200202今さら聞けない資機材の使い方(80)12誘導心電図 (豊後高田市消防本部 松成恭兵)

 
  • 6505読まれた回数:
基本手技

雑誌「近代消防」2020年1月号

今さら聞けない資機材の使い方

12誘導心電図

目次

【はじめに】

今回の「今さら聞けない資器材の使い方」を担当させていただきます、大分県豊後高田市消防本部の松成恭兵と申します。
今回のテーマは12誘導心電図についてです。急性冠症候群の疑いがある傷病者には有用であり、ガイドラインでも12誘導心電図の伝送や通知が推奨されています。
当本部では12誘導心電図伝送(大分県遠隔画像伝送システム)を導入していることもあり、現場での12誘導心電図の測定は、病院選定の武器にもなりますし、医療機関の事前準備が早くなることで、Door-to-balloon time(傷病者が病院に到着してから再灌流療法が開始されるまでの時間)を短縮することが期待できます。
では、電極を貼る位置など基本的な事についてお話していきたいと思います。

【心電図とは】

心電図は、心臓の電気的な活動の様子を図に表したものです。
安価であり、傷病者の身体に負担がかからないのがメリットとも言えます。
心電図には、標準12誘導心電図と標準肢誘導(3点誘導)があります。
標準12誘導心電図とは、四肢にひとつずつ装着した4個の電極(四肢誘導)と、胸部に装着した6個の電極(胸部誘導)、計10個の電極で、12の方向に電気の流れを測定するものです。心臓を立体的に捉える(001,002)ため、障害部位などの判定に役立ちます。電極数が多く、標準肢誘導より装着に時間がかかります。
標準肢誘導は、3つの方向で心臓の動きを見ています(003)。基本的に救急隊は、この誘導(特にⅡ誘導)で心電図をとることが多いと思います。連続したモニタリングが可能で不整脈などの異常を早期に発見することができることが利点です。
001
12誘導。前額面を知る誘導には6種類あります
002
12誘導。水平面(CT面)を知る誘導も6種類あります。
003
標準肢誘導。前額面3方向のみを診ています。

【準備・諸注意】

12誘導心電図を測定するにあたり、以下のような準備や設定の変更をしていきます。
準備物として、ベッドサイドモニタ(004)、リード線、電極が必要になります。
また、記録用紙の残量も確認(005)しておきましょう。残量が少ないと、記録途中に用紙切れが発生する恐れがあり、記録用紙の補充に時間を要してしまいます。
通常、リード線は3リードタイプが付いています。12誘導心電図を測定するには、リード線の付け替えが必要になります(006, 007)。リード線が断線していないか(008)、血液や汚れが付着(009)して不潔になっていないか、普段から確認しておくことも必要です。
ベッドサイドモニタの機種によっては、設定の変更が必要になる場合があります。
当救急隊に積載しているベッドサイドモニタ(日本光電、BSM-3562-Q91)は、以下のように変更します。
ECG詳細設定から入り、心電図の電極数を標準からディスポ10電極に変更(010)し、アクセサリーの12誘導を押し(011)、電極を装着することで設定が完了、波形が表示されます(012)。
004
筆者の救急車に搭載しているベッドサイドモニタ。日本光電、BSM-3562-Q91
005
記録用紙の残量も確認しておきましょう
006
左:標準肢誘導用リード線
右:12誘導用リード線
007
本体のコネクタを取り外してリード線を刺し替えます
008
リード線の確認。断線の確認
009
リード線の確認。付着物の確認
                         雑
010
標準肢誘導から12誘導への設定変更。(1) 心電図の電極数を標準からディスポ10電極に変更
011
標準肢誘導から12誘導への設定変更(2) アクセサリーの12誘導を押します
012
標準肢誘導から12誘導への設定変更(3) 電極を装着すれば波形が表示されます

【電極を貼る前に気をつけること】


電極を装着前に貼る部分の汚れや角質をアルコール綿(かぶれ等に注意が必要です)などで落とし(013)、電極が剥がれにくいようにします。汗をかいている場合(014)は、タオル等で水分をふき取った(015)後に貼りましょう。また、電極は平坦で動きが少なく(016)、剥がれにくい場所(017)に貼ります。例えば、側胸部の電極を貼る場合、
腹部に電極を貼ってしまうと、心電図の基線が揺れてしまいます。
013
電極を装着前に貼る部分の汚れや角質をアルコール綿で落とします
014
汗をかいている場合は
015
タオル等で水分をふき取った後に電極を貼ります
016(写真にX バツをつけてください)
動きのある部分には電極を貼ってはいけません。腹部に電極を貼ってしまうと、心電図の基線が揺れてしまいます
017(写真に○ マルをつけてください)
電極は平坦で動きが少なく剥がれにくい場所に貼ります

