近代消防 2019年8月号 p88-91
今さら聞けない資機材の使い方 75 モーションスカウト(個人携帯警報器)
( 石狩北部地区消防事務組合当別消防署 菅原軍馬 )
近代消防~今さら聞けない資器材の使い方~
●執筆者:
石狩北部地区消防事務組合当別消防署
菅原軍馬
●題材:「モーションスカウト(個人携帯警報器)」
●期日:2019年6月1日■
目次
1.はじめに
この度、執筆させていただくこととなりました、北海道の石狩(いしかり)北部地区消防事務組合当別(とうべつ)消防署(写真1)の菅原軍馬と申します。今回このような貴重な機会を与えて下さった関係者の皆様に感謝申し上げます。
私の所属する石狩北部地区消防事務組合は、石狩市、当別町(とうべつちょう)、新篠津村(しんしのつむら)の1市1町1村を管轄しており、札幌市に隣接する位置関係で、約77,000人(当別町は約16,000人)の住民の安心と安全のために活動しております(写真2)。
当町は、南北に細長く北部は山間部で、南部は平野地帯で田園風景が広がるとても自然豊な町です。スウェーデンのレクサンド市と姉妹都市であり、太美地区の北側の丘陵に位置する緑豊かな街並の住宅街スウェーデンヒルズは、まさにスウェーデンを感じる街並です。
さて、今回は「モーションスカウト(個人携帯警報器)」について紹介させていただきます。
写真1
石狩(いしかり)北部地区消防事務組合当別(とうべつ)消防署
写真2
当組合の管内図
2.モーションスカウト(個人携帯警報器)とは(※以下、当署使用のもの)
「モーションスカウト(個人携帯警報器)」とは、装着した人が一定時間動かない場合に光と音を発して周りの人に異変を知らせる資機材です。警報は、手動で作動させることも可能です。
内部に高感度の電子式モーションセンサーがあり、それを頑丈な防水加工プラスティックとシリコンカバーが包んでいます。表面には操作状態を表示するステータスLED1個、警報時に赤点滅するアラームLED2個が付いています。片手に収まる大きさであるため、活動時に支障を来すことも少なく、操作方法も簡単であり使いやすいものです(写真3-6)。
当署使用のものは、MSA社製のモーションスカウト(個人携帯警報機)です。キーを抜くことで始動する「K-T-R型」と、ボタンを押すことで始動する「T-R型」の2種類のうち「T-R型」を採用しています。
写真3
正面。
写真4
正面。各部分の名称
写真5
側面
写真6
背面
写真7
側面。クリップを上げたところ
3.モーションスカウトの仕様
仕様を表1に示します。
表1
モーションスカウト(個人携帯警報機)T-R型の仕様
4.使用方法
1)オン/オフボタンを1秒ほど長押しスイッチを入れます。
※起動時に短いアラームが鳴り、ステータスLEDが点滅します。
2)使用者が約30秒間静止した状態になると、音量を抑えた予備警報が3段階で約15秒間鳴ります。
※予備警報は、動作感知により解除されます。
3)予備警報中に使用者が動くことができない場合、本警報が作動します。また、アラームボタンを押すことで、手動で本警報を解除することができます。
※本警報作動までは静止から約45秒後
4)アラームボタンを2度押しすることで、本警報を解除することができます。
5)電源を切るには、オン/オフボタンとアラームボタンを同時に4秒間ほど長押しします。
6)バッテリー残量が少なくなると、警報音が約2.5秒間隔で鳴り、ステータスLEDが赤点滅に切り替わります。
7)基本的にはメンテナンスは必要ありませんが、清潔、正常な状態に保つため、濡れた雑巾、タオルに中性洗剤をつけ定期的に清掃し、スイッチ付近は時折シリコンオイルを差して潤滑にすることが必要です。
5.当署での対応
当署では、平成28年度よりモーションスカウト(個人携帯警報機)を導入し、今日まで活用しております。装着場所については、空気呼吸器の背負バンド(右側)(写真8)に装着(写真9)し、日頃の訓練から屋内検索時等に必ず隊員間(複数人)で呼称してスイッチのONを確認し使用しています(写真10)。
写真8
空気呼吸器とモーションスカウト
写真9
右側の背負バンドに付ける
写真10
隊員間で互いにスイッチオンを確認する
6.音と人間の聴覚について
音には、「強い音」と「弱い音」があります。この音のエネルギーは「音圧レベル」で表され、dB(デシベル)という単位です。10dBの音よりも、100dBの音のほうが「強い音」となります。また、音には、「高い音」と「低い音」があります。この音の高さは、周波数で表され、Hz(ヘルツ)という単位です。1秒間に1,000回振動するとしたら、周波数は1,000Hzとなります。100Hzの音よりも、1,000Hzの音のほうが「高い音」です。
