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190818救急活動事例研究 29 豊後高田市消防本部における自動心臓マッサージ器の使用状況 ( 豊後高田市消防本部 都甲卓樹 )

近代消防 2019年8月号 p84-67

救急活動事例研究 29 豊後高田市消防本部における自動心臓マッサージ器の使用状況
( 豊後高田市消防本部 都甲卓樹 )


豊後高田市消防本部における自動心臓マッサージ機の使用状況

都甲卓樹

豊後高田市消防本部

著者連絡先

都甲卓樹

とごうたかき

〒879-0605 大分県豊後高田市御玉147番地

豊後高田市消防本部

電話: 0978-22-3108

FAX 0978-22-3542

1.豊後高田市消防本部の紹介

豊後高田市は、大分県北部に位置し(図1)、人口23,000人の市である。管内には救急告示病院(一次)が1つしかなく、管外の二次医療機関に搬送することも多い。管外搬送率は46%である。

長時間搬送も考えられるため、情報伝達・収集に活用できる資機材をすべての救急車に搭載している。また今回取り上げる自動心臓マッサージ機(ルーカスII, 以下ルーカスとする)もすべての救急車に搭載している。

図1

豊後高田市の位置

出典:豊後高田市

2.ルーカスの装着方法

当消防本部での装着方法を解説する。胸骨圧迫の中断が最小限となるためには、チーム内でのしっかりとした声掛けが必要である。最初は装着位置がずれがちであるが、訓練を繰り返すことと工夫によって短時間で適切な場所にルーカスIIを置くことが可能にある。提示した装着方法は1例であり、もっとスムーズな装着方法がないか、常に検討を続けている。

図2

心肺蘇生中

隊長・隊員による心肺蘇生(Cardiapulmonary resuscitatio, CPR)。写真では省略しているが実症例ではAEDパッドを貼った後の状況を示している。

図3

傷病者の体位。

CPR実施中の傷病者の体位。上肢の角度が重要である。上肢を体幹と直角にすることでルーカス装着位置が胸骨の上半分に来やすくなる。

図4

胸の厚み測定スケールを用意する。

図5

胸の厚み測定

スケールを胸に置き、赤の部分が地面に接しなければ、ルーカス装着が可能

図6

背板の挿入

CPR中に実施。機関員が下肢を持ち上げ、臀部に背板を挿入。この間胸骨圧迫は中断しない。

図7

腰の位置でルーカス本体を接続

背板挿入後、電源を入れている状態のルーカスを背板に接続し、準備ができたら合図する。なお胸部に移動させるタイミングは換気のタイミングとなる。

背板挿入と本体接続はCPR2サイクル内に実施している

図8

機関員の役割

ルーカスを胸部に移動させる際、横にずれないよう、機関員は傷病者の足側に移動し、視線を胸部中央に置きつつルーカスの両アームを保持する

図9

ルーカスを胸に移動

挿入時の様子。換気を中断する。隊長(換気者)の前腕部で傷病者の頭部を挟みながら傷病者の両肩を持ち上げる。隊員(胸骨圧迫者)も隊長と共に傷病者の上体を持ち上げる。機関員はルーカスを胸部中央、傷病者の両上肢にルーカスのアーム部が接触する程度まで移動させる。

図10

ルーカスを脇まで移動させる

図11

ピストンを適切な場所に合わせる

傷病者の胸部にルーカス移動後、それぞれのボタン操作を行い、装着を完了。

ルーカスの胸部への移動開始からピストンの位置合わせ終了まで4秒程度である。

3.ルーカスの使用の状況

平成28年と29年の使用状況を報告する。数値は平均±標準偏差、最大、最小の順で示す。

(1)搬送時間と装着数(図12)

平成28年の心肺停止28例を対象とした。

装着は23例、非装着は5例であった。搬送時間1分であっても装着した例があった。

図12

搬送時間と装着数

(2)ルーカス装着に関する項目

平成28年の心肺停止28例を対象とした。

1)AEDのパットを装着してから装着完了までの時間

平均1分28秒±40秒であった。最大3分19秒、最短1分13秒であった。補足として、平成29年には平均時間は53秒である。

2)胸骨圧迫中断時間。

12.4±9.8秒。最大32秒。最小4秒。

3)胸骨圧迫実施時間比率(chest compression fraction, CCF)

