月刊消防2019/11/1号、2019/12/1号
月刊消防 「救助の基本+α」 投稿原稿
目次
1 寄稿にあたって
茨城県の鹿島地方事務組合消防本部、高度救助隊の高木源史と申します。今回「救助の基本+α」のお話を頂き、掲載内容について隊員で検討し梯子クレーンとなりました。この梯子クレーンは、私が救助隊員となって15年経過した中で、「条件の良い位置に2つの後方支点は無い」という思いから、それに対応すべく救助方法を模索してまいりました。
その中で、今回ご紹介するのは安全かつ迅速に救出できる方法の、今現在での結論と言えます。皆さんは後方支点なしの想定で救出方法を思い描けますか?この文の最後に紹介する方法であれば、後方支点なしでも梯子クレーンが設定出来るのです。「そんな馬鹿な話しはあるか。」と思う方も居られるかもしれませんが、興味を持って読んでいただければ幸いです。
そして、力学的な面も記載してあるので、苦手な方も居るかもしれませんが、力学を理解し梯子クレーンやロープレスキューに望めば、面白くなり救出方法の引き出しが増えて来ると私は思いますので、少しだけお付き合いください。
2 鹿島地方事務組合消防本部について
茨城県の東南端に位置する鹿島地方事務組合消防本部は、危険物、高圧ガス等を大量に貯蔵取り扱いをする工場の進出、都市化の進展に伴う人口及び防火対象物等の増加による各種災害を未然に防止するため、大野村、鹿島町、神栖町及び波崎町の4町村の消防防災体制を確立すべく昭和44年4月に発足しました。平成21年4月には鹿島地方事務組合として鹿嶋市及び神栖市の2市を含む構成となり、消防に関する事務(消防団に関する事務を除く)の共同処理を行っております。管轄区域は、南北約40キロメートル、幅は広いところで約6キロメートルの細長い形状をしています。
(1) 構成市について
鹿嶋市、神栖市は茨城県の東南端に位置し、両市合わせて人口は16万2564人(平成31年4月1日現在)で、都内や成田国際空港からも近く、さらに平成27年、東関東自動車道と常磐自動車道が圏央道で結ばれたことで、広域からのアクセスが可能となりました。また、一番の特徴が、県下最大の工業集積地域・鹿島臨海工業地帯が管轄内に位置していることです。高度経済成長期開発が始まって以来、鉄鋼や石油などの基礎素材産業を中心にした重化学コンビナートが港湾部に作られ、現在でも160を越える企業がこの地で操業しています。太平洋の長い海岸線と利根川、北浦に囲まれた自然豊かな地域とそれに沿って建設された日本有数のコンビナート地帯、さらに商業地区や農業地区、住宅地区と多種多様な地域になっています。
(平成31年4月1日現在)
(2) 消防体制について
鹿島地方事務組合消防本部は、1本部、5消防署、1分署で組織されており、特別救助隊は2隊、高度救助隊は1隊配備し、職員数は298名(平成31年4月1日現在)、特別救助隊員は16名、高度救助隊員は16名となっています。
3 梯子クレーンについて
梯子クレーン救助法は、上部支点を作成することが困難な現場において、低所や高所にいる要救助者を救出する際に有効な方法であり、消防救助での基本中の基本とも言えます。昭和の時代に考案された救助方法ですが、現在の現場活動でも、選択する度合いは多いと思います。時代は昭和、平成そして令和と移り変わり、便利な資機材も多く取り扱われ、全国の各消防本部においても、より効率的な梯子クレーンについて考案されていると思います。当本部においても、検証し取り組んでいる内容をご紹介したいと思います。
⑴ 力学面からの梯子クレーン
基本的な梯子クレーンは参考書などにも掲載されており、皆さんご存知だと思います。資機材は、三連梯子、三つ打ちロープ(救出、梯子確保、誘導、小綱)、滑車、カラビナを使用して、梯子起立角度を70°前後に設定します。以前からある梯子クレーンをここでは、力学的に考えていきたいと思います。言葉の統一で、梯子クレーンの傾ける側を前方、梯子確保ロープ固定側を後方として進めます。
