近代消防 2022/1/11 (2023/2月号) p108-9
全国救急隊員シンポジウムシリーズ
新型コロナ対応
C
衣服からのウイルス発散を雨覆いで防ぐ
左近上 卓、岩田 悠平、馬渕 仁寿、吉田 誠、北村 智弥、中谷 公平、村木 邦政、土田 太
彦根市消防本部
目次
はじめに
新型コロナの対応をしなければいけない傷病者には、車内養生することが多く用いられています(001)。私たちは衣類についたウイルスが再度浮遊して感染する可能性を防ぐことを目的に、雨覆いで傷病者を覆う感染防止措置を考えました。
001
救急車に備え付けの養生シート
方法
ストレッチャー全てを覆うタイプの雨覆いを用います(002)
(1)ストレッチャー備え付けの雨覆いを取り出します(003)
(2)ストレッチャーにいつも付けてある雨覆いをストレッチャー上に広げます(004)
(3)必要に応じて中に枕やマットを敷きます(005)
(4)傷病者を入れます(006)。呼気からのウイルス拡散をなるべく防ぐために傷病者にはマスクとフェイスシールドを装着させます。
002
雨覆いはここにある
003
雨覆いを取り出す
004
ストレッチャー上に広げる
005
枕やマットを敷く
006
傷病者を入れる
検証
従来の養生シートとこの雨覆いを用いた感染防止措置の設定完了までの所要時間を計測しました。対象は救急業務に従事する20代~40代の消防吏員8名。車内養生は出場途上に隊員1名で設定することとした場合、雨覆いは取り出しから全身を覆うまでです。
その結果、養生シートでは設定開始から終了まで平均64.1秒かかるのに対し、雨覆いでは平均10.5秒で完了しました(007)。
007
養生シートと雨覆いにおける所要時間の比較
考察
現在、新型コロナ感染が疑われる傷病者に対し、多くの救急車で養生シートが利用されています。養生シートは傷病者の全身を囲うことができますが、早く設定できるように巻き上げて準備しておくと虫の死骸やホコリが溜まり清潔性に欠けるほか、車内活動の邪魔になることがありました。今回は早く作業を完了する観点から雨覆いで傷病者を覆っています。この雨覆いを利用する利点と欠点を表1にまとめました。
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表1
雨覆いを利用する利点と欠点
利点
・迅速
・ウイルスの浮遊防止
・消毒することで繰り返し使用可能
欠点
・全身を覆う必要があるため処置をともなう重症事案には不向き
・呼気からのウイルス排出には効果が少ない
・季節よっては熱中症への考慮が必要
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今回の新型コロナ流行においては、救急救命士が苦手としている感染防止について柔軟に考え試行錯誤することが必要となりました。まさに私の座右の銘のとおり「ピンチはチャンス」だと感じています。今後も助けを求める方のために救急救命士として志を高く持ち、邁進していきたいと思います。
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