ここまでは物理的な話ですが、音はさらに「大きく聴こえる音」と「小さく聴こえる音」があります。単純に、「強い音」が「大きく聴こえる音」ではありません。大きく聴こえるか、小さく聴こえるかは人間の感覚によるものであり、物理的に同じ音圧であっても周波数によって感度が異なり、感じる音の大きさが異なります。この感覚的な音の大きさを、「ラウドネス」といいます。この「ラウドネス」は、国際標準規格である「等(とう)ラウドネス曲線」で確認することができます(写真11)。
等ラウドネス曲線について説明すると、例えば、周波数が1,000Hzで、音圧レベルが40dBのときの「ラウドネス」を40phon(ホン)とし、周波数を変えていくと、音圧も大きく変わっていきます。この周波数と音圧のレベルを結ぶとグラフは曲線を描きます。この曲線が「等ラウドネス曲線」です。ここで、人間は通常、下は20Hz程度から、上は15,000Hzから20,000Hz程度までの鼓膜振動を音として感じることができ(個人差あり)、この周波数帯域を「可聴域」といいます。この可聴域は、歳をとるとだんだん狭くなりますが、等ラウドネス曲線より、人間の耳がもっとも聴きとりやすい、感度の良い周波数帯は2,000Hzから4,000Hzの高さの音であるということが分かります。
2,000Hzから4,000Hzという周波数には、赤ちゃんの泣き声や、女性の悲鳴、家電製品の警告アラームなどの音があります。上記を踏まえ、モーションスカウト(個人携帯警報器)の音圧(dB)及び周波数(Hz)を見てみると、可聴域の中でも人間(消防隊員)がもっとも聴きとりやすい周波数である2,000Hzから3,000Hzであり、95dBという強い音(音圧レベル)であるということが分かります。このことから、モーションスカウト(個人携帯警報器)は国際標準規格に基づき、物理的にも感覚的にも人間(消防隊員)が聴きとりやすい工夫をされていることが分かり、活動時には恩恵を感じることができます。
写真11
等ラウドネス曲線
人が音と認識できる数値を結んだもの。線が低い位置にあるほど小さい音でも認識できる。モーションスカウトは採用している2000-3000Hzは曲線で底にあたる部分で、それだけ良く聞こえることを示している。
7.モーションスカウト(個人携帯警報器)の実際
この度執筆するに当たり、実際どのくらいまでの距離で音を聴きとることができるのか、当署敷地内において、いくつかのパターンに分けて実験を行いました(図1)。
図1
モーションスカウトの検証。(1)で鳴らすと(2),(3)で聞き取れる。(2),(3)で鳴らしても同様に聞き取れる。
(1)の位置にて鳴動させ、(2)と(3)の位置から確認すると、問題なく聴き取ることができ((2)の位置及び(3)の位置にて鳴動させそれぞれの位置にて確認した場合も同様)、音の聴き取りやすさを確認することができました。
実験結果から、屋外であっても問題なく聴きとれることが分かりましたが、実際の現場活動時においては、様々な騒音や無線機の音、現場活動により変化する精神状態により、今回の実験結果とは異なる部分もあるかと思いますが、非常に有効な資機材であることが分かります。
8.おわりに
モーションスカウト(個人携帯警報機)は、我々消防隊員のために工夫された仕様となっており、現場活動時においてその活躍が大いに期待できます。
「人々の命を守る我々消防職員の命を守るためのもの」であるため、いつでも万全の状態で作動(使用)するよう、他の様々な資機材同様に、日頃からの点検や清掃に努めなければなりません。そして、資機材を常に万全の状態に保つということは、全て「人々の命を守る」ことに繋がるということを忘れてはなりません。
今回、紹介させていただきました内容が、少しでも、皆様の現場活動や訓練の参考となれば幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
著者
名前:菅原軍馬(すがわらぐんま)
所属:石狩北部地区消防事務組合当別消防署警防課警防係
出身:北海道足寄(あしょろ)郡足寄町(あしょろちょう)
消防士拝命:平成24年4月1日
趣味:オートバイ, 映画鑑賞
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