190903月刊消防「救助の基本+α」(37)  「チェンソー」

 
  • 2649読まれた回数:
基本手技

月刊消防 2019年8月1日号

p24-29

月刊消防「救助の基本+α」

チェンソー

 

目次

1 はじめに

今回,『月刊消防』『救助の基本+α』シリーズの「チェンソー」を担当させていただきます備北地区消防組合消防本部の宮野泰志と申します。当本部が管轄する広島県の三次市,庄原市について紹介いたします。

三次市,庄原市は中国地方を縦断する中国山地の山陽側に位置し,地勢は北部において道後山,比婆山等の1,000m級の高峰が連なり,変化に富んだ自然環境を形成し,急峻な渓谷や棚田の広がる美しい里山の景観を作り出しています。庄原市には冬になると積雪が1mを超える豪雪地帯もあり,三次市では夏に行われる鵜飼や,晩秋の霧の海など四季折々に変化するその姿は私たちの目を楽しませてくれます。

三次地方は古くから山陽と山陰を結ぶ交通の要衝として栄え,また,中国縦貫自動車道,県を横断する中国横断自動車道尾道松江線の全線開通により,「人・物・文化」の交流がますます活発になっています。

備北地区消防組合は,1本部3署7出張所に職員211名(平成31年1月現在)で,広島県の北東に位置し,東は岡山県,北は島根県,鳥取県に接しており,管内人口は約88,000人,管内面積は広島県の約24%にあたる2,024.63㎢と広大な面積を管轄しております。

 近年,日本各地において地震,台風,集中豪雨など大規模な自然災害が多発しています。昨年も西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水,土砂災害が発生し甚大な被害を受けました。災害時,倒壊した家屋から要救助者を救出するため,部材などを切断したり,土砂災害による倒木等の除去。また,山岳救助においてヘリコプターのピックアップポイント作成や,林野火災等において防火帯作成のために伐倒を行います。そんな時,なくてはならない資機材が「チェンソー」です。そこで今回はチェンソーの基本についてみなさんに紹介したいと思います。

2 チェンソーについて(ハスクバーナ440e)

 

 

①チェンオイルタンク ②フロントハンドガード(チェンブレーキ) ③フロントハンドル  ④スターターハンドル ⑤エアパージ ⑥スタート・ストップコンビスイッチ  ⑦スロットルコントロール ⑧スロットルロック ⑨リヤハンドル ⑩燃料タンク ⑪バーガード ⑫マフラー ⑬ソーチェン ⑭ガイドバー ⑮バー先端スプロケット ⑯チェンキャッチャー ⑰ノブ ⑱右手ガード ⑲上刃 ⑳横刃 ㉑デプスゲージ
(写真1,2,3)

 

3 取扱い上の注意事項

 

 

⑴ 装備服装

保安帽,活動服,ゴーグル,滑りにくく防振性のある手袋,耳栓,編み上げ安全靴

⑵ 運搬時

運搬時にはエンジンを切り,チェンブレーキを掛け,バーガードを取り付ける。使用後などはマフラーが熱くなっているため身体から離し,ガイドバーを後ろに向けて運ぶ。
(写真4)

(写真4) 運搬時にはエンジンを切り,チェンブレーキを掛け,バーガードを取り付ける

⑶ 始動時

ア チェンソー本体を確実に保持し,安定した足場で行う。
イ 始動前には必ずガイドバー,ソーチェンの取り付け状態を確認し,周囲の状況やソーチェンがどこにも接触していないことも確認する。
ウ 始動時には本体を地面に置き,チェンブレーキをかけ,右手ガードを足で踏み,チョークを閉め,スターターハンドルを抵抗があるまで引き,(スターター爪が噛み合うまで)さらに強く素早く引く。スターターロープを引いているとエンジン音が変わる。チョークを半チョークにし,エンジンがかかるまでスターターロープを引く。


(写真5)(写真5)チョークを半チョークにし,エンジンがかかるまでスターターロープを引く

エ 半チョークでエンジンをかけた場合,構造上エンジンの回転数が上がっており,チェンブレーキが効いた状態であるため,早期にアクセルを軽く吹かし,アイドリング状態に戻す。チェンブレーキが効いたまま高回転を維持するとクラッチシュー,クラッチドラム,ブレーキバンドに損傷を与える可能性がある。(写真6,7)

 

⑷ 切断時

ア 切断前にはチェンオイルの潤滑を確認する。(チェンオイルはソーチェンの回転により生じる摩擦抵抗を軽減し,チェンの摩耗や摩擦による発熱を防止する役割がある)
イ 足場の確保,身体の安定を十分に図り,チェンソーを確実に保持するとともに,有事の際の退路も確認しておく。
ウ 肩より高い位置での使用や,片手での切断は絶対にしない。
エ 切断片の飛散,落下に注意し,周囲に人を近づけないようにする。
オ ソーチェンは木材等に無理に押し付けたり,捻じるような力を加えず,できるだけチェンソーの自重を利用して真っすぐに切断する。なお,ソーチェンが木材等で締め付けられたときは,無理に回転させたり,引き抜いたりせず,クサビ等を利用し拡げて外すようにする。
カ 切断刃の後方直線上に足を置かないようにする。
キ 切断時は常にフルスロットルで高回転を保つようにする。
ク 燃料(混合油)を注油する際は,必ずチェンオイル量も確認する。(燃料タンクは安全設計で焼き付き防止のため,チェンオイルが消費される前に燃料が消費されるように設計されている)
ケ ※キックバックの発生に注意する。特にキックバックはガイドバーの先端上側部で発生しやすいので,ガイドバーの先端上側部のみで切断したり,先端部を障害物に当てないようにする。(写真8,9)

 

 

4 点検整備上の注意事項

 

⑴ チェン交換,取り外しの際は必ずチェンブレーキをかけてから外す。
⑵ ソーチェンは使用後,鋸屑や樹脂を取り除き,洗油等で洗浄し油を薄く塗布する。
⑶ ガイドバーのレール溝の中を清掃し,バー先端スプロケットへ注油及び作動確認を行う。(写真11)

⑷ ガイドバーのオイル孔が詰まっていないか確認し,詰まっていれば清掃する。
(写真12)

⑸ ソーチェンの点検時には,ガイドバーから取り外して行います。チェンの外観(ひび割れ,摩耗)及びチェンの動きを確認します。ソーチェンに異常な摩耗や損傷,動きに硬さを認めた時は交換する。
⑹ ソーチェンの装着は,ガイドバーの溝に確実にはめ込み,ソーチェンの向き,張る方向に注意し,軽く摺動するように調整する。(写真13)

⑺ ソーチェンの刃長が,指定の長さ以下(概ね4㎜以下)になったら交換する。ソーチェンの交換時に出来ればチェンドライブスプロケットもあわせて交換するとよい。
⑻ 変形,損傷したガイドバーは使用しないようにする。
⑼ ガイドバーを長持ちさせるにはバーの上下を入れ替えて使用する。
⑽ 適切な混合比の燃料を給油する。(図1)
⑾ エアフィルターは,詰まりのないように常に点検し,清掃する。

 

5 チェンの種類及び目立てとデプスゲージ設定

チェンソーを使用すると,刃の切れ味が悪くなります。原因としては使用することで刃が摩耗し丸くなったり,石や土,釘などの金属片等を切ることで切れが悪くなります。ソーチェンの刃先が丸くなったり,刃先がガタガタになると切れないのはもちろん,作業効率が悪くなり疲労にも繋がるため,切れなくなって目立てをするのではなく,切れているうちに目立てを行うようにしましょう。ソーチェンの刃が丸くなっているかどうかの判断は,ガイドバーを押し付けないと切れない,切り屑が非常に小さい(粉状)等で判断できます。(目立てのよい刃は抵抗なく切り込め,長く大きな切り屑がでます。)

⑴ ソーチェンの種類

ソーチェンには立木などを伐採する通常の物の他に,土砂が付着した倒木,釘など金属が打ち込まれた柱等を切断しても切れが悪くなりにくい特殊な使用のソーチェンがある。刃の表面をタングステンカーバイドで強化したものや,切断刃全面を超硬チップ加工したものがある。しかし,これらの特殊なソーチェンも目立てが不要なわけではなく,目立ての間隔が伸びるというメリットはあるが,必ず切れにくくなる。その時は普通の丸ヤスリでは研ぐことができないため,ダイヤモンドなどの特殊な砥石を使用し,専用の目立て機が必要になる。

⑵ チェンの正しい目立て

ア 刃の固定
よい目立てをするにはガイドバーを万力や,市販のクランプ,現場では切株などに刃を切り込むなどして固定し,チェンソー本体が動かないように固定する。
イ 丸ヤスリ
取扱説明書等を確認し,チェンに合った丸ヤスリを使用する。(一般的なチェンソーでは4㎜から4.8㎜)市販の角度を合わせるゲージを使うと規定の30°を合わせやすい。ソーチェンを張った状態にして,丸ヤスリは必ず内側から両手で押してかけ,引くときには刃に接しないようにする。全て同じ向きの刃を研いだ後に刃の向きを変え,反対側の刃を研ぐようにすると効率よく研ぐことができる。

 

⑶ 目立て角度

ア 上刃目立て角度と刃長
上刃の刃先は真っすぐに30°の角度で研ぎ,刃長をノギス等を使用して揃えるようにする。刃の長さに差があるときは短い刃に合わせるようにする。(写真17,18)

 

イ デプスゲージ

切断,目立てを繰り返していると刃が短く小さくなり,デプスゲージが高くなっていくため,専用ゲージを使い飛び出た部分を平ヤスリで削り規定の高さに揃える。目立てを3回に1回はデプスゲージも調整が必要となる。(赤丸の部分が見えなくなるように平ヤスリで削る)デプスゲージが高いと刃が当たる前にデプスゲージに当たり滑って切れず,低いと引っ掛かりも多く,振動が大きくなる。(写真19)

(写真19)調整ゲージを当て飛び出たデプスゲージを平ヤスリで削る

6 伐倒方法について

⑴ 立木を切り倒すときは,木に絡まる蔓や周囲の立木等,作業の支障となるものは事前に取り除き,地形や風速風向等を考慮して伐倒方向を選定する。
⑵ 伐倒方向を決め受け口を作る。
ア 水平に木の幹の1/3まで切断する。(水平で伐倒方向に直角でなければならない)
イ 上方から斜め45度の角度で,①の切り口まで切断する。
ウ 受け口の反対側(必ず受け口の下側の線から約3~5㎝上方)から追い口を水平に幹の直径の1/10まで切断し,切らない部分を作る(つるという)。
(写真20,21,図2)

 

 

エ つるを残し,伐倒方向に向けくさびを打ち込む。倒れるスピードをコントロールしながらくさびを徐々に打ち込み,倒れ始めると安全方向に退避する。
(写真22,23,図3)

 

 

7 終わりに
消防車両にはたくさんの資器材が積載されている中で取扱いを間違えると取り返しのつかない大きな事故につながる資器材がたくさんあります。その中でもチェンソーは大変危険な資器材の一つです。当組合では研修の一環として地元森林組合の指導のもと,チェンソーの取り扱い,伐倒作業の技術訓練を行っています。みなさんも住民を助けるための資器材であるチェンソーで活動時に怪我をしないよう,普段から訓練や日常点検時に各隊において研修や使用時の対策を十分に行うことが大切だと思います。近年多発している自然災害等で怪我無く,安全で迅速な活動ができますよう,この度の投稿が参考となれば幸いです。

参考文献
ハスクバーナ チェンソー取扱い説明書

 

著者 宮野泰志
所属 備北地区消防組合 三次消防署
拝命 平成11年4月
趣味 野球,バイク

コメント

タイトルとURLをコピーしました