近代消防 2025/03/15 (2025/04月号)p51-3
目次
1.はじめに
メディカルコントロールである済生会宇都宮病院の講義や合同訓練の元、ここ2~3年で心肺停止患者に対する活動は早期医療機関搬送から現場で蘇生を目指す活動へと変化してきています。その中で質の高い心肺蘇生と胸骨圧迫比の向上も求められてきました。当本部は病院まで長時間を要することが多いため、自動胸骨圧迫機は現場に欠かせないアイテムです。
自動胸骨圧迫機の欠点として装着時には胸骨圧迫を中断する必要があります。今回はこの装着時間を最小限とする方法を紹介します。
2.従来の方法(動画001)
動画1に従来の方法を示します。
ストレッチャー上に背板を設置し、傷病者移乗後LUCASをストレッチャー上で装着します。ただこの方法では、ストレッチャーに乗せるまでの間に胸骨圧迫を行えない時間が生まれてしまいます。
従来の方法
3.新しい方法
傷病者が倒れているその場でLUCASを装着する、もしくは搬出までの間にLUCASを装着するものです。
(1)背板を脇から刺し込む方法(動画002)
LUCASはあらかじめ組み立てておきます(001)。
LUCASのアーム片側のみを外します。傷病者を少し浮かせ、背板を背中に滑り込ませます(002)。
LUCASのアームを自然に広げた状態で、目指す場所にピストン部分を運びます(003)。
完成です(004)。
説明書に書かれた装着方法では約7~8秒のところ、この装着方法では約4秒。わずかではありますが装着時間の短縮につなげることができました。
この方法のメリットとしては装着時間の短縮だけではなく、あらかじめ組み立てておくことにより運搬する資機材の数が減ること、背板を指しこむだけなので装着ミスが減ることが挙げられます。デメリットとしては傷病者の首への負担、推奨外の装着方法であることです。

001
LUCASはあらかじめ組み立てておく

002
LUCASのアーム片側のみを外す。傷病者を少し浮かせ、背板を背中に滑り込ませませる

003
LUCASのアームを自然に広げた状態で、目指す場所にピストン部分を運ぶ

004
完成
(2)背板を腰から滑り上げる方法(動画003)
傷病者の下肢または腰を持ち上げてます(005)。
背板を背板を傷病者の腰に差し入れます(006)。
腰でLUCASを組み立てます(007)。
傷病者の上半身を持ち上げLUCASを所定の位置にセットします(008)。
装着時間は約4秒です。
メリットは装着の容易さと装着時間の短縮があります。デメリットとしては、背板を滑らせることから、滑りにくい床では余分な時間がかかる可能性があります。

005
傷病者の下肢または腰を持ち上げる

006
背板を背板を傷病者の腰に差し入れる

007
腰でLUCASを組み立てる

008
傷病者の上半身を持ち上げLUCASを所定の位置にセットする
4.現場で行うと
訓練では装着時間の短縮化を実感することができましたが、現場ではそううまくいくことばかりではありませんでした。ZOLLのデータを帰署後に確認してみると当隊が設定している胸骨圧迫中断時間である10秒を超えているデータもあり、すべての傷病者に対してLUCASを素早く装着できているというのは錯覚であることがわかりました。傷病者のいる場所や、態勢、スペースなどによりLUCAS装着に影響を及ぼすこと、また傷病者の体格なども考慮しなければなりません。
装着方法を1つに絞るのではなく、いくつか装着の引き出しを持っておくのも重要であることもわかりました。
5.終わりに
今回は装着時間の短縮化を方法を紹介しました。しかし、装着時間をどれだけ短縮したとしても全体の胸骨圧迫比の向上につなげることは難しいということも感じました。
胸骨圧迫比の向上には隊の意識づけ、LUCAS装着短縮化や胸骨圧迫中断の10秒ルールの徹底、特定行為の手技向上などが重要だと改めて感じました。今回のLUCAS装着法の研究発表が全国または世界中の救急隊のなにかヒントになり、救命率向上・社会復帰率向上につながればと思います。

名前:鈴木 大道(すずき ひろみち)
所属:塩谷広域行政組合 塩谷消防署
出身:栃木県塩谷郡高根沢町
拝命:平成30年
資格:平成29年
趣味:サッカー、キャンプ、旅行

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