2つからなる。
最上段と最下段に装着し、救助ロープによる結着よりも短時間でクレーン救出が迅速に行えます。

①梯子先端の横桟にクレーン救出用金具(写真7)を引っ掛けます。
U字状金具は裏桟に取り付けます。
※付属のワイヤーは任意の箇所に設定し、落下防止として使用します。

②梯子の最下段にクレーン救出用金具(写真8)を横桟の中央に取り付けます
(写真8)最下段にクレーン救出用金具を横桟の中央に取り付けます。確保ロープはクレーン救出用金具(写真8)の下からロープを通します。
③クレーン救出用金具(写真7)の二つの滑車にロープを通し、余長をとって背面にさげ、裏桟(任意の箇所)に結着する。
④余長をとった救出ロープにカラビナとけん引用動滑車を別途取り付けます。
5.横桟保護カバーTRS-50L(写真9)

応急はしご救出やはしご水平救出等を行う際、横桟にかかる荷重負荷を軽減し、横桟の変形を防止します。
①3連目の横桟に、取り付けます。
②U字状金具は支管に取り付けます。
③固定用のマジックバンドを巻き付けます。
※付属のワイヤーは任意の箇所に設定し、落下防止として使用します。
6.クロスバーTRX-167(写真10)(写真11)


はしご水平救出等に対応します。
①はしごを建物から引き離す際に使用します。
②クロスバーの先端にカラビナ等を取り付けて、はしご側面に接続させます。
③クロスバーが安定しない際は、ロープ等で結着します。
(写真10)クロスバーTRX-167(写真11)クロスバーTRX-167先端部分
7.付属品を使用した救出方法の紹介
クレーン救出用金具を三連はしごに取り付けます。