立面図である図1をご覧ください。三連梯子を70°に傾けた図です。傾けて置き、手を離すと勿論傾いた側に倒れます。これは●の重心が矢印の方向へ重力で引っ張られており、引っ張られている方向に梯子の接地面がないからです。
(図1)連梯子を70°に傾けた図。手を離すと勿論傾いた側に倒れる
しかし脚立(図 脚立)は4本の脚で支えあうように立っており、脚の4点を結んだ四角形が接地面となり、重心の矢印の向きは接地面内に入っているため、自立しています。
(脚立)重心の矢印の向きは接地面内に入っているため、自立している
傾いた三連梯子を倒れないようにするには、傾いた側に支える物を設けることによって、重力の向きに接地面が出来、自立します。ただ、救助現場において、傾いた側に支えるものを設置出来ない状況もありますので、梯子後方で転倒しないように支える物を設ければ自立します。では、その際の力の向きについて考えます。図2をご覧ください。先ほどの重心の引っ張られる力(青)を分解して考えると、赤の二つに分解できます。一つは基底部を支点に倒そうとする力と、梯子を基底部方向へ押さえつける力に分解できます。倒そうとする力は、梯子後方に設けた支えが担っています。押さえつける力は、基底部が全て担っており、地盤面に対して垂直方向に加わっている力ではないため、基底部を後方へずらそうとする力へ変わります。梯子の安定は、強い後方支点と転倒を支える物(棒やロープ等)、基底部がずれない条件がそろい、しっかりとした三角形を完成させる事で得られます。力の向きが基底部よりも常に前方にある条件で梯子クレーンを使うのであれば、後方支点から梯子を支える物は張力のみが加わるので、ロープで対応可能です。しかし、その安定は後方支点と梯子を結ぶ線の延長上に力の向きが向いている時の話になります。
(図2)押さえつける力は、基底部を後方へずらそうとする力へと変化する。
梯子クレーンを上から見た平面図の図3をご覧ください。青の矢印の時のみ安定し、少しでも赤の矢印のように力の向きがずれれば、不安定となります。
(図3)梯子クレーンを上から見た平面図。少しでも赤の矢印のように力の向きがずれれば、不安定となる
では、後方支点を2点でとった図4をご覧ください。二つの後方支点をとる事によって、開き角度分の力の向きが変わった場合でも対応できます。開けば開くほど、力の向きが変化した場合でも不安定とはなりませんが、その分、支える物と支点に加わる力は増えてしまいます。理想は後方から左右に30°開いた、開き角度60°位が良いと思います。よって、梯子クレーンを安定させる条件は横からと上から見た時の二つの三角形をしっかりとつくる事です。
(図4)梯子クレーンを上から見た平面図。理想は後方から左右に30°開いた、開き角度60°位で引くのが良い。
⑵ 各部に掛かる力
図5をご覧ください。梯子起立角度70°、重さ100kgを1倍力で設定し吊り上げた状態での各部への力の加わり方を表した図の一例です。一例ですので、それぞれの角度が変われば、加わる力も変化します。ここで注目していただきたいのは、梯子先端の固定滑車の力の向きです。滑車には193kgの荷重がかかり、その向きは梯子基底部よりも前側を向いていますので、梯子は安定します。
(図5)下部固定滑車あり。梯子起立角度70°、重さ100kgを1倍力。滑車には193kgの荷重がかかり、その向きは梯子基底部よりも前側を向いているので梯子は安定する
次に図6は下部固定滑車なしの場合の図です。この場合の梯子先端の固定滑車の力の向きは、梯子基底部よりも後方を向いているので、梯子は起きてしまい安定しません。梯子を前方荷重に保つためには、図5のように、下部固定滑車を設けるか、倍力の数を増やす事により保てます。
(図6)下部固定滑車なし。他は図5と同様。梯子は起きてしまい不安定
図7は2倍力で設定し吊り上げた状態での、各部への力の加わり方を表した図の一例です。設定によって各部に加わる力が変化する事がわかります。
(図7)下部固定滑車あり。2倍力。設定によって各部に加わる力が変化する
