251210_VOICE#110_消防人の性分

主張

月刊消防 2025/03/01, 47(04)通巻549、p78

月刊消防「VOICE」

 


身に付けた技能を、習性で発揮してしまうことがありますか?私は自身で3度、バイスタンダーとして心肺蘇生を行いました。その内容と、仕事に還元できた例をお話します。

其の1:平成14年11月、市内を自家用車で走行中に、運転席側がガードレールに衝突している交通事故現場に遭遇しました。車両からは白煙が上昇していて、運転手の男性は脱出できていない状況でした。助手席側ドアを開放したところ、男性の背中と座席の間に挟まれる形で女性が横たわっていて、心肺停止状態でした。通報電話はつながっていたので、「CPAと伝えて!」とお願いし、CPRを開始しました。出動した救急隊は現場到着直前で無線を傍受でき、速やかな救命活動が実施できましたが、転帰は死亡となりました。

其の2:平成17年6月、子供の柔道大会を翌日に控え、準備のため柔道場を訪れていました。準備前の稽古を見学中、小学生相手に大袈裟に受け身を取っている男性がおりましたが、何度目かの受け身の後に動かなくなりました。駆け寄って確認をすると意識がなかったため、救急車の要請とAEDの手配を他の保護者に依頼しました。その数分後にCPAとなり、CPRを開始しました。居合わせた看護師さん、消防団員さんの協力も得て、9分後に救急隊に引き継ぎました。初期波形はVfで、DC後に搬出されました。救急車内で2回目のDC後に心拍は再開しましたが、搬送中に再びCPAとなり、転帰は死亡となりました。柔道場のあった体育館には当時、AEDが置かれていなかったのが悔やまれます。

其の3:平成22年11月、秋祭りの首尾流し(慰労会)で日本酒を5合ほど飲んでいた男性が酔い潰れ、車で送って行く事になりました。車に乗り込む直前に後方へ転倒したため、社務所内にいた私が呼ばれました。確認をすると意識がないため、仲間に救急要請を依頼し、観察を実施しました。私も酔ってはいましたが、呼吸なし、総頸脈なしは確実に分かり、胸骨圧迫を開始しました(酒酔いの方に、酒酔いが工呼吸をするのは流石に躊躇い、胸骨圧迫のみにしました)。胸骨圧迫も50までは数えましたが、その後は数えられず(やはり酔っている?)、ひたすらに胸を押していたところ、深い呼吸の後に開眼と発語がありました。呼吸も脈も充実し、心拍・自発呼吸再開と判断できました。救急車が到着し、車内で「いい心持ちだよ~」と酔っ払いの発言が出たため、安堵をしました。あれから14年が経過して男性は82歳になりましたが、酒席では飲みすぎないよう、仲間で見張っています。

最後の男性の快諾を得て、実例として救命講習会で紹介したところ、従前の講話より傾聴していただけ、向後の語り種へとなりました。

30年を越えた消防生の中、何事に対しても咄嗟に動いてしまうのは消防業で培われたもので、これも消防の性分として、私はこれからも、身に付けた技能を発揮してゆきます。

 

 

プロフィール

氏名:関根尚(せきねひさし)
所属:埼玉県央広域消防本部鴻巣消防署川里分署
出身地:埼玉県鴻巣市(旧川里村)
消防士拝命:平成6年
救命士合格:平成19年(ELSTA東京第31期)
趣味:楽器演奏、読譜
主張
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