AEDのパットを装着してからルーカス装着完了までの時間に対し胸骨圧迫が実施されている時間の割合を算出した。

平均は81.3±6.6%、最大88.4%、最小70.9%であった。最小は2)での中断時間32秒の症例であった。

4)現場滞在時間

ルーカス装着例と非装着例の比較を表1に示す。平均時間は差は見られなかった。標本数が少ないため統計処理は行っていない。

表1

滞在時間の比較

(3)ルーカス装着と特定行為実施

ルーカスを装着した例で特定行為が行われた割合を、平成28年と平成29年で比較した結果を図12に示した。ルーカスの装着数は平成28年では11例、平成29年では24例であった。

図13

特定行為が行われた割合。年別の比較。

考察

平成27年11月、救急車の更新に伴い、全救急車にルーカスが配備された。これに基づき、平成28年と平成29年でのルーカスの使用について報告した。日本蘇生協議会ガイドライン2015では『自動心臓マッサージ機の使用に対し、用手胸骨圧迫に代えてのルーチンには使用しないことを推奨する。』とある。しかし、当本部管内には山間部も多く搬送時間も長いため、隊員の体力温存と絶え間のない胸骨圧迫を実現するため、多くの症例で活用している。

ルーカスを装着する所要時間は、搬送時間と装着数比較で両者に関係は見出されなかった。絶え間ない胸骨圧迫を目的にルーカスを装着しているためである。

装着による胸骨圧迫中断時間については平均が12秒であった。AEDパッド装着後に傷病者を移動させた症例があり、そのため中断時間が伸びていたもので、多くの症例では10秒以内、最短では4秒の中断時間であった。最近の使用例では4秒程度である。中断時間は訓練を積むことで短縮できる。平均CCFは80%を超えており、装着に際しCCFの極端な低下はないと考える。現場滞在時間についてもルーカス装着による延長は見られなかった。

特定行為の実施割合は平成28年と比較して29年で上昇している。これはルーカスの使用に慣れてきたことと、ルーカスに胸骨圧迫を任せることで隊員の意識や体力が特定行為に向かうようになったためと考えられた。

ルーカスの使用は以下の利点をもたらす

1 )作業スペースの確保

2) 振動の軽減

3 )完全リコイルの達成

4) 隊員の疲労軽減

以上のことから本資器材は、有用なデバイスであると考えている。一層の心拍再開率の向上に向け、早期にアドレナリン投与を行うための訓練を積むとともに、事後検証・データ収集を行い、活動に還元していきたい。

結論

(1)豊後高田市消防本部におけるルーカスの使用状況を報告した。

(2)訓練によりルーカスの装着所要時間は短縮でき、ルーカスの持つ利点を享受することができる。

著者

氏 名  都甲 卓樹(とごう たかき)

所 属  豊後高田市消防本部 警防課救急係 総括主幹

出身地  大分県豊後高田市

消防士拝命年  平成7年4月

救急救命士合格年  平成14年

趣 味  バイク 野球(審判)

救急(自宅にはAED・バックボードなどを配備しています)

ポイントはここ

心臓マッサージ器の有用性についてはこの連載の2019年2月号森田貴久(神奈川県愛川町消防本部)が報告している。森田はその論文の中で2つ問題提起をした。1つ目が現場滞在時間が延長すること、2つ目が心臓マッサージ器の設定中は特定行為が行えないことである。今回の都甲卓樹の論文はその答えである。装着方法を工夫し徹底した訓練によって装着の時間短縮を図ること都甲卓樹はルーカスIIの装着における胸骨圧迫の中断を最小で4秒に留めることができるとしている。私は論文校正の時点でその装着方法を写真で詳しく解説するように要請した。読者諸兄も参考にしていただきたい。

自動心マッサージ器が出た当初は好意的な論文が多かったが、次第に悪い結果が報告されるようになってきた。ガイドライン2015の時点で既に否定的な論調だったので、ガイドライン2020が出れば明確に否定されるかもしれない。しかし過去の論文で胸骨圧迫を4秒で終わらせたものは私は知らない。日本人らしい創意工夫と勤勉さで新たな結果を出して欲しい。

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