012金具の確認

013取り付け
救出ロープを滑車に通します。

014滑車に通す

015所定の位置までロープを通す
余長をとり、背面に下げ、裏桟(任意の箇所)に結着し、余長をとった救出ロープに動滑車を取り付け設定完了となる。

016取り付け完了
②はしご水平救出
はしごを伸梯し、3連目の横桟に横桟保護カバーを取り付け、マジックバンドで巻き付けます。

017 3連目の横桟に横桟保護カバーを取り付ける

018マジックバンドで巻き付ける
クロスバーを支管に取り付けます。

019クロスバー取り付け
クロスバー及び横桟保護カバーを使用した、はしご水平救出の状況。

020はしご水平救出

021はしご水平救出全景
付属品を使用することにより、ロープ等での結索が省略され、迅速に設定することができます。
8.関東梯子株式会社様へQ&A
普段、何気なく使用している三連はしごについて、今さら聞きにくいことや気になってはいたけど、細かいところなどを関東梯子株式会社様へ質問してみました。
Q1今まで三連はしごの破損報告が多い事例、破損個所が多いところはどこでしょうか。
A1使用頻度や経年劣化により、梯子の使用状態は著しく異なる為に縦桟の擦れや横桟の変形などが生じるため、一概にどの箇所が多いなどはございません。
また、破損事例とするならば使用前後の点検を怠った梯子か、定期的なオーバーホールや修繕を施されていない梯子に限り3連目の曲がりや基底部付近の破損等が見受けられます。
Q2掛金及び支管の許容荷重、強度はどのぐらいでしょうか。
A2全伸てい状態で掛金及び支管にかかる荷重は2700Nとなります。
Q3使用状態において許容最大荷重の1.5倍の荷重を加えた場合、永久ひずみを生ぜず、許容最大荷重の3倍の荷重を加えた場合、変形又は破損しないとありますが、どのような試験を行っているのでしょうか。
A3梯子下部に貼付しております銘板に記載されている、一局所荷重及び分散荷重にそれぞれ当該静荷重を加えた試験を行っております。
Q4はしごクレーンにて救出を行った際、全縮梯状態では長さが足りないため、伸梯して実施した場合、通常のはしごクレーン救出よりも過度な負荷がかかると思われます。
このように通常のはしごクレーンよりも過度な負荷がかかった梯子は、外観上の変形がなくともその後の使用は控えるべきでしょうか?
A4製造年数や使用頻度にもよりますが、過度な負荷がかかった梯子は外観上変形がない場合でも念入りに点検を行っていただき、梯子全体の変形又は曲がり(特に3連目)や各部品の破損や亀裂等がなければ使用上問題はないかと思われます。
ただし、弊社では安全は保障できかねますので少しでも異常等がございましたらご連絡ください。梯子の状態によっては修理対応致します。
また、3連目の2~3段目に横桟保護カバーを付けていただくと横桟の変形防止に繋がるかと思われます。
Q5はしごの水平状態での使用について、三連はしご最大伸梯状態で長さ方向の中央部に許容最大荷重を加えても破壊しないと聞いたことがありますが、貴社製の梯子も同じ認識でよろしいでしょうか。また、その際の変形についてはどうでしょうか?
A5通常の荷重検査は静荷重で行い、1800Nでは破損はしませんが災害や救助現場での動荷重が加わると、変形や破損がないとは一概には言えません。
状態にもよりますが、修理対応となる場合がございますので変形があった場合はご連絡ください。
Q6許容荷重の「一局所」とは、一本の横桟にかかる荷重。「分散」とは、他社製三連はしご説明書に記載のとおり、2ⅿ間隔とれば同じ連上でもよいのでしょうか。
A6許容荷重の「一局所」とは、全伸ていした梯子全体の中心部に、安全許容荷重900Nを加えた荷重としています。
また、「分散」とは全伸ていした梯子全体の中心部から1m間隔に、2名の登てい者としております。
Q7梯子の材質によっては中落ちが発生しないということはあるのでしょうか。また、中落ちを防ぐ伸梯方法をご教示ください。
A7当社製品のチタン製三連梯子KHA-87は、従来の梯子の構造とは異なり2連目と3連目に伸縮てい用のワイヤーロープが構成されており、ワイヤーロープ連動により中段2連目を吊っている状態のために、中落ちする現象はございません。
また、従来の鉄製やステンレス製は当該梯子のようにワイヤーロープが連動されていないため、3連目を引上げなどした場合には、従来どおり中落ちする危険が伴います。中落ちを防ぐ方法としては全伸ていをし、余長ロープは必ず末端結束し各連目掛金部付近にも、中落ち防止のロープ等で結束してください。
末端結束をしっかりしていない梯子を伸梯し立てかけた状態で上から持ち上げると、掛金が戻り中落ちの危険性がありますのでご注意ください。
Q8三連はしごを約75度で架梯し、伸梯状態で許容荷重を超えるような荷重をかけてしまった場合、横桟、掛金、支管ではどこが先に破損するのでしょうか。
(横桟が破損してしまうのか、掛金が破損してしまうのか、掛金がかかっている支管が破損してしまうのか。)
A8あくまでも予測ですが、静荷重又は動荷重による超過のために一概にはどの箇所とはなりませんがおおむね横桟からではないかと思われます。
Q9これだけはやらないでほしいなどの禁忌事項があればご教示ください。
A91人での使用や定期点検を行っていない梯子の使用。
※あくまでも火災現場や人命救助による目的での梯子となるため最低限の使用方法は考慮していただき、状況に応じて消防様の判断で安全に使用していただければと思います。
※弊社での安全の保証はできかねますのでご了承ください。
関東梯子株式会社の皆様、快くご協力いただきありがとうございました。
今後も消防力向上のため、日々訓練に励んでいきたいと思います。
9.おわりに
今回、関東梯子株式会社様をはじめ、多くの方にご協力いただき執筆することができました。本当にありがとうございました。
毎年のように自然災害が全国各地で猛威を振るい、住民から求められる期待は年々高まっています。我々、消防職員は時代の変化と共に複雑・多様化する災害に立ち向かわなくてはなりません。現状維持ではなく、新しい知識・技術を学び、どんな変化にも柔軟に対応しなければならないと強く感じています。
最後に、全国の消防職員が、事故や負傷等がなく、消防職務を遂行されるよう切に願います。ご覧いただき、ありがとうございました。
参考文献
・消防用積載3連梯子取扱説明書(関東梯子株式会社)
・付属資機材取扱説明書(関東梯子株式会社)
🚒伊達地方消防組合🚒
〒960-0634福島県伊達市保原町大泉字大地内93番地1
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(FAX)024-575-4103 https://www.date119.jp/
筆者

後藤一真(ごとうかずま)
・所属
伊達地方消防組合中央消防署
・出身地
福島県福島市
・消防士拝命
平成25年4月
・救助科課程修了
令和5年10月
共同制作者







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