251222救助の基本+α(104,105)プレトレーニングメソッド_川口市消防局_菊地優太・佐藤恭平

基本手技


月刊消防 2025/04/01 p43−7
月刊消防 2025/05/01 p32−8

題名

プレトレーニングメソッド

目次

1.はじめに

このたび、月刊消防「救助の基本+α」シリーズを担当させていただくことになりました、埼玉県川口市消防局特別高度救助隊の菊地と佐藤と申します。

今回は、多種多様化する災害へ備えるためのプレトレーニングメソッド(訓練前訓練手法)の取り組みについて紹介させていただきます。

2.川口市消防局の紹介

川口市は埼玉県の南端に位置する都市です(figure)。荒川を隔てて東京都に接し、江戸時代から鋳物や植木などの産業が発展し、その後、住宅都市化が進みました。平成23年に鳩ケ谷市と合併し、平成30年に中核市に移行して管轄面積61.95k㎡、人口60万人となりました。首都東京と隣接しているという利便性を活かしながら、固有の伝統ある“ものづくりのまち”として、活力あるまちづくり・人づくりを目指しています。

figure

川口市の位置

当消防局は1局5課、3署10分署、職員数606名で川口市の安心・安全を守っています。近年は、災害の多様化や都市構造の複雑化に対応するため、特別高度救助隊や特別消火隊の発足といった部隊運用の強化による消防力の充実に取り組んでいます。その中で救助隊は3署に6隊(特別高度救助隊1隊、高度救助隊1隊、特別救助隊1隊、救助隊3隊)配置されており計68名となります。また、国際消防救助隊にも6名が登録されています。“誰もが安全で快適に暮らせるまち”という当局重点目標を達成するために全職員一丸となり業務に励んでいます。

3.自作したコンクリートブロック板と梁を用いた都市型捜索救助技術訓練

(1)背景

今後30年以内に70%の確率で起こると言われている首都直下地震。この地震が起きると川口市内では震度5弱~6強の強い揺れになると想定されています。川口市は都心から近いこともあり、古くからベッドタウンとして栄え、現在も新旧多くの中層・高層建物が建ち並んでいます。地震発生時には、こういった古い建物の倒壊・座屈が発生し、多くの要救助者が建物内に取り残される可能性があります。また、国際消防救助隊登録隊員は、海外派遣に備え国際緊急援助隊統一技法を習得しなければなりません。そういった理由から、日頃から継続的に震災対応訓練を実施しなければなりませんが、実際の建物を使用しての訓練はなかなか難しく、数年に一度実施できるかどうかです。そのような中でも、部隊や隊員のレベルアップを図るため、耐火建物の壁や床、柱や梁に見立てた鉄筋コンクリートブロックを自作し、訓練を行い手技や手順等を確認することにより、知識・技術の向上に努めています。

(2)コンクリートブロック版の作成

用意するもの(001)

・型枠(コンパネと垂木にて作成)

・クランプ

・鉄筋

・針金

・スペーサー

・養生テープ

・コンパネ

・単管

・コテ

・生コン

001

用意するもの

型枠同士をクランプで固定し組み立てます。サイズはコンクリートブロック板が1.5m×1.5m×0.2m(002)、梁が0.45m×0.45m×2.4mとなります(003)。一つ作成するのに必要な生コンの量が約0.5㎥になる(004)ように、このサイズにしました。その中に針金等で組んだ鉄筋を置きます。その際、鉄筋の高さはスペーサーで調整します(005)。最後に生コンの側圧による崩壊を防ぐため単管で型枠を固定します(006)。

002

コンクリートブロック板。1.5m×1.5m×0.2m

003

梁。0.45m×0.45m×2.4m

DSC_0190

004

一つ作成するのに必要な生コンの量が約0.5㎥

DSC_0192

005

鉄筋を置く。鉄筋の高さはスペーサーで調整する

DSC_0193

006

単管で型枠を固定

生コンは自作も考えましたが、それに伴う時間と労力を考え、市内の生コン業者にお願いし流し込んでもらっています(007-009)。

DSC_0196

007

ミキサー車によるコンクリート注入

008

室内のコンクリート注入も業者に委託した

DSC_0202

009

仕上げ

おおむね一週間で型枠は外しますが、その後完全に硬化するまで約一か月間経ってから訓練で使用しています。

(010-013)

(3)訓練

実際の訓練風景を示します(014-021)。令和5年度埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練でも使用しました(022-026)。