次に後方支点に掛かる力について考えます。図8をご覧ください。梯子起立角度70°、梯子確保ロープと地面の角度30°、先端に重さ100kgの重さが加わった状態の図です。垂直方向に100kgの力を分解させると、梯子を縮める力と、基底部を支点に前方へ倒れる力に変わり、94kgと35kgになります。基底部を支点に前方へ倒れる力の35kgを、さらに梯子を縮める力と後方支点に掛かる力に分解すると、43kgと55kgになります。この55kgは後方1支点の場合の荷重なので、これを開き角度60°の後方2支点に分解した場合、一つの支点に加わる力は31kgとなります。そして、梯子を縮める力は94+43=137kgとなります。
(図8)梯子起立角度70°、梯子確保ロープと地面の角度30°、先端に重さ100kgの重さ。各方向への力の大きさを示す
これは梯子の起立角度によって大きく変化します。梯子の起立角度80°から50°までを表1に表しました。角度が10°減る毎に支点に掛かる力が大きく変化する事がわかります。勿論地面と梯子確保ロープの角度が変われば、加わる力も変化しますが、梯子の起立角度が10°減る毎に支点に掛かる力が大きく変化するのは変わりません。全縮梯で三連梯子の長さは約3.5mであり、角度が10°減ると言う事は、梯子先端が約60cm前方へ移動したと言う事であり、逆に言えば、梯子確保ロープが60cmリリースされれば、梯子の起立角度は10°減ると言う事になります。この数値を基に、梯子確保ロープを人力確保で行った場合について考えてみたいと思います。
(表1)梯子の起立角度80°から50°まで変化させた場合の各荷重の理論値
起立角70°、開き角度60°の後方2支点の条件で、片方の後方支点に約31kg掛かる計算だとすると、人力確保可能な数字です。しかし、約31kgは静止時の数値であるため、引き上げ時の荷重の増加や、三つ打ちロープで新品以外を使用した場合、軽作業時でも10%前後の伸び率となっています。さらに、結索の締りなども考慮すると、起立角10°の変動は容易に起こりえる事だと言えます。つまり、梯子確保ロープを人力確保で行った場合、起立角度によって確保可能な場合もありますが、梯子が倒れ始めると、梯子を確保するのに求められる数値は急激に増大して行き、保持する事は不可能になります。私の主観ですが、梯子確保ロープを人力確保で行う事は、確実性を求められる消防救助としては、選択出来ないと思います。
次に、起立角度70°に設定する目安ですが、図9をご覧ください。三連梯子を70°傾けた時、全縮時長さ3.5mですので、裏主かん延長線と地面が交わる位置から先端の垂直線までの水平距離は約1.2mになります。設定の例として挙げるなら、地盤面が無くなるエッジ部分から60cm後方へ下げた位置に梯子を立てて救出ロープを下げ、エッジ部分から救出ロープまでが50cmぐらいになるように、梯子確保ロープを調整します。あえて、50cmと短くしているのは、実際吊り上げた場合、梯子確保ロープの伸びなどから梯子が傾くためです。勿論ぴったり70°でないとダメな訳ではありませんが、前段で記載した起立角度が減少すれば、後方支点に掛かる荷重や基底部をずらす力が増えて行きますので、70°から大幅に減る事はリスクを増やしてしまいますので、避けたいところです。
(図9)三連梯子を70°傾けた時、全縮時長さ3.5mの三連梯子が作る直角三角形の底辺は約1.2mになる
4 都市型資機材を用いた梯子クレーン
当本部は、都市型資機材を導入しており、梯子クレーンは全て都市型資機材で対応しています。三連梯子を設定位置手前に置き、オープンスリング等で梯子確保ロープ結着のため、梯子先端左右に支点を作成し、救出ロープ用の支点を先端中央と基底部付近中央に作成します。梯子確保ロープは、ロープバックに入った100mのスタティックロープ1本で作成します。二つの後方支点の片側にバックを置き、端末にフィッシャーマンズノットを作成し結索よりバック側に3ランドプルージックを作成し、後方支点のカラビナへ取り付けます。次に、ロープをスライドしながら引き出し、梯子の先端まで持って行き、バタフライノット、エイトノット、ディレクショナルエイト(向きに注意)のどれか1つを作成します。この時、端末から最初の結索までは、クレーン設定時の明らかに足りる長さを取って作成してください。短い長さで結索してしまうと、再設定となり時間をロスしてしまいます。
