近代消防 2022/1/11 (2023/2月号) p106-7
救急隊員シンポジウムシリーズ
いまさら聞けない資機材の使い方
全国救急隊員シンポジウムシリーズ
新型コロナ対応
人工鼻固定バンド
目次
はじめに
コロナ禍の院外心肺停止症例では、エアロゾル対策を念頭に置き活動する必要があります1)2)。そこで、自動式心マッサージ器を活用した場合における救急活動の特性を踏まえ、マスクに人工鼻を固定してしまうことで、気道確保デバイスを使用せずとも「エアロゾル対策」と「絶え間ない胸骨圧迫」を両立できるのではないかと考えました。
作成方法
材料には、使用済み樹脂製ファイルと、訓練用のトーマスチューブホルダーのベルト部分を用いました。
切り抜いた樹脂製ファイルにベルトを繋ぎます(001)。樹脂製ファイルの丸い部分に人工鼻を通してマスクに固定すれば完成です(002)。人形に装着したところを003に示します。
特徴としては、
・装着が容易かつ短時間で済むため、現場活動の負担になりにくいこと、
・製作コストが低いため量産が可能で、汚損時は洗浄・再利用もできること、
などが挙げられます。
001
人口鼻固定バンド
002
樹脂製ファイルの丸い部分に人工鼻を通してマスクに固定すれば完成
003
人形に装着したところ
胸骨圧迫比率(CCF)の検討
想定訓練にて、この人工鼻固定バンドの有無によりCCFがどれだけ改善するかを検討しました。管内の兼任救急隊6隊に対し、接触時心肺停止状態である3想定を実施し(表1)、人工鼻固定バンドを使用しなかった場合のCCF値を算出しました。これを基に、使用したと仮定し、移動中に胸骨圧迫を中断しなかった場合のCCF予測値を算出しました。結果を(004)に示します。現場活動の時間に占める移動時間の割合の大きい、2階からの搬出となった想定で改善が顕著でした。
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表1
CCF算出の条件
・兼任救急隊6隊(救命士2名・隊員1名)
・接触時心肺停止:各3想定
・LUCAS2を使用
・玄関から救急車まで15m
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004
胸骨圧迫比率の比較。人口鼻固定バンドを使わなかった場合の実測値と、使った場合の計算値。
臨床での検討
令和2年11月より全救急隊に導入し、検証を兼ねた運用を開始しております。過去に大柄な男性でベルトの余裕がないとの報告がありましたが、これに関しましては、予め全長を長く作成しておくことで容易に解決できます。
付記
本稿は過去に発表した論文3)に内容を追加して報告しました。
文献
1)消防庁救急企画室長:心肺停止の新型コロナウイルス感染症患者及び新型コロナウイルス感染症が疑われる傷病者に係る消防機関における対応について(令和2年4月27日,消防救第109号).
2)一般社団法人 日本臨床救急医学会:「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う心肺停止傷病者への対応について(消防機関による対応ガイドライン)」令和2年4月27日.
3)濱田拓也:私たちの工夫。創造で回す両輪~エアロゾル対策品の開発~。プレホスピタル・ケア 2021; 34(1):9-11
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