010

完成。屋外のコンクリートブロック版

011

完成。屋内のコンクリートブロック版

012

完成。梁

013

梁。保管状況

DSC_0003

014

訓練風景。カッター

015

訓練風景。切断

016

訓練風景。剥離

017

訓練風景。掘削

018

訓練風景。掘削

019

訓練風景。梁切断

020

訓練風景。狭隘に見立ててコンクリート破壊

021

訓練風景。コンクリート板の移動

022

埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練。掘削

023

埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練。掘削

024

埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練。開口部作成

025

埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練。開口部作成のあと侵入

026

埼玉県下国際消防救助隊員合同訓練。梁切断

4.訓練キットを用いた土砂災害対応訓練

(1)背景

近年、世界的な気候変動により全国各地で毎年のように土砂災害が頻発しています。川口市は都市部の為、大規模な土砂災害を引き起こす山などはありませんが、急傾斜地のため、がけ崩れの発生危険のある土砂災害警戒区域が34箇所指定されています。また、広域応援や緊急消防援助隊で他市や他県で発生した土砂災害現場へ出場する可能性もあります。そのため、土砂埋没救助技術やトレンチ救助技術の習得は必須なのですが、市内には土砂災害対応施設や訓練場はなく、なかなか頻繁に訓練を実施できていないのが現状です。そんななかで、限られた訓練時間を有効に活用するために、訓練キットを用いて事前に手順等を確認しています。

(2)訓練キットの作成

材料はすべてホームセンターや100円ショップ等で揃えることができます(027)。大きさは約10分の1スケールで作成しています。

027

用意するもの

(3)訓練風景

訓練風景を示します(028-035)。土質を変えることにより安息角への理解が深まり、その状況に適した救出方法の選択を考えることができます(036–38)。

028

訓練風景。状況設定。壁を打ち込む

029

訓練風景。状況設定。個室の設定

030

訓練風景。状況設定。個室の設定

031

訓練風景。状況設定。すり鉢状現場

032

訓練風景。救助訓練

033

訓練風景。土留め板設置

034

訓練風景。土留め板設置

035

訓練風景。土留め板設置。上から

036

訓練風景。土質を湿った土とした

037

訓練風景。湿った土とした場合の救助

038

訓練風景。泥(湿地)とした場合の救助

5.煙換気実験BOX(ベンチレーションBOX)を用いた火災対応訓練

(1)背景

なぜ今回、ベンチレーションBOXを使用したプレトレーニングメソッドを行うのかについて少し説明をさせて頂きます。理由として3つ挙げられます。

まず1つ目として当消防局は、団塊の世代が退職を迎えており急速に世代交代が行われています。それに伴い平均年齢が引き下がり、さらに現場活動に活気と活力をもたらしています。その一方で経験不足から火災性状を知らない若年層が増加しています。住宅用火災警報器の普及や火災予防業務の強化もあり火災件数が減り消火をしたことがない、屋内進入をしたことがない隊員が増えてきているということです。

2つ目は近年、屋内進入した際に、フラッシュオーバーやバックドラフトと思われる爆燃現象や爆発現象による受傷事故や殉職という痛ましい事故が全国的に発生しているという事実です。

3つ目は、恐らくそれに起因している耐火建物と同様の高気密、高断熱の木造、準耐火構造と言われる建物が増加しており、火災性状、燃焼過程の急激な変化により活動判断が難しくなってきているということです。

火災現場活動をするにあたって火災性状を理解しているのと知らないのでは、活動が大きく変わってくると思います。遭遇する可能性のある危険や屋内進入時の退避判断、そういう目安、材料にもなりうると思います。

埼玉県消防学校では令和元年からコンテナを使用した実火災体験型訓練が始まり、また全国的にみても各消防本部でファイヤーコントロールボックスを使用した燃焼実験、火災性状の研究を積極的に行っているのが実状だと思います。

今回紹介するベンチレーションBOXは、火災性状の重要な要素の一つとなる煙に焦点をあて、煙の色、密度、量、速さ、流路を読み、コントロールし計画的に取り除く能力を視覚的に身に付け、安全に進入し救助及び消火活動を行うことを目的にしています。また1回の燃焼実験を終えたら燃え尽きてしまうファイヤーコントロールボックスと違い、何度でも繰り返し使用可能で訓練場所も屋内外を問いません。

ここでは3種類のファイヤーコントロールボックスを紹介します。平面6区画BOX(039)、中高層建物BOX(040)、一般住宅BOX(041)です。

039

平面6区画BOX

040

中高層建物BOX

041

一般住宅BOX

(2)ベンチレーションBOXの作成(042-045)

作成で用意する部材(平面6区画BOX、中高層建物BOX、一般住宅BOX)