【電極を貼る位置について】

電極を貼る位置について説明します。
まずは、四肢(胸部)に4個の電極をつけます。
赤(右手or右鎖骨下)黄(左手or左鎖骨下)緑(左足or左側胸部)黒(右足or右側胸部)に電極をつけます(018)。
続いて胸部に6個の電極をつけます。v1~v6に対応します。
胸部誘導の電極を貼るには、肋間を探さなければいけません。
肋間の探し方についてついては、以下のようにしていきます。
胸骨を上から下に触っていく(019)と、ぽっこと出ている部分(胸骨角(020))があります。
そのすぐ横が第2肋骨です。第2肋骨と第3肋骨の間が第2肋間になります(021)。
肋間を順番に数えていき、第4肋間を探していきます(022)。
第4肋間が見つかったら、胸骨の右に赤(v1)左に黄(v2)を貼ります。ひとつ下がって第5肋間を探し(023)、左鎖骨中線と交わる部分(024)に茶(v4)を貼り、黄(v2)と茶(v4)の中間(025)に緑(v3)を貼ります。茶(v4)と同じ高さで前腋窩線と交わる部分(026)に黒(v5)、中腋窩線と交わる部分(027)に紫(v6)を貼ります。文書で書くと難しく感じますので写真を参考にしてください。全てを装着し終えるとこのような感じになります(028)。
018
まず四肢(胸部)に4個の電極をつけます
019
胸骨を上から下に触っていきます
020
ぽっこと出ている部分(胸骨角)があります
021
そのすぐ横が第2肋骨です。第2肋骨と第3肋骨の間が第2肋間になります
022
肋間を順番に数えていき、第4肋間を探していきます。第4肋間が見つかったら、胸骨の右に赤(v1)左に黄(v2)を貼ります
023
ひとつ下がって第5肋間を探します
024
左鎖骨中線と交わる部分に茶(v4)を貼ります
025
黄(v2)と茶(v4)の中間に緑(v3)を貼ります
026
前腋窩線と交わる部分(026)に黒(v5)を貼ります
027
中腋窩線と交わる部分(027)に紫(v6)を貼ります
028
全てを装着し終えるとこのような感じになります

【アーチファクトについて】

アーチファクトとは、人工産物という意味で、ノイズとも言い、心電図に混入する心電図以外の現象を総称したものです。
アーチファクトが混入すると、心電図波形が見難しくなるだけでなく、誤った判断をすることもありますので、できる限り除去します。
アーチファクトにはいくつか種類があり、
•電極の外れ、接触不良(029)
•筋電図の混入(030)
•体動や呼吸に伴う基線の揺れ(031)
などがあります。アーチファクトが混入しないよう、部屋若しくは救急車内を暖かく(032)することや、電極に衣服がかからないよう(図30)にしましょう。
以上のような点に気をつけながら、きれいな心電図がとれるようにしていきましょう。また、12誘導心電図の測定が終了後、設定やリード線を元に戻すことを忘れないようにしましょう。
 
029
アーチファクト。電極の外れ、接触不良
030
アーチファクト。筋電図の混入
031
アーチファクト。体動や呼吸に伴う基線の揺れ
032
アーチファクトが混入しないよう、部屋若しくは救急車内を暖かくします
033(写真にX バツをつけてください)
電極に衣服がかからないようにしましょう

【大分県での取り組み】

大分県では、平成29年7月1日より、12誘導心電図伝送を運用開始しています。救急車にタブレット端末を積載しており、心電計とBluetoothでつなぐことができます(034)。タブレット端末から伝送した12誘導心電図(035)は、クラウドを通して、救命救急センターや地域中核病院、PCI実施可能施設に置いてあるPCで6桁のアクセスキーを入力すると、閲覧することができます(036)。また、消防署のPCからもアクセスできるため、症例の振り返りや心電図の勉強をすることが可能です。実際に奏功事例もあり、Door-to-balloon timeの短縮につながっています。
034
心電計とBluetoothでつなぐことができる救急車載タブレット端末
035
タブレット端末から伝送した12誘導心電図
036
病院で出力が可能

【おわりに】

今回は、12誘導心電図の準備や装着を主に説明していきました。昨今、救急隊が12誘導心電図測定を実施する頻度が増えてきています。傷病者の体格(痩せ型、肥満、筋骨隆々など)によっては、肋間が探しにくい場合もあります。また、電極・リード線を装着するスピードは実際に訓練していかなければ、もたついていまい現場滞在の延長にもつながりかねません。Door-to-balloon timeの短縮に向け、よりよい現場活動を行い、少しでも傷病者の予後改善に寄与していける一助になればと思います。

著者

プロフィール
名前:松成恭兵
読 み  仮 名:まつなりきょうへい
所属:豊後高田市消防本部
豊後高田市消防署
出身:大分県豊後高田市
消防士拝命年:平成21年
救命士合格年:平成21年
趣味:野球、カヌー

コメント

タイトルとURLをコピーしました