梯子横さんの幅1.5倍に長さをとり、先ほどと同じ結索をし、作成した梯子先端の支点へ取り付けます。次に再度ロープを引き出しながらもう一方の後方支点まで行き、3ランドプルージックを作成及び支点の取り付けをします。この時もクレーン設定時に明らかに足りる長さを取っておいてください。さらにその支点からバックまでの間に3ランドプルージックを二つ作成し、バック側にあるプルージックを端末側の後方支点へ取り付けます。これで梯子確保ロープは大まかに三角形となり、後方支点の間に3ランドプルージックが1つある状態になります。この3ランドプルージックはビレイの支点として使うために作成します。
救出用のメインロープは、スイベル付ツインプーリー2個と100mロープを、予め1/4システムで組んであるセットを使用します。先端1段目の支点に固定のツインプーリーを取り付け、基底部付近にメインロープを設定したMPDを結着します。次に梯子を起梯し、目標の位置へ移動し梯子確保ロープを調整して起立角度70°に設定します。
ビレイロープは、二つの後方支点の間に作成しておいた、3ランドプルージックを梯子の後方になるよう調整し、タンデムプルージックで確保します。中央にビレイの支点を作成する理由ですが、ビレイは普段無荷重であり、メインに何らかのアクシデントが発生し荷重が切り替わった瞬間、仮に片側の後方支点でビレイを行っている場合、その支点の直近までビレイロープがエッジを横滑りする事になり、切断してしまいます。最後の砦のビレイですので、効くか分からないのでは意味がないからです。ビレイの場合高取りは必要無いので、梯子の下を通して使用します。エッジのガードも忘れずに設定してください。
5 伸梯しての梯子クレーン
通常梯子クレーンは全縮した状態で行いますが、どうしても伸ばして使用したい現場もありますので、伸梯しての梯子クレーンを検討してみます。3つの梯子を重ねて使っていた物を伸ばして使用すると、折り曲げる力に弱くなる様にも思えますが、梯子クレーンはそもそも梯子を折り曲げるような力は加わりませんので、その点は問題無いと思います。基本的に伸梯して使用するとスケールが大きくなるだけで、荷重が増える訳ではありません。ただ、全縮の場合、少しの横ぶれや基底部のズレは、力で押さえつけて何とかなりますが、8.7mで行った場合、倒れ始まると確保することが出来ませんので、より確実な設定を求められます。ですから、基底部のズレ防止としての前側の地物に固定するか、後側につっかえ棒の様な物を入れるなど対策が必要です。大きく変わるのは、掛け金に荷重が掛かる事です。図8をご覧ください。梯子起立角度70°、重さ100kgを吊っている状態の場合、縮める力94kgと倒す力35kgに分解でき、さらに倒す力を後方支点で支える力55kgと縮める力43kgに分解できます。つまり、梯子を縮める力は、94+43=137kgです。三連梯子の強度は180kgであるので、問題ありません。ただ、梯子起立角度60°になると189kgとなり、変動まで考えるとオーバーも考えられます。ですから、一人荷重で梯子起立角度70°を下回らない、さらに基底部のズレ防止も含めて、上からと横からのしっかりとした三角形を作れる条件が揃えば、使用可能だと思います。実際に設定してみたところ、全伸梯で吊り上げ可能でしたが、安定感を考慮すると梯子の長さ6m程度までが安全に活動出来るのではないかと感じました。
6 鍵付梯子を用いたクレーン
鍵付梯子でのクレーンは軽量で搬送もしやすいため、当本部では選択する度合いは多いです。設定方法は、三連梯子とほぼ同じですのでここでは省略します。
