190822_Voice(43)第二者の目線

 
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主張

月刊消防 2019年8月1日号 p65

第二者の目線

 

 

本宮康德(ほんぐうやすのり)

【生年月日】昭和52年6月10日

【所属】今治市消防本部

【救急救命士資格取得】平成25年4月

【趣味】読書、パソコン弄り、ネットショッピング、ガジェット集め

 

ゴムネットで作られた2つの天井収納スペースがあり、ひとつには赤い誘導棒が2本、ひとつにはアルフェンスシーネ大小3本がはみ出しながら収まっており、天井の取手には頸椎固定シーネ大小4つがぶら下がっています。モニターの横には使用済み針の入った廃棄ボトルがあります。その上方には、取手に巻きつけられたマンシェット、同じく取手に付いたフックには心電図のリードやパルスオキシメーターのクリップが、車の揺れに合わせて不規則に揺れています。乳酸リンゲル液に巻きつけてある駆血帯の先端や、アネロイド血圧計のメモリに掛けられた聴診器、先ほどの天井取手にぶら下がる頸椎固定シーネも、同じように揺れています。

 

なんとなく思い立ち、とある救急現場からの引き揚げ中、メインストレッチャーで仰臥位から見た車内風景でした。乗り慣れないストレッチャーに無防備な仰臥位で、知らないものが顔面や体の上空にあり、それらが振動により揺れたり移動したりを繰り返します。救急車の内部を毎当務見る私をもってでさえ、胸中がざわつきます。

救急車内には、医療器具や資器材が所狭しと配置されています。積載したい物品と積載可能な空間に差異があるため、何もかもを積載できるというわけではありません。重要度や使用頻度、空間効率と活動効率を天秤にかけながら、皆様も試行錯誤されているかと思います。それはもちろん、傷病者利益を追求するためにされているはずです。

しかし、効率を重視した“第一者目線”の配置が、傷病者への心理的ストレスに繋がってはいないでしょうか。

大音量のサイレン、ベッドサイドモニターの電子音、痛いほど腕を締め付けてくるマンシェット、冷たい電極が直接肌に張り付けられ、目の前を隊員の手や顔が往来する。数えきれないストレッサーが傷病者に降り注ぎます。これらのストレッサーは、そこが救急車内である限り避けられないものです。しかし、冒頭に書いたような私が感じた心理的ストレッサーは、あらかじめ除去することができます。

救急活動において、傷病者に不利益をもたらせてはなりません。傷病者の症状を悪化させない、もしくは悪化を軽減させるために、短時間で効率のよい活動を行わなければなりません。そのためには、救急隊員の勝手が良い場所に資器材を配置するのは当然のことと言えるでしょう。しかし、傷病者の上部、仰臥位になった時に視界に入る“そこ”じゃなければならないでしょうか。

全力で活動を行う中、小さなことは無視して活動しなければならないことはあります。しかし、ただでさえ自身の置かれた状況に不安を感じている傷病者に、余計な不安やストレッサーを与えることも、やはり避けなければなりません。

接遇は、高い意識のもと、日々磨かれていると思います。“第一者の目線”で見えるものは、磨きやすく、効果も感じやすいものです。しかし、他人の見るものは、その立場に立ってみないと、なかなか実感できません。同じような立場に立っても、常にその景色を見ている訳ではないので、徐々に記憶は薄れていきやすいものです。ならばなおさら、“第二者の目線”を意識的に見ることも、私たちにとって必要なスキルなのではないかと思います。

主張
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