210925救急事例報告 15 収縮期血圧 280mm Hg を示した救急搬送:症例から見る隊員間の共通認識(彦根市消防本部 左近上 卓)

 
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症例

近代消防 2021/05/1 (2021/4月号)

救急事例報告15

目次

著者

名前:左近上卓(さこんじょう すぐる)

sakonjou.JPG

所属:彦根市消防本部

出身:滋賀県彦根市(ひこにゃんの町)

消防士拝命:平成22年

救命士合格:平成30年

趣味:サッカー、コーヒー

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はじめに

救急活動では、傷病者の訴えや受傷機転およびバイタル測定を実施して、緊急度、重症度を判断し病院選定している。今回、第一印象では重症感がないと判断したものの、異常高血圧を観察した症例に遭遇したことから、今後起こりうるワーストシナリオにおいて様々な容体変化に対応するため、違和感を軽視しないこと、また、それを共有し同じ活動イメージを描くことの重要性について報告する。なお、写真は全て再現である。

症例

3月某日、「53歳女性、自宅内で転倒して頭部出血(001)しているが意識はある」との通報内容で出場した。現場到着時、傷者は路上に立っており、会話可能であった(002)ことから独歩で車内収容した。第一印象は軽症であり、初期評価は、呼吸正常、脈拍強く速く橈骨動脈で触知可能、意識清明で、ショックは否定的であった。左側頭部に挫創が観られ出血が持続していたが、止血処置でコントロールは可能であった(003)。主訴は、負傷部位の痛みのみで、他に外傷はなかったが、バイタル測定の結果、収縮期血圧で280mmHgという異常高血圧と頻脈が認められた(表1)。これらのバイタルサインを呈するような既往症はなかった。頭部外傷だけでなく、異常高血圧と頻脈があったため、外傷、循環器疾患、脳疾患のいずれにも対応可能な医療機関に収容することとした。搬送途上も血圧が281/176mmHg と異常高血圧が持続していた。

病院収容後の診断結果は「左側頭部打撲挫創」で、軽症であった。

001

自宅内で転倒して頭部出血との通報内容

002

現場到着時、傷者は路上に立っており、会話可能

003

左側頭部の出血はコントロール可能であった

004

外傷、循環器疾患、脳疾患のいずれにも対応可能な医療機関に収容することとした

表1

車内収容時のバイタルサイン

—————

意識レベル        JCS 0

呼吸          正常

脈拍          110回

血圧          282/155mmHg

SPO2         99%

体温          36.2℃

———–

考察

本症例で苦慮したのは病態把握である。意識清明で歩いていることから、専任救急隊ではない若手隊員(機関員)は軽症に違いないと主張し、救急救命士有資格者の隊員は異常高血圧から何か別に疾患が隠れているのではないかと主張した。それに対し隊長は異常高血圧であることから、急変が起こりうる可能性を隊員らに説明し、専任救急隊ではない若手隊員(機関員)に対して、搬送経路は安定した道路を選定し、愛護的搬送を心掛けるように指示した。救急救命士有資格者の隊員には継続してバイタル測定を実施して、急変に備えるように命じた。

病院収容後の診断結果は、救急隊の第一印象と相違はなかったが、収縮期血圧で280mmHgという異常高血圧を観察しており、外傷性脳出血や内因性疾患が隠れているのではないかと考えさせられた。異常高血圧は普段からなのか、疼痛により上昇したのかは不明であるが、それに対する症状がなくても、脳卒中や心不全に進展することも考慮し、容態を悪化させることなく医師へ引継ぐ必要がある。

救急隊の活動にとって、隊員全員が共通認識をもつことの重要性は論を俟たない。今回の症例では共通認識を持つことにより病者の容体悪化を防ぎ、患者にとって適切な処置が可能な医療機関への搬送や、隠れた病変を予見することなどの有益な活動をもたらしたと考える。無論、急変に対して備えてさえいれば、それは急変ではない。だからこそ共通認識は大切である。

症例
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