7 2つの後方支点の距離が異なる場合
今まで2つの後方支点で左右に30°開いた、開き角度60°程度が理想と伝えてきました。しかし、実際の現場では「2つの強固な支点」、「引き揚げが容易なスペース」、「ピンポイントで揚げ降ろししたい場所に設定出来る」すべての条件が揃う場所を見つけることは難しいのではないでしょうか。これらの条件は、後方支点までの距離を左右で変えることによりある程度調整することが出来ますが、図10のように後方支点の開き角度が異なる場合、梯子は点線の向きになりたがる性質があります。吊り荷重が増えれば増えるほど、図10では梯子先端が上側へ振られる可能性がありますので、注意が必要です。
(図10)後方支点の開き角度が異なる場合、梯子予想と違った方向を向く
後方支点の開き角度が違ってしまうのを対処する場合、図11のように合力支点として支点を作成し、同じ開き角度にすれば、横に振られる事が回避できます。ただ、この場合、支点や合力支点を作成しているロープには、通常よりも多くの荷重が加わる事を考慮しなければなりません。
(図11)合力支点として支点を作成し同じ開き角度にすれば横に振られる事が回避できる
8 後方支点1つ鍵付梯子を用いたクレーン
後方支点を2支点とり梯子確保ロープを後方左右に開く理由は、前段に述べた通りですが、図12のように3支点とり、吊り上げた物が横ぶれをしていない状況では、青矢印の向きにのみ力が掛かり、梯子確保ロープAのみで支える事が出来ます。その梯子確保ロープAに掛かる力の大きさは、一定条件で梯子起立角度70°では表1の通り、約55kgであり、梯子確保ロープB及びCに力は掛かりません。つまり、梯子クレーンでの吊り上げ時、力の向きは大半が梯子確保ロープAにかかり、梯子確保ロープB、Cには吊っている物が左右に振れた時に掛かります。梯子クレーン設定位置に都合の良い後方2支点が見つからない場合、設定位置の移動が可能な状況であるなら、真後ろの後方支点一つを見つけて確保ロープを固定し、後方左右は人力確保で行う方がより現実的ではないでしょうか。
(図12)3支点とし吊り上げた物が横ぶれをしていない状況では、青矢印の向きにのみ力が掛かり、梯子確保ロープAのみで支える事ができる
9 後方支点なしL型梯子クレーン
では、前段に挙げた後方支点なしの場合の設定方法をご紹介します。まず「L型」と言う聴きなれない言葉についてですが、三連梯子と鍵付梯子をL型に組み合わせた梯子クレーンと言う事です。三連梯子は土台として使用します。図13はL型梯子クレーンの鍵付梯子起立角度70°に設定し、鍵付梯子先端に100Kgの重りを吊った時の図です。このL型梯子クレーンの最大の特徴は、通常の梯子クレーンのように基底部を後方へずらそうとする力ではなく、鍵付梯子基底部を支点としてシーソーの様に三連梯子先端を浮かす力が働く点です。図8で説明した梯子起立角度70°、重さ100kgを吊っている状態の場合、梯子を縮める力94kgと梯子を倒す力35kgに分解できます。この場合、三連梯子の方が長いため、基底部から後方に鍵付梯子の長さの部分で上向きに35kg掛かる事になります。つまり、この状態では、黄色矢印の位置に35kg以上のウエイトがあれば安定します。さらにウエイトの位置を三連梯子の先端にすれば、てこの原理からもっと少ないウエイトでも安定させることが出来ます。さらに、三連梯子の重さも加わっていますので、実際にはもっと少ないウエイトで可能です。実際に吊り荷重をデジタルの張力計で100kgにし、35kgのウエイトを乗せた画像です(A~C)。35kgのウエイトでも後方は浮かず、安定している事がわかります。実際のウエイトは人が担います。このL型梯子クレーンは単純に考えて一人吊るのであれば、吊る人以上のウエイト要員さえいれば安全に安定します。では、実際の設定方法を写真と共に説明していきます。
(図13)L型梯子クレーンでは鍵付梯子基底部を支点としてシーソーの様に三連梯子先端を浮かす力が働く
使用資機材
写真1のとおりです。搬送方法は梯子2本を二人で搬送します。(写真2)そしてL型梯子クレーンの作成位置は、救出する際に設定する位置ではなく、その付近の安全な位置で作成し、安定確認後、救出位置へ移動しますので、その位置まで搬送し資機材展開を行います。
001
使用資機材
002
梯子2本を二人で搬送
鍵付梯子側
1 梯子確保ロープ用支点及びメインシステム用支点の作成(オープンスリング等)(写真3)
2 梯子確保用ロープの作成(先端フィッシャーマンズノット、そこから約5mほどとった位置に8ノット、約60cmほどとった位置に8ノット、その二つの8ノットを1で作成した支点にカラビナで結着(写真4)
3 梯子確保ロープを微調整し固定可能にするため、3ランドプルージックを作成(写真5)
4 1で設定したメインシステム用支点に1/4システムを設定(写真6)
5 鍵付梯子最下段から二つ目に支点作成
6 MPDにメインロープを設定し5の支点に結着(写真7)
7 梯子同士を結着するため、ウェビングテープで鍵付梯子基底部に巻き結びを作成(写真8)
三連梯子側
8 写真の位置3箇所に支点作成(写真9)
9 ビレイロープの設定(写真10)
組み合わせ
10 7で結着したウェビングテープで三連梯子と結着(写真11)
11 梯子確保ロープのプルージックを8で設定した支点にカラビナで結着(写真10)
12 梯子確保ロープの長さを調整し、梯子起立角度を決定
13 梯子確保ロープの余ったロープバックを三連梯子先端に乗せ、ウエイト要員が三連梯子に座り、メインロープに荷重をかけて安定確認の実施(写真12)
救出位置へ移動
14 救出位置へ各部を持ち移動(写真13)
設定方法は以上です。
引き下げ、引き上げ時の各番員の役割
1番員、2番員
二人の役割は、前段にも述べたように横ぶれに弱いため、足を開き、片手はなるべく鍵付梯子の上部を持ち、イメージとしては斜めの筋交い棒を左右に設置した感じで、横ぶれに対応します。そして、片手が空きますので、二人の片手でメインロープを引いたり、MPDを操作したりします
3番員
まず重要なのは、ウエイトの役目です。次にビレイロープの操作を行います。
4番員
片足を三連梯子の先端に足をかけ、メインロープの保持を行います。
014
各番員の配置と役割
以上が、L型梯子クレーンの設定と操作になります。100mロープバックであれば、梯子確保ロープはロープバックの底から使用して、ビレイロープを兼用する事も可能です。また、作成時の写真は分かりやすくするため、それぞれの梯子をずらして作成している画像ですが、三連梯子の上に半分鍵付梯子を載せて作成した方がロープの流れも分かりやすく作成し易いです。そして、現場で設定する際は支点状況が不明ですので、L型梯子クレーンを設定する考えで隊員に資機材を準備させ、現場の状況を見て、条件が良い後方支点があるのであれば切り替えるのが良いのではないかと思います(015)。
015
はしごクレーンの実際
10 まとめ
何十年と受け継がれているこの梯子クレーンは、今後の消防救助においても、途絶える事なく受け継がれていく事と思います。後輩の救助隊、そして、この先助けを求める要救助者のため、どんな現場でも安全に救出活動が行えるように進化を遂げて行く事が必要だと私は考えます。全国各本部のそれぞれの素晴らしい取り組みを、この「救助の基本+α」へ掲載いただき、日本の救助の前進に繋がればと思います。そして、全国の救助隊員皆様が事故なく任務遂行されます事を心より祈っております。
【プロフィール】
著者: 高木 源史(たかぎ もとふみ)
所属: 鹿島地方事務組合消防本部
現職: 神栖消防署警防グループ 消防司令補 高度救助隊副隊長
出身: 茨城県鹿嶋市
消防士拝命: 平成11年4月
特別救助隊任命: 平成16年4月
高度救助隊任命: 平成30年9月
趣味: DIY・自動車整備
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