月刊消防 2025/01/01号 47(01), 通巻547号 p62-3
最新事情
犬を飼うと長生きできる
目次
はじめに
今回は救急とは関係のないペットの話。読者の中でペットを飼っている人は多いだろう。我が家には犬と猫と亀がいる。犬については2年前に亡くしてしばらく飼っていなかったが、10月に再び飼い始めた。日課となった毎日朝晩の散歩が健康維持に役立つかなと期待している。
ペットが人に与える影響については数多く研究されており、良い結果が得られている。
長生きには犬。猫ではだめ
国立環境研究所の谷口優先生らの報告1)。谷口先生らは2018年に実施されたオーストラリアの世帯・所得・労働の動向調査の中からペットの飼育状況に関する質問票に回答した1万5735人のデータを4年間追跡し、オーストラリアの2022年の全国死亡統計のデータとマッチングさせた。対象の平均年齢は46歳、女性が53%、既婚者は47%、事実婚が17%である。対象のうちペットの飼育社は9525人(61%)であり、内訳は犬が44%、猫が24%、鳥が10%、魚が8%、その他のペットが7%であった。4年間の追跡調査で1万5735人のうち377人が死亡した。ペット飼育者は9525人のうち148人で1.6%, 非飼育者は6210人中229人で3.7%であった。ロジスティック回帰モデルでは、飼育者の死亡率は非飼育者より低かった。またペットの内訳で非飼育者と比較してみると、犬を飼っていた場合だけ死亡率が低下しており、それ以外の猫などは死亡率は非飼育者と有意差を認めなかった。谷口先生らは犬との触れ合いと犬を飼うことでもたらされる運動が健康な老いに関与するのだろうとしている。
身体的にも社会的にも良い
谷口先生らは2018年にもペットが高齢者にもたらす運動機能向上について報告している2)。対象は東京都大田区に住む年齢75-84歳の成人1万1233人。女性が52%である。身体能力と身体活動を調査するとともに、ペットの飼育歴やペットの種類を尋ねた。その結果、犬を飼うことで運動能力スケールと歩行活動が有意に向上することが示された。また、犬もしくは猫を飼うことで、近隣住民との交流が増え、社会的孤立を避けられることが示された。
そのほか、谷口先生らが出している論文では
・犬飼育はフレイル(老化に伴う身体的な虚脱)リスクを軽減させる3)
・犬飼育は高齢者の突発的な障害発生を防ぐ4)
・犬飼育では平日も休日も身体活動が増える。しかしこれは短期の飼育では増えず、長期になれば有意となる5)
谷口先生は犬が大好きなんだろう。好きだからこれだけの数の論文を定期的に出せるのだろう。
不安が軽減される
高齢者が抱える精神疾患患者が犬を飼うことで減少するか検討した論文がいくつかある。それらをまとめたメタアナリシス論文がある6)。それによると、抑うつ状態とペットについて研究した論文は191編あり、そのうち5編の横断研究と1編の前後研究を採用した。高齢者の数は25138人。犬がいることと抑うつ症状の関連は認めなかったが、犬と定期的に接触することで不安症状は軽減することが示された。
ペットと感染症
ペットも生き物だからら皮膚や口に微生物が繁殖している。短期的にはペットの持ち込む病原体によって感染症は増えるだろうし、長期的には細菌叢は変化していくだろう。犬猫も持ち込む感染症でよく聞くのが真菌症(カビ)である。ただ、研究7)によると、ペットを飼ったからといってペットと人との間で真菌が行き来するわけではないようだ。チェコから報告では、ペットと人とで共通するのはカンジダであり、それ以外の真菌種については人とペットとの関係の近さ(顔を舐められる、一緒に寝るなど)と関係がないとのことである。
また長期的には人にとっての病原菌は減少し有益菌の増加につながるという報告8)もある。
求められるということ
犬にしても猫にしても、飼い主の手助けがなければ生きていけない。犬なら散歩などの運動も求められる。面倒臭い時もあるが、相手が人間であろうとペットであろうと、求められるというのはありがたいことだ。
文献
1)PLoS One 2024 Aug 14;19(8):e0305546
2)PLoS One 2018 Nov 14;13(11):e020639
3)Sci Rep 2019 Dec 9;9(1):18604
4)PLoS One 2022 Feb 23;17(2):e0263791
5)Sci Rep 2024 Oct 29;14(1):26007
6)Int J Geriatr Psychiatry 2022 Nov;37(11):10.1002
7)Klin Mikrobiol Infekc Lek 2018 Jun;24(2):41-49.



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