・透明塩ビ板(2㎜厚)600×600㎜3枚600×450㎜3枚450×300㎜2枚

・コンパネ(9㎜厚)910×1820㎜3枚

・角材(200㎜×200㎜)必要長さ分

・ボンド(木工用)750g×1

・シリコンボンド1本

・カラー丁番(25㎜)扉必要数

・額金具扉必要数

・コーススレッド(3.0×20㎜)必要数

・黒ペンキ必要量

作成時のポイント

・図面はなく塩ビ板のサイズに出来る限り合わせ作成を行う。

・壁体の結合はボンドを使用し、強く圧着を行いたい場合はコーススレッドで打ち込む。

・壁体の隙間が空いてしまう場合はシリコンボンドで埋める。

・塩ビ板を切断する場合は専用のアクリルカッターを使用しても良いが、手間と労力がかかるため必要のないコンパネに塩ビ板を敷き丸鋸で切断すると効率がよい。

・コンパネは煙の流動を視認しやすくする為、黒色塗装するとよい。

042

壁体の結合はボンドを使用

043

中高層建物BOXの作成

044

コンパネは黒色塗装

045

一般住宅BOX。アクリル板を取り付ける前

(3)煙発生要領

1.缶ケースに蚊取り線香やお線香を割って入れる(046)。

2.バーナーで炙る(047)。

3.火が消え煙の発生を確認した後、ベンチレーションBOXに入れる(048)。

※木くずで行うと煙の量調整や継続燃焼が難しく、また煤が塩ビ板に付着しやすい。

046

缶ケースに蚊取り線香やお線香を割って入れる

047

バーナーで炙る

048

ベンチレーションBOXに入れる

049

煙が充満した状態

(4)訓練風景

平面6区画BOX(050-056)、中高層建物BOX(057-64)、一般住宅BOX(065-74)を用いた訓練風景を示します。

写真50、51、52

訓練風景

例:ハンディーブロアで風を送り強制加圧排煙の確認

写真53、54、55、56

中高層建物BOX

写真57、58、59、60

訓練風景

例:クリアゾーンの設定要領を確認

写真61、62、63、64

一般住宅BOX

写真65、66、67、68

訓練風景

例:バーティカルベンチレーションの確認

写真69、70、71、72、73、74

050

平面6区画BOX。上から

051

平面6区画BOX。縦側面

052

平面6区画BOX。横側面

053

平面6区画BOX。煙発生

054

平面6区画BOX。ハンディーブロアで風を送り強制加圧排煙

055

平面6区画BOX。隣接区画にも煙が移る

056

平面6区画BOX。強制加圧排煙

057

中高層建物BOX。正面

058

中高層建物BOX。側面

059

中高層建物BOX。背面

060

中高層建物BOX。側面

061

中高層建物BOX。クリアゾーンの設定要領を確認。煙発生

062

中高層建物BOX。煙充満

063

中高層建物BOX。ハンディーブロアで風を送り強制加圧排煙

064

中高層建物BOX。ハンディーブロアで風を送り強制加圧排煙

065

一般住宅BOX。正面

066

一般住宅BOX。背面

067

一般住宅BOX。側面

068

一般住宅BOX。側面

069

一般住宅BOX。バーティカルベンチレーションの確認。煙発生

070

一般住宅BOX。ドアから煙が漏れてくる

071

一般住宅BOX。煙充満

072

一般住宅BOX。内部の様子

073

一般住宅BOX。外観

074

一般住宅BOX。ドアから煙が漏れてくる

6.その他

ファイヤーコントロールボックスを使用しての燃焼実験や、ショアリング・トレーニングキットを用いたショアリング手順の確認等も行っています(075-078)。

075

ファイヤーコントロールボックスを使用しての燃焼実験

076

ファイヤーコントロールボックスを使用しての燃焼実験

077

ショアリング・トレーニングキットを用いたショアリング手順の確認

078

ショアリング・トレーニングキットを用いたショアリング手順の確認

7.おわりに

いつ何時、如何なる災害が発生したとしても、しっかりと対応できるように日々訓練に励み災害に備えるという事が、我々消防にとって一番大切な事だと思います。もちろん実災害に近い環境での訓練が実施できるに越したことはありませんが、たとえそれが難しくとも諦めることなく様々な工夫を凝らし、これからも災害対応能力の向上に努めていきたいと思います。

 


著者
菊地優太(きくちゆうた)
所属
川口市消防局東消防署消防課消防第1係特別高度救助隊隊長
消防士拝命日
平成15年4月1日
出身地
埼玉県
派遣
消防大学校第81期救助科
埼玉県消防学校救助科助教官
趣味
ツーリングキャンプ、ワークアウト

著者
佐藤恭平(さとうきょうへい)
所属
川口市消防局東消防署消防課消防第2係特別高度救助隊隊長
消防士拝命日
平成15年4月1日
出身地
東京都
派遣
消防大学校第75期救助科
埼玉県消防学校救助科教官
趣味
映画鑑賞、